第157回タスクフォース21
2023.6月例会

講演録

第157回例会ダイジェスト

脱炭素についてあらためて考える

講師:環境エネルギージャーナリスト 本橋 恵一

動画ダイジェスト版

LPガスと脱炭素化

脱炭素化の流れは止まらない

 本日はよろしくお願いいたします。4月に書籍『脱炭素のビジネス戦略と技術がこれ1冊でしっかりわかる教科書』を出せていただきました。皆様のお手元にも届いているかもしれませんが、同じ話をするのも……と思い、いろいろとネタを考えてきたところです。

 日本では、“脱炭素”について、いまひとつ鈍いような気がしています。ですから、改めて脱炭素について一緒に考えてみてもいいのではないかなと思って、こういったタイトルにさせていただきました。

 まず言っておかなければならないかなと思うのは、脱炭素化の流れは止まらないということです。ですが、そのなかでもLPガスに代替するものはほとんどありませんし、日本の一次エネルギーの3%ですから、政府もそこまで急になくすことは考えないだろうなと思います。

 だとしたら、現在LPガス事業者様が得ている利益を、次にどこに投資すべきなのかということが、これから先、具体的にいえば2050年くらいまでに、会社がどう生き残っていくのか、どう成長していくのかという意味で非常に重要になってきます。

 LPガス事業者様の一番の資産が何かと考えると、やはりエンゲージメントです。確かに、これから脱炭素化が進んでいくと、いままでほどLPガスがたくさん売れるかといったら、そうではなくなっていくでしょう。しかし、お客様がほしいと思っているものはたくさんあるし、売れるものもたくさんあるわけです。そういったものを、お客様の立場になって売っていくことが一番大事なのだろうと思っています。

 たとえば、いきなり電気自動車を売ることは難しい。でも、充電器だったら売れるかもしれません。とくにEVの場合、そもそもディーラーがなくなり、ネットで買う時代になっていくかもしれません。そうなると、ますますEVについての相談相手になれるのではないでしょうか。

 2023年5月24日の日経新聞に「脱炭素目標、給湯器も対象」という記事が載っていました。皆様ががんばって普及してきたエコジョーズでも、ちょっと危ない。これからはハイブリッド給湯器に持っていかなければならないのではないか、というのが記事の内容です。

脱炭素化の大きな流れ

気候変動は間違いなく人間が原因

 こういうなかで、脱炭素化の流れはどうなっているのでしょうか。ウクライナ侵攻によりエネルギー代が上がっていることが話題になっていますが、その影で脱炭素に向けた大きな流れは止まっていません。

 気候変動については、よくわかっていないとか、大昔は暖かったのだから元に戻っているだけではないのかといったことを言う人がいまだにいます。今年になって国連環境計画(UNEP)と世界気象機関(WMO)によって設立された団体IPPC(気候変動政府間パネル)が第6次報告書をまとめました。このなかで、気候変動は間違いなく人間が原因であると断定しています。

 1850~1900年、産業革命の始まりくらいのころから、世界中の平均気温が1.1℃上がっています。たいしたことがないように思えますが、………本文の続きを読む>>>

グリーン水素製造水電解装置HydroCreator

講師:高砂熱学工業株式会社 CN営業推進室 担当課長 藤森 一真

動画ダイジェスト版

はじめに/会社概要

 本日は、「グリーン水素製造水電解装置HydroCreator」のご紹介をさせていただきます。まずは高砂熱学工業についてお話させていただきます。本社は新宿にあり、1923年設立、今年で100周年を迎えます。2020年には、皆様にもご覧いただけるような施設を備えた研究所「高砂熱学イノベーションセンター」をつくばみらい市につくりました。

 100年間、ずっと空調のことをやってきました。資本金は131億円、売上は3,000億円で、ほとんどが空調設備の設計・施工で積み重ねてきています。株式は東証プライムに上場していますが、いかんせんマイナーな業界のため、知らない方もたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。  事業は大型建築物向けの一般空調です。とくにクリーンルームのように工場できれいな空間をつくったり、地域冷暖房などになります。またエネルギー供給事業や省エネコンサルといった分野も広がってきています。

