第143回タスクフォース21
2021.2月例会

講演録

これからのLPガス産業の展望

講師:経済産業省 資源エネルギー庁 資源・燃料部 石油流通課 企画官 橋爪 優文

はじめに(LPガス産業の長期的な課題)

 今日は「LPガス産業の展望」というテーマでいくつか見通しなどをご説明させていただきます。

 LPガス産業にはいくつかの課題がありますが、長期的な課題として私は4つを挙げさせていただきました。1つ目は長期的なLPガスの需要の減少があるということ。2つ目は経営者の高齢化による事業継続の困難、後継者不足という問題。3つ目には、以前から取り組みが行われていますが、取引適正化、料金透明化の問題があります。

 4つ目に、最近の話題として2050年のカーボンニュートラル実現の要請があって、これにどう対応していくかという課題があります。それと、今回は触れませんが、慢性的な人手不足という課題もあると思います。

LPガス需要と事業者の減少

LPガス需要と事業者数の減少

 LPガスの需要と事業者の減少は相関関係があるので、まずこれについて説明をしていきたいと思います。

 LPガスの需要は、皆さんよくご存知のとおり、長期的には減少してきており、近年は大体1,400万トンくらいで推移しています。2020年はコロナの影響もあって、おそらくは例年より1割くらい減少してくるのではないかと見ており、2021年度には1,200万トンくらいになるのではないかと思っています。

 長期的に減少している理由は、これも皆さんは肌感覚で分かっておられると思いますが、やはり地方での人口減少がある。もう一つは、省エネ機器とか、ハイブリッドLPガス自動車、ジャパンタクシーなどが普及してきているので、LPガスのユーザー数は減らなくても、そこで使われるLPガスの量が減ってきています。

 また、オール電化や太陽光発電住宅がそれなりに増えていることもあって、トータルでLPガスの需要が減ってきているわけです。

 LPガスの販売事業者はかつて3万者とも、4万者以上あったとも聞きますが、以前から徐々に事業者数は減少してきていて、大体年間で200件から500件くらいのペースで減っています。

その理由はいろいろあります。需要減もあると思いますが、最近の需要が1,400万トンくらいで推移していたことを考えると、必ずしも需要減だけの理由ではないなという面があって、それが実は後継者不足だと思っています。

世帯別エネルギーの変化

 レジュメには世帯別の大きな変化と書いてありますが、日本の一般住宅での熱エネルギー内訳を見ますと、LPガスを燃料として使っている世帯は2013年度には44%くらいありましたが、2019年度には38%まで縮小しています。大きく増えてきたのはオール電化世帯で、9%から16%くらいへと増えてきています。

 一方、都市ガスの世帯はそんなに変わらない。1%くらいしか変わっていなくて、シェアが食われたのはもっぱらLPガスの世帯になっている状況です。

 オール電化にシェアを食われている理由はいろいろ考えられますが、多分LPガスは料金がどうしても都市ガスより高いので、オール電化、太陽光発電を入れていくイニシャライズコストをみたときに、………本文の続きを読む>>>

事業規模拡大、料金透明化、脱炭素化……LPガス事業者が進む道とは?

対談:橋爪優文 氏 × 角田 憲司 氏

地域で事業規模を拡大する価値とは

 角田氏: 本日は広範にわたり、丁寧にお話いただきありがとうございました。大変参考になりました。まずLPガス需要と事業者の減少について、同規模事業者の対等合併による事業規模拡大の事例をお話いただきました。

 消費者の立場からすると、事業規模が拡大されればそれだけ安定します。つまり、必ずしも地元の中だけでなく、大手が引き取るかたちでも、結果として事業規模が大きくなるわけですから、それでもいいのではないかという声が出てくるかもしれません。なぜ、小さい事業者同士が合併することに意味があるのでしょうか。仕入れ先への事業譲渡と、同規模事業者で対等合併することに、どういった違いがあるのでしょうか。

また「本当は会社を続けたい」と思う経営者の選択の一つとして、皆で一緒にやるということになると思うのですが、こういった動きを推奨するために、石油流通課として、新たな後押しや支援策はあるのでしょうか?

