第165回タスクフォース21
2024.11月例会

講演録

第164回例会ダイジェスト

脱炭素時代に求められる住宅のカタチ 誰もが冬暖かく夏涼しく光熱費も安心に暮らせるために

講師:東京大学大学院工学系研究科建築学専攻 准教授 前 真之

動画ダイジェスト版

はじめに

 本日は皆様と一緒に「脱炭素時代に求められる住宅のカタチ」と題し、誰もが冬暖かく、夏涼しく光熱費も安心に暮らせるためにどうしていくべきなのかを考えていきたいと思います。本日お聴きの皆様はLPガス事業者の方々ということで、正直、私のお話の中にはお気に召さない内容も出てくるかもしれませんが、住宅をめぐる省エネについての動きなどをご説明するなかで、LPガスがどう世の中に役立っていけるのかということを考えるきっかけにしていただけると幸いです。

 日本は脱炭素化を絶対の目標として掲げており、2020年10月16日に当時の菅首相が所信表明演説で「2050年までに温室効果ガスを実質ゼロにする」と発言しました。それまで日本は、脱炭素化には熱心ではないといわれていたのですが、ここで政府が明確に意思表明し、目指すことになったのです。

 残念なことに、日本において脱炭素化はあまり肯定的に見られていない気がします。「ばかばかしい」「関係ない」という意見が圧倒的です。または反発して「うちの商売の邪魔をする気か」というものですね。LPガス業界はどうでしょうか、というところです。

 世界の標準的な考え方は、脱炭素化≒電化となっています。車などもそうですが、世界的にエレクトリファイドが大きなトレンドになっています。もしくは電気を化石燃料ではないものでつくるという非化石転換です。これらが脱炭素化の根幹なのです。こういう流れのなかで、LPガスは一番打撃を受けてしまう燃料といっても過言ではないかと思います。

 私は25年ほど住宅のエネルギーの研究をしていますが、日本で暮らす人たちのことを考えることが一番大事だと思っています。いってしまうと、家はエネルギー事業者の方々のためにあるわけではなく、暮らす人のためにあるものなのです。

加速するGXに向けた流れ

脱炭素≒電化・非化石転換

 政府が2050年に向けてGX(グリーントランスフォーメーション)を強力に推進しているなかで、脱炭素≒電化であり非化石転換と申し上げましたが、これを住宅に素直に落とし込むと、断熱+電気ヒートポンプ給湯・暖房+太陽光・蓄電池の3点セットが王道になり、極めて有効です。住宅の脱炭素化は、うまくやれば健康・快適で光熱費も安心な暮らしの実現につながると私は強く信じています。

 さらにそれを加速するため、国は2025年から住宅の省エネ義務化を始めます。また2027年からはトップランナー制度も強化します。これは新しく建つ家の半分にかかる規制で、アパートなどの賃貸も含みます。省エネが必須になり、加速していく流れが明確にあるわけです。

 こうしたなかで、戸建住宅においては普通に考えてやはり電化ということになるでしょう。太陽光が容易に設置できない、エコキュートが入らない賃貸住宅についてはどうなるのかということが残った論点です。学者の中では、スペースに余裕があり、太陽光も設置できる戸建住宅はこのままの流れでいいのではないかとなっていますが、そうではない賃貸住宅についてが、もっぱら議論されるところです。

 都市ガス事業者にとっても非常に厳しい状況なります。最悪、合成メタンという手もありますが、エネルギーロスも非常に大きいため、経済性を確保するのは困難ではないでしょうか。

 また電気は遠くの発電所で無駄に燃料を燃やしているため、コージェネでマイホーム発電することが有利だという話がありますが、これが近いうちに変わる可能性があります。工場などに適応される省エネ法ではすでに一次エネ換算係数が変更されており、発電にはそれほど燃料を燃やさなくてもよいと評価されています。いずれ住宅・建築物についても「燃料電池は系統電気に比べて無駄なく発電している」というメリットが小さくなってしまうことが予想され、………本文の続きを読む>>>

保護猫活動から生まれた「猫付きマンション」~地域貢献とビジネスの両立をめざす

NPO法人東京キャットガーディアン 代表 山本 葉子

動画ダイジェスト版

はじめに

 東京キャットガーディアンは猫の保護ケア、譲渡をする団体です。もう一つの大きな活動として、過剰繁殖を防ぐための手術に特化した病院などを運営しています。私は、このNPO法人の代表を15年ほど務めています。