 全国の主要な拠点に支店を構えており、営業所がありますので、非常にお客様に近いところで事業をすることをコンセプトにしています。  「人の和と創意で社会に貢献」という社是のもと、経営理念のなかには品質、技術といった言葉が入っています。ずっと空調のことをやってきたため、非常に技術寄りの会社ですが、人材育成についても早い段階から注目しています。

 当社の歩みとしては、100年前に「高砂暖房工事」としてスタートしました。やはり当時は冷房というよりも暖房だったため、このような名前でした。三越呉服店園芸場に我が国初の観客席完全冷房を施工したり、国産冷房第一号を設置したりと、“日本で初めて”というものが多いです。国産冷房第一号は高砂荏原ターボ冷凍機です。これは高砂熱学イノベーションセンターで年2回くらい一般に公開するのですが、遊具のように見えてしまうのか、たまに子供がのぼっていたりして危ないので、柵で囲って展示しています。

 東京ドームに行かれたことがある方はご存知かと思いますが、出入口で非常に強い風が当たると思います。あれは中を陽圧にすることで屋根を支えているためです。そういったことにも、私どもの施工の技術を使っています。国内のドームはほとんど当社が手掛けており、まれにレフト方向にボールが飛ぶと、「高砂熱学工業」と書いてある柱が見えたりもします。

 そして、2020年に高砂熱学イノベーションセンターが竣工しました。ここには、お客様にも見てもらえるような施設もあります。研究棟は内容によって電気をつかうため、ニアリーゼブで運営しています。

各分野の取り組み

 次に、カーボンニュートラルに対する当社の体制です。研究開発本部にカーボンニュートラル事業開発部が入っています。研究開発本部はずっと技術寄りだったのですが、やはり次の事業の柱を見つけていかなければならないということで、事業開発の部門をつくりました。プロダクトアウトの研究が多かったのですが、マーケットイン的な開発を促していこうという考え方もあります。私はそのなかの営業推進室で、次にお話する大山は事業推進室の所属です。

 そして特徴的なのが水素技術開発室です。本日は、ここをどう事業につなげているかについて、お話したいと思います。
 皆様がとくに気になるのは「月面水素開発機能」ではないでしょうか?………本文の続きを読む>>>

低温排熱を利用可能な吸着材蓄熱システム メガストック

講師:高砂熱学工業株式会社 CN事業推進室 課長代理 大山 孝政

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「メガストック」の概要

 今日は「低温排熱を利用可能な吸着材蓄熱システム メガストック」についてご紹介させていただきます。
 まず背景と目的ということで、脱炭素社会の実現に向けた国内の状況です。皆様もご存知のとおり、日本は一次エネルギーをほとんど海外から買っております。民生分野、産業分野などで変換があり、最後に電気に変えたとしても、大半が熱としてロスしている実情があります。

 このとき廃棄されている熱の温度なのですが、200℃未満の未利用熱量が76%と非常に多くなっています。200℃以上の中温・高温の排熱は十分利用されているのですが、それ以下の排熱は用途が限定されており、使い勝手が悪いためほとんどが未利用になっているわけです。

 海外から買っているエネルギーですから、このあたりを有効活用することが、我が国のエネルギーセキュリティの面も変えていくことにつながるのではないかと思います。

 なかなか使い勝手の悪かった低温排熱を再生利用する環境技術として本日ご紹介するのが、オフライン熱輸送システムの「メガストック」です。
 たとえばゴミ焼却場、下水処理場、工場から排熱があるとします。その横に温水プールをつくり導管でつなぐといったようなことは、いままでもなされてきたことでした。そこで使い切れなかった熱は破棄されていることが多くなっています。

 オフライン熱輸送システムでは、工業団地や温水プール、物流センターなど、少し離れたところにも熱を運ぶということになります。また、少し大きめの事業所内で輸送して、排熱を利用するというシステムもあります。