橋爪氏: 消費者の目から見たとき、地元の事業者である必要があるのかということはありますね。  ご紹介した秋田県湯沢市の事例では、地域住民にとって、大手ではなく、顔の見える関係の地元の事業者が残り続けることに安心感があるのではないかと結論づけています。この思いというのは、合併して残った側の企業の思いやモチベーションであって、消費者がどう思っているかは、正直定かではありません。

 ただ私は、経営者が合併をしなければいけないと腹をくくるときの思いとして、大事なことなのではないかと思っています。結局、経済的な話だけではないのですよね。残すにしても苦労が続いていきますから、いっそどこかの会社に“身売り”することが、現実的な解決策であることも当然ある。

 それに対し、経営者の方がどういう思いなのかは、当人にしかわからないですし、それをよしとしない方々ももちろんいらっしゃいますが、一つの出口として、「こういう方法がありますよ」とお示ししていきたいと思っています。

そして、地域の会社同士が合併して残っていくほうが、自治体との連携やコミュニケーションも深まっていくと思います。東京の大会社に引き取られることも、それはそれで意味のあることかもしれませんが、最近は防災協定をしている会社などもありますし、地域の会社であり続けることが、連携やコミュニケーションを深めると思っています。
これは“LPガス販売”とはまた別の観点かもしれませんが、………本文の続きを読む>>>

「脱炭素化」がLPガス業界に与える影響について

講師:エネルギー事業コンサルタント・中小企業診断士 角田 憲司

動画ダイジェスト版

排出量実質ゼロ(ネットゼロエミッション)とは

 橋爪企画官から脱炭素化について講演がありますが、私のほうからはその前段として、どういう課題であるのか少し整理してお話したいと思います。

 まず、排出量実質ゼロ(ネットゼロエミッション)とは何を意味するのかです。LPガスは、ほとんどが非電力の分野になります。まずはやることとしては、徹底して省エネをする、そして電力化していくという動き。一番わかりやすいのは、自動車ですね。ガソリン車を電気自動車に変えていく。当然、エネルギー源は電気になるわけです。同様に、家庭用、産業用も電化していくことになります。

 電力については、脱炭素化したゼロエミ電源に変えていく。そしてガスエネルギーについては、ガスそのものの脱炭素化を目指すということになります。その中で、もしLPガスが生き残るとしたら、グリーンLPガスです。これはCO2排出ゼロの世界で生き残っていくLPガスです。

 それでも調整力など、どうしても残る部分が出てくる。ここをゼロにするわけにはいかないのであれば、ネガティブ排出技術で相殺し、実質ネットゼロを目指します。つまりネットゼロとは、“完全ゼロではない”という意味です。

都市ガス業界の対応

 カーボンニュートラル宣言が出るまでの都市ガスは、2030年に26%削減、2050年に50%削減というモデルがありました。それに合わせて、最初の30年は徹底した低炭素化、その後に脱炭素化に向かう。海外貢献もしながら、カーボンオフセットをうまく取り込んで補っていこう……という絵を描いていました。

 ところが、2020年のカーボンニュートラル宣言によって、変わってきました。どう変わったかというと、低炭素化と呼ばれる期間が非常に短くなっています。低炭素化というより、脱炭素化への移行期間という意味で、「トランジション」という言葉が使われるようになりました。都市ガス業界も技術開発し、脱炭素化するまでの期間を低炭素化ではなくトランジション段階と表現し、シナリオを描いています。

 すでに研究会や審議会で発表されていますが、都市ガス業界は2050年に向けたロードマップを描くところまできています。とりわけ、2030年に向けた取り組みについては、極めて詳細に出していくということです。

 都市ガスの脱炭素化のキーテクノロジーは「メタネーション」という技術です。お話を聞いている皆様は、すでにメタネーションやプロパネーションについてご存知かと思います。

 メタネーションは、化学反応でメタンをつくり出す技術です。これは最近出てきた技術ではありません。もともと天然ガス化をする際、LNGが間に合わないとき、石油系の原料から化学反応で天然ガス代替のメタンをつくっていた時代がありました。ですから、それを考えると、そこまで難しい技術でありません。

 発電所やゴミの清掃工場などから出てきたCO2を回収し、太陽光などの再エネの電気でつくった水素と合成をします。それを都市ガス導管網で送っていけば、………本文の続きを読む>>>

