第154回タスクフォース21
2022.12月例会

講演録

エネルギーの地政学

講師:一般財団法人 日本エネルギー経済研究所 専務理事 小山 堅

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エネルギー需給ひっ迫と価格高騰

 エネルギーの問題は、国内外ともに、激動の状況を迎えています。ウクライナ危機の前から、エネルギー市場では需給ひっ迫と価格高騰が起きていました。2021 年の後半から、同時多発的に、すべてのエネルギーが一気に高騰したのです。原油価格しかり、天然ガスしかり、石炭や電力も史上最高値を記録しています。

 なぜこのようなことが起きたのか。まずはコロナ禍の反動です。谷が深ければ深いほど次の山が高くなるように、まさに2020年に発生した谷が極端に深かった。史上最安値が起きて、その反動で山が大きく盛り上がってしまったのです。

 その原因の1つが、供給余力の減少です。エネルギー市場で厳しい競争にさらされ、効率を追求してきた結果、供給余力はどんどんと低下していきます。それは、もう1つの原因である脱炭素化への取り組みがもたらす影響への関わりもあると思います。

 各地で起きた電力需給のひっ迫、電力価格の高騰のきっかけを見てみますと、いずれも自然変動型の再エネ、たとえば太陽光や風力が不調に陥って、発電が大きく下がってしまっていることがあります。このとき、供給余力が十分であれば問題はなかったのですが、それが不足していたため、需給ひっ迫と価格高騰が発生することになりました。

 そして、この原因の最後に加わったのが、地政学リスクであるウクライナ危機であります。アメリカのWTI原油先物価格を見ますと、2021年10月に1バレル80ドル、ウクライナに対するロシアの軍事侵攻が始まると100ドル、2022年3月頭には瞬間風速で130ドルを超えました。その後、100〜120ドル程度の価格が6 月くらいまで続きました。

 しかし7月以降、原油価格は下がっていく。これはまさに高価格とウクライナ危機の結果、世界経済が減速してきたことが影響しています。経済が減速し、世界の需要が減る。それに加えて中国のゼロコロナ政策の影響もあります。それらの結果として、原油価格がじりじりと下がっていきました。9月には80ドルを割り、2021年10月の水準まで戻ってきたのです。

 しかし、今回の危機において非常に問題だったのは、むしろ天然ガスの価格や市場だったと思います。原油価格が130ドルだった日、欧州の天然ガス取引価格は、原油換算で1バレる400ドル、8月末には約600ドルという信じがたい超高価格をつけています。

 なぜ、これほどまでにガス価格が高くなるのか。端的にいうと、天然ガスには基本的に供給余力がないからです。しかも、天然ガスの輸出においてロシアの存在は極めて巨大。欧州がロシアに深く依存していたがゆえ、欧州の価格が極端に上がってしまう状況をつくったといってもいいと思います。

 2021年のロシアからの石油輸出は、世界全体の輸出量のうち12% を占めており、第1位。ガスは輸出に占める世界シェアが世界の4分の1と、断トツの1位です。石炭においても、世界の18% を占めています。化石燃料全体で見れば、ロシアは世界で圧倒的な地位にある輸出国です。

 欧州がロシアにどれだけ依存しているかを見ると、石油32%、ガス54%、石炭48%。いずれも欧州からすると、ロシアが最大の輸入相手先になります。欧州だけでなく、世界全体にこの負の影響が拡大しています。だからこそ、この危機が起きてからは、エネルギー安定供給を守る、エネルギー安全保障を確保するということが、エネルギー政策にとって最重要課題に一気に浮上したのだと思います。

エネルギー安全保障の強化

 エネルギー価格が高騰したことによって、先進国でさえも補助金、あるいは政治的対応が始まりました。10月にはEUが補助金を導入すべく動き出し、………本文の続きを読む>>>

ガスとお湯の50年 機器の進化と今後

講師:一般財団法人ベターリビング 技術顧問 村田 幸隆

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はじめに

 皆様、こんにちは。「『ガスとお湯の50年』からガス事業を考える」の第2回目として「機器の進化と今後」というテーマでお話をさせていただきます。(一財)ベターリビングでアドバイザーをしている村田と申します。よろしくお願いいたします。

 まず自己紹介を兼ねて、私が、日本、とくに戦後の豊かなお湯のある暮らしに興味を持ち、資料を集めながらその発展についてどう考えてきたのかをご紹介します。

 私は長い間、東京ガスで機器の開発を行ってきました。その中で、風呂釜や湯沸器の設計にもかかわってきました。もちろん、それに対する興味もありましたが、日本文化の中で、とくにお湯の利用は、はるか昔の鎌倉時代、あるいはもっと以前から、人々の生活に深く根差していました。

 “江戸っ子の熱湯(あつゆ)好き”という言葉もあります。明治時代などには、外国の方が日本に来られたとき、とにかく驚嘆するくらい熱いお湯に日本人が入っているわけです。この“熱湯”というのは一体何℃なのだろうか。また、なぜ日本人はそんなに熱い湯に入るのだろうかという興味を持ったのです。

 実際に熱い湯に浸かる文化を持っているのは、世界でもおそらく日本だけです。それに気がついたとき、さまざまな文献を当たり調べていきました。

 皆様がお風呂に入るときは、何℃くらいにしていますか? おそらく、ほとんどの方が40~42℃くらい。たまに45℃くらいの方もおられますが、いまこれはとても危ない温度だと言われています。しかし、江戸っ子の熱湯は、実は45℃以上なのです。