 排熱が出ているところと、使いたいところのギャップがあることが課題かと思いますので、そこを埋めることができる技術が、このオフライン熱輸送システムとなっています。

 当社のメガストックという技術は、産業技術総合研究所様と一緒に開発したものです。産総研様のYouTube「かがくチップス」でもご紹介されていますので、ぜひご覧ください。

吸着材蓄熱システムの蓄熱・放熱の原理

 当社のこのシステムは、吸着材を使ったものです。通常の温水やPCMとは少し違ったものです。はじめに吸着材を使った蓄熱システムの蓄熱・放熱の原理をご説明したいと思います。空気中の水分の吸着・脱着を利用しており、これを繰り返します。

 吸着材は、身近なところでいいますと、ユニクロ様のヒートテックなどで使われているものと同じになります。自分の汗を吸って発熱するというものです。

 熱を出す側では、吸着材に水分を吸着させると発熱するので、その空気を利用します。ただこの吸着材に含むことができる水分量には限界があり、いずれ熱くなくなります。逆にいうと、吸着材に着いている水分を乾燥することができれば、繰り返し何度でも使うことができます。

 蓄熱の部分では、余っている熱を使い、………本文の続きを読む>>>

産業ユーザーの廃熱利用提案による省エネ、省CO2推進

講師:矢崎エナジーシステム株式会社 環境システム部 営業開発部 部長 石松 征弘

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はじめに/会社概要

 本日はこのような機会をいただきありがとうございます。産業ユーザーの廃熱利用提案による省エネ、省CO2推進について、事例を交えてご説明させていただきます。

 最初に、当社の紹介をさせていただきます。矢崎総業のメインは自動車部品なのですが、もともと電線やガス機器といった、自動車関連以外のものも製造・販売しておりました。自動車部品とその他のエネルギーに関わる製品をお客様別で事業を分けようということになり、11年前に矢崎エナジーシステム株式会社が発足いたしました。

 当社は4つの事業体から成り立っています。電線、ケーブル等を製造・販売している電線事業、ガス警報器やガスメーターなどを製造・販売しているガス機器事業、空調機器や太陽熱利用機器の製造・販売している環境システム事業、そしてタコグラフやドライブレコーダー等の計装機器を製造・販売している計装事業です。

 それではこれら4つの事業の歩みをご説明します。最初、矢崎総業は電線の販売からスタートしました。電線に関わるビジネスとして当時新たに立ち上がった自動車産業のワイヤーハーネスに目をつけ、そちらの製造・販売を始めます。当時、ワイヤーハーネスだけでは溶銅が余ってしまうため、一般電線の製造・販売の事業も同時に立ち上げます。

 その後、自動車メーターメーカーの労働争議により自動車メーターの供給がなかなか追いつかないとのことで、「矢崎でつくれないか」という話があり、自動車メーター事業を始めることとなりました。さらに自動車部品に関わるビジネスとして、いまではデジタルになっていますが、タコグラフを日本に導入し、計装事業をスタートします。

 自動車部品としてメーター類をつくっていたことで「ガスメーターもできるのでは?」とお声がけいただき、タスクフォース21会員の皆様のガス業界に入らせていただいたという経緯がございます。

 縁あってガス事業者の皆様といろいろビジネスをさせていただく中で、夏期に使用量が減少するガスを利用して冷房ができる吸収式という技術を活用し、ガス空調機を開発し、市場投入いたしました。

 この吸収式の技術は、熱を入れれば冷たい水ができあがるということで、その熱源として太陽熱を利用し、吸収式冷凍機で冷熱をつくる、世界初の太陽熱冷房システムを立ち上げました。これが現在の環境システム事業のスタートです。

 これらの自動車以外の事業を集め、矢崎エナジーシステムとして、「電気・ガス・太陽熱・石油などを基本とする多様なエネルギーを最適活用できる製品やサービスを提供することにより、地球を含む生き物にやさしい環境づくりに貢献する」というビジョンで発足しました。
 本日は、環境システム事業のなかで推進しております廃熱利用提案についてご説明いたします。