LPガス業界における新たなビジネスの価値創造について

講師:KDDI株式会社
   IoTイノベーション推進部長 西山 知宏
   IoTイノベーション推進部 営業2Gグループリーダー 藤住 秀雄

動画ダイジェスト版

KDDIのビジネス戦略について

KDDI全社の取り組み

 KDDIで法人のお客様向けのIoTビジネスを担当しております西山です。「ガスプラットフォームサービス」のご紹介については、後ほど、同サービスを担当している藤住よりお話させていただきます。

 まずはKDDIのビジネス戦略についてお話したいと思います。KDDI全社の取り組みとして、「通信とライフデザインの融合」を実現し、さらなるお客様の体験価値の向上を目指しています。弊社の基盤である通信サービスをご利用されているお客様に対して、教育や金融など、通信以外の多様なサービスをオンライン、オフラインを組み合わせた接点を通じてご提供する。さらにポイント付与や、決済プラットフォームを組み合わせることによって、新たな価値を生み出す。これらの取り組みにより、お客様に一番身近に感じてもらえる、ワクワクを提案し続ける会社を目指しています。

 その結果として、弊社サービスを長くご利用いただき、ユーザーをしっかりと囲い込むことにつながっていくと考えています。

 また法人のお客様へは、お客様を知り尽くし、徹底的に議論し、ニーズを把握し、課題を解決するということに取り組んでいます。これまではスマートフォンや固定電話、企業内ネットワークなど、通信サービスをご提供し、ご利用いただいておりましたが、それがどんな用途で使われているのか、あまり踏み込んでお話を聞けていませんでした。

 昨今では、それを改めて、お客様の業務を理解し、課題解決に貢献するアプローチに変化しています。コンサル業務を強化して、お客様のビジネスにかかわる営業や店舗運営、商品開発、生産、物流など一連の業務を把握した上で、IoTやクラウド、アプリ開発、データ活用、auユーザーとの連携など弊社が持っているサービスやアセットを活用いただき、課題解決につなげる取り組みを行っています。

お客様のDXを徹底的にサポート

 最近、DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉がよく聞かれるようになりました。環境変化に対応するため、ビジネスの変革が求められるということになります。この実現のためには、クラウドやモバイルといった基盤となるITプラットフォームを活用し、その上で、AIや5Gなど新しい技術を活用することによって、新しい価値を付け加え、生み出すことだと言われています。

 もともとは少子高齢化、グローバル化などの社会環境の変化に企業が対応するため、DXの必要性が唱えられていました。近ごろは新型コロナウイルスの影響によって、ますますその必要性が高まってきています。
ガス業界の皆様におかれましても、人手不足による検針員の確保などの課題があったかと思います。新型コロナウイルス感染拡大によって、お客様宅への訪問による営業活動といった機会が減るなど、新たな課題が出ているのではないでしょうか。

 コロナ影響によって、お客様とどう接点をつくるかということは、ガス業界のみならず、多くの業界・業種で急務となっています。コロナによって、今まで重要な接点だった訪問や対面が減少していく中で、ネットやアプリ、コールセンターなど、さまざまな接点を駆使し、リアルとデジタルを組み合わせ、さらに顧客接点を強化していくことが求められています。今までの強みだった訪問や対面を活かしつつ、さらにネットのポータル、アプリといった新しい接点を増やしていくことが大事になります。

 通信会社であるKDDIでは、個人のお客様向けのビジネスにおいては、通信サービスを中心として、その周辺にさまざまなサービスを組み合わせることで、お客様の体験価値を高めてきました。法人向けのビジネスにおいても、そのノウハウを活用して、お客様のお客様であるエンドユーザーの体験価値を高めることにより、法人のお客様との関係を強化していきたいと考えています。

KDDIの強み

IoTの実績・経験

 続いて、これらの取り組みにおけるKDDIの強みをご紹介します。1つ目はIoTの実績と経験、2つ目は通信以外の価値を含めた一括提供、3つ目はお客様とのビジネス共創です。

 まずIoTの実績と経験についてご説明します。弊社では、約20年にわたりIoT、つまりモノのインターネットに取り組んできています。これまでに取り組んだものは、セキュリティや自動車、スマートメータ―などさまざまな用途で使われています。これらを提供していく中で、………本文の続きを読む>>>