 明治時代、大正時代になってもそれは変わりませんでした。さらに昭和になっても、それくらいの温度を好んでいました。そのことは、戦前の建築の設計図書にも書かれています。そのころのお風呂の設計は、45℃が基本になっています。これが戦後になると、41~42℃ほどになっていきます。いまはできるだけ41℃以下で、と言われています。

 このように、日本人が高い温度のお湯に浸かって暮らしてきた原因を探るところから始めて、お湯の文化について深く興味を持ってまいりました。それがベターリビングによる『ガスとお湯の50年』という本の刊行につながりましたし、小冊子『暮らしを変えたガスとお湯の物語』をつくったきっかけにもなったのかなと考えています。

 今日は、とくにコロナ禍後を踏まえて、ガスとお湯の50年における機器の進化と今後について、お話をさせていただきたいと思います。

 前回、神﨑編集委員長が、「ガスとお湯の50年」のプロジェクトと冊子について、またそれをどう利用したらいいかについてご紹介いたしました。第2回目となる今回は、機器の発展、暮らしの進化についてお話させていただき、なおかつ、これからお湯の利用の発展をどう考えていけばよいかについてご紹介いたします。

お湯利用機器の歴史と発展を振り返る前に

お湯の出荷統計

 お湯の出荷統計からは、次の4つのことがうかがえます。1つ目は、ガス利用の機器が圧倒的に多いこと。2つ目は、給湯は瞬間式が中心であること。3つ目は、………本文の続きを読む>>>

感染症後の鉄道事業・業界について

講師:京王電鉄株式会社 元総務部長 京王バス株式会社 元監査役 時津 孝之

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はじめに

 ご紹介いただきました時津です。私は1981年に東京の大手民鉄の一社、当時の京王帝都電鉄、現在の京王電鉄に入社して41年ほど勤め、先月に65歳で雇用期間満了により退社いたしました。この間、総務部門に12年、企画部門に10年、監査部門に14年所属していました。今日は感染症後の鉄道事業と業界について、少し話をさせていただきます。

 早速ですが、まず感染症後の現状について説明します。大手民鉄には16社がありますが、その認定は、日本民営鉄道協会が行います。JRは民営化後も民鉄とは見なされてはおりません。2018年4月、大手各社並みの規模を有する大阪市交通局が民営化され、大阪市高速電気軌道、通称大阪メトロとなりましたが、民鉄協に未加盟のため、大手民鉄の範疇には入っておりません。

 大手民鉄の連結営業収益は、感染症発生前の最後の1年である2018年度は8兆2,120億円。これに比べて、2021年度はマイナス23.8%の6兆2,591億円となっております。2020年度に比べますと、2021年度は全社が増益です。

 連結営業利益は、2019年度は全社黒字、2020年度は南海を除く15社が赤字、2021年度は東京メトロ、京成、西武の3社が赤字となりました。運輸業での黒字は、東武、阪急阪神、京阪の3社のみでした。なお、2022年度は全社が黒字予想になっています。JR本州3社も2022年度は全社が黒字となる予想です。

 連結当期利益では、資産売却等の対策による特別利益を計上した会社もあって、2021年度での赤字は東京メトロ、京成の2社のみとなりました。2018年と比べると合計で70%減です。2022年度予想は、前年度の特別利益の反動による減収はあったものの、全社が黒字予想となっています。

 鉄道収益だけをとってみると、2021年度は2018年度比25.2%減、輸送人員は23.5%減となっています。民鉄では収益と輸送人員はニアリーイコールですが、長距離路線、新幹線を持つJR本州3社は客単価が高いため、輸送人員は2~3割減でも、収益は4~5割減でした。

 もちろん個別に見れば差はあり、堅調な不動産業の比重が高いとか、グループに百貨店を持たない南海、相鉄、阪急阪神、東急の影響は比較的小さく、レジャー・ホテルの比重が高い西武は大きいといえます。ちなみに東急の収益の内訳は、交通が18%、不動産が24%、生活サービス事業5%、ホテル・リゾート5%となっています。

 西武は、交通が30%、ホテル・レジャーが31%、不動産14%、建設18%、その他7%です。西武は百貨店、スーパーを持っていません。堅調なスーパー事業を持たず、感染症の影響が大きいホテル業の比重が大きいため、感染症の影響を大きく受けています。西武のホテル業の収入は、感染症前に比べると50%の減少となっています。

 以上のように、鉄道各社は感染症により大きな影響を受けました。輸送人員は回復しつつありますが、すぐに元に戻ることはないでしょう。

鉄道の長期的課題

ICTの進歩

 しかし、感染症はきっかけに過ぎないともいえます。輸送人員の減少は、鉄道の長期的課題です。大きな要因は少子化であり、ICT・AIの進展による在宅勤務の進展です。

 すでに国内の人口減は始まっています。3大都市圏、とくに東京圏は転入超過が続いており、目立ってはいませんが、地方では人口が減り、鉄道の輸送人員は減ってきています。

 JR各社のローカル線は存続が喫緊の課題になっています。在宅勤務も以前からいわれていたことです。感染症はそれを一気に、劇的に進めたのであって、まったくの想定外ではありません。

 在宅勤務に限らず、ICTの進歩は従来の営業スタイルを………本文の続きを読む>>>