エネルギー基本計画における“熱”の活用

 現在、熱がどのように活用されているのか、エネルギー基本計画から見てみましょう。まず「コージェネレーション等による熱供給の効率化、さらには省エネルギーや燃料転換等により、熱を効率的に利用する」と書かれています。そして「これまで使われていなかった工場排熱等の未利用エネルギーを活用する」ということが2つ目です。

 3つ目は「熱エネルギーを供給するガスの脱炭素化」、………本文の続きを読む>>>

脱炭素ビジネス=熱ビジネス「これからの可能性を探る」

進行役:エネルギー事業コンサルタント 角田 憲司

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 6月例会では、エネルギー事業コンサルタントの角田憲司氏を進行役に、当日登壇いただいた皆様による意見交換会を行いました。

ビジネスの可能性を広げていく

角田氏:皆様のお話をもとに議論をしていきたいと思います。私も日本ガス協会にいたころから、羽村工場での実証に注目していました。メガストックは結構引き合いがあるのでしょうか?

大山氏:はい。とくに200℃までの高温度帯が使いにくいと課題にしているお客様が多く、年間100件くらいのお問い合わせをいただいています。

角田氏:このシステムならば経済性の壁をクリアできるでしょうか?

大山氏:多少の課題はあります。1回で運べる熱量と輸送人件費がポイントになってきまして、実際のところトントンくらいです。20フィートコンテナ1回分で削減できるエネルギー量は1~1.5万円くらい。でも、そのときの運転手さんのお給料にやはりそれくらいかかってしまうわけですね。1:1だと少し厳しいですが、1:複数にして輸送を効率化する、あるいは今後自動運転を取り入れられれば、輸送人件費を削減して熱供給のネットワークを組めるのではないかと思っています。吸着材自体も新たなものが出てきて、1回に運べる量が増えるかもしれません。自動運転と技術革新を合わせて、地域でネットワークを組めたらと思います。

角田氏:なるほど。地域脱炭素ということで、電力会社も、ガス会社も、自治体と連携協定を結んで動いてはいますが、自分たちが持っているシーズを何とか役立てられないかと考えてしまいがちです。もっと将来を見越して、新たなシーズを入れつつ広げていく提案はほとんどないのですね。それに対して、ヒントをいただけました。自治体にもよいシーズを与えていけば、うまくマッチングできるかもしれません。そして、矢崎さんといえば吸収式冷温水機のイメージですが、廃熱利用機との違いは何でしょうか?

石松氏:廃熱利用機のオリジナルは、おっしゃるとおり吸収式冷温水機です。当社の吸収式は非常に小さく、工場ユーザー様には不向きだったのですが、その後カーボンニュートラルの時代になり、空調ベースで考えると、工場の規模に応じた機器の大きさが必要になります。廃熱利用機ということになると、廃熱の規模に応じた機器が必要で、既存の空調機のベースロードを廃熱利用機で賄うことで省エネを提案できる。つまり小型の強みが活かせる分野だったのです。また吸収式をあまりご存知でない工場ユーザー様に「廃熱利用機ですよ」というと、すっと伝わるということもあります。

角田氏:原理的にはどうでしょうか?

石松氏:それは一緒です。ただ日本の空調では、冷水温度は7℃がスタンダード。ところが、工場のプロセス冷却だと12℃、15℃でもよいとなっており、冷水の温度設定の範囲を増やしています。温度が高ければ、それだけ能力もアップします。従来なら100%で頭打ちだったのですが、最大160%まで能力がアップし、できるだけ廃熱を飲み込めるような形に変更しています。

角田氏:吸収式は、経済性でなかなか電気に勝てなかったためどうなってしまうのかと思っていましたが、こうして技術的に開花していることがとてもうれしいです。ガス事業者の反応はどうでしょうか?

石松氏:日本の吸収式を引っ張ってくださったのがガス事業者様だったことは間違いありません。そして、いま私どもがご提案しているのは、ガスを販売する、あるいはピーク電力をカットするためのガス冷房ではなく、ガスのユーザー様の電気エネルギー量を削減するという形。………本文の続きを読む>>>