ガス業界におけるLINE公式アカウントを活用した販売促進・需要家とのコミュニケーション強化~ガス業界のDX化に向けて~

講師:株式会社クラブネッツ ガス・エネルギー推進部 部長 出野 将弘

動画ダイジェスト版

はじめに

 本日は、ガス業界のDX化に向けて、LINE公式アカウントを活用した販売促進・需要家とのコミュニケーション強化についてお話させていただきます。

 クラブネッツのことを初めて知る方もいらっしゃるかと思いますので、簡単にご紹介します。クラブネッツは、一言で言うと、販促の仕組みやシステムに特化したIT販促の総合商社です。ガス業界だけではなく、全国の飲食チェーンや物販チェーン、サービスチェーン、プロスポーツチーム、自治体など、約3万件の事業者様が弊社のサービスをご利用くださっています。

 ガス事業者との関わりは、電力・都市ガス小売自由化のころから始まり、約4年経ちます。おかげ様で、全国のガス事業者500拠点以上でポイントカード、LINE販促を中心に弊社のサービスをご利用いただいています。

 タスクフォース21の会員会社様にも弊社のサービスを多数ご利用いただいております。この4年強の中で、ガス業界における販促の仕組みを提供する会社としては最大手とならせていただくことができました。この場をお借りしてお礼を申し上げます。

 2020年は、やはりコロナの影響で、お取引先のほとんどがガス展や感謝祭といったものを中止されていました。例年ですと、9~12月1週目あたりまで、ガス事業者様の法被やジャンパーをお借りし、社員になりきって、「当社のポイントカード会員登録はお済みですか?」というお声がけを全国で行っていました。

 手前味噌ではありますが、おそらくガス事業者のスタッフという立場の中で、全国の需要家様にお声がけをしてきた経験は、私が一番多いのではないかと思っています。本日はDXやLINEといったものを、横文字を使って難しくお話ししようとはまったく思っていません。私の経験も踏まえ、ガス業界のDX化についてお話ししていきます。

DXとは

3つのDX

 ビジネス誌や業界紙で「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉を見かけることが多くなったのではないでしょうか。わかりやすく言うと、ITの活用を通じて、ビジネスモデルや組織を変革することを言います。現在成長している企業は、必ずと言っていいほど、このDX化ができています。

 DXは、大きく3つに分けることができます。1つ目は“行動のDX”です。これは、まさに今の皆様です。通常、こういったセミナーに参加するには、セミナー会場まで行って、お話を聞いて、会場から帰ってくるという行動がありました。ですが、今日の皆様はいかがでしょうか。このセミナーを会社やご自宅で聞かれていると思います。パソコンの電源をつけ、ネットにつなぐことで、このセミナーに参加されています。その行為の中には、「行く」「帰る」という行動がなくなっていますよね。これが“行動のDX”です。

 2つ目は“知識のDX”です。代表企業を例にお話したいと思います。“知識のDX”で見事に成長を遂げている代表格がZOZOTOWNです。ガス業界ほどではありませんが、アパレル業界においては、デジタル化、IT化、DX化というものが非常に難しいと言われていました。

 理由としては、まずウェブ通販では試着ができないこと。そして、ウェブ通販では、どうしても単品買いになってしまうということです。これらを解決するには、ウェブ通販では難しいと言われてきました。もちろんウェブ通販でもS、M、Lとサイズが表示されています。それだけではなく、身丈や身幅も書いてあります。ですが「あなたのサイズは何ですか?」と聞かれたとき、S、M、Lのサイズなら答えられると思いますが、「身丈は?」「身幅は?」と聞かれても、答えられないですよね。しかも、ブランドによってS、M、Lのサイズ感が違います。

 ZOZOTOWNはこれらをどう解決したのでしょうか。カスタマーレビュー機能、レコメンド機能、マルチサイズプラットフォーム技術によって、多くの注文履歴を、機械的に学習させ、個人単位で最適な提案ができるような仕組みを構築しました。

 つまりどういうことかというと、たとえばコートを買ったとします。すると「このコートを買った方は、このバッグを買っています」と出てくる。さらに購入者のコメントもあり、お客様が不安なくお買い物ができる仕組みをつくったのです。これにより、皆様もご存知のとおり、ZOZOTOWNは急激に成長しました。………本文の続きを読む>>>