 このような活動を長く続けてきていますが、猫を保護し、ケアをして、譲渡するという活動には大きなお金がかかります。

 行政からは補助が出ませんので、私たちは事業形態をとって運営しています。NPO法人は目的のために事業活動してもよいということになっているため、私たちは猫の保護に近い事業をいろいろと立ち上げています。

 メインの猫の譲渡事業では、里親になっていただく方には、一定のハードルとなる条件を付けた審査を行い、適正な飼育者のみに譲渡しています。そして譲渡する場合は、それまでその猫の世話にかかった費用の実費以下の金額を申し受ける形で、有償譲渡を行っています。この譲渡による収入が全体予算の8分の1くらいにしかならず、それだけではまだまだ足りないため、さまざまな事業を行っています。

 たとえばリサイクルショップの運営や、ペット保険代理店などがあります。これらは猫の保護活動・譲渡に近い事業です。猫好きの方や猫とともに暮らそうとなさっている方たちに、私たちが運営する猫のシェルターに来ていただいたり、里親になった方たちが必要とするものを無理なく購入いただいたり、保険に加入していただいたりすることで成り立っているものです。

「猫付きマンション」

試行錯誤を繰り返したシステムづくり

 そのなかで「しっぽ不動産」というものを立ち上げました。こちらはペット可の賃貸住宅の情報を集めたポータルサイトとして運営しています。本当は不動産事業をやりたいと思ったのですが、保護団体がそこまでやるのはなかなか難しいところです。

 そこでは、猫付きマンション、猫付きシェアハウスというペットウェルカム物件を紹介しています。また、猫付きマンション、猫付きシェアハウスを始めたときは、そのネーミングからペット雑誌などはもちろん、いろいろな媒体で紹介され、お問い合わせもたくさんいただきました。

 猫の保護団体にとって一番怖いのは、保護した猫がたくさん施設に溜まってしまうことです。そうなると、次の子たちを受け入れられない状況になってしまう。とはいっても、適正でない方にお渡しすることはできません。

 そういったなかで、スタッフや支援者様たちと試行錯誤しながら、とくに引き取り手が少ない成猫(大人の猫)の居場所をつくれないかということを考えてきました。

 費用もかからず、家庭での飼育に近い環境を用意できないだろうかという夢のような構想を、あるマンションオーナーの方に話したところ「やる」と言っていただいたのです。そこで始まったのが東京都文京区の20戸ほどの小さな「猫付きマンション」でした。

 猫付きマンションというのは、いわばシステム名です。最初は、たとえば303号室には茶色のトラ猫が住んでいて、その子のお世話をすることを条件にして賃借人が決まるというイメージのものを考えました。しかし、これだと賃借人さんが変わって、次の方が決まるまでの間の猫のお世話や、部屋を決める際の部屋の内見もあったりして、知らない人が出入りするというリスクがあります。

 そういったことを鑑みて、賃借人が退去する際は、新しく入居者が決まるまでは猫を東京キャットガーディアンに戻してお世話をしつつ、………本文の続きを読む>>>

特別講演録「省令改正施行後の状況とガイドライン・省令の効力」

松山・野尻法律事務所 弁護士 松山 正一

動画ダイジェスト版

戸建住宅には規制が及ばない

 今回の省令改正では、戸建物件については、あくまでも消費者という部分に注目して記述が及んでいます。これに関連し、私のところにもいま、さまざまな相談が寄せられています。

 過大な営業行為の制限と設備費用のガス料金への算入禁止という部分に目を向けた場合、戸建の建物所有者については、規律は及んでいないということがいえるかと思います。そうすると、いま、この部分に着目して戸建物件の切替をどんどん進めているというガス事業者がいて、集中的に切替を行っています。建物所有者に対して2万円から5万円の一時金、あるいはクオカードペイを進呈し、安価なガス料金を提案した切替をブローカーも動員して大々的に行っています。

 この業者の場合、従来は戸建物件についての設備の残存価格の清算には応じていませんでした。その理由としては、消費設備は建物に付合していて建物の所有者の所有物になっている、あるいは消費者契約法9条によって業者の損害というものは発生していないということで、残存価格の支払いを拒否していたわけです。

 既存業者の方はその支払いを求めて裁判を起こしましたが、この業者はずっと勝ってきていました。ところが、そうした実績を振り払って、いまはとにかく残存価格を支払ってまで切替を行って、顧客獲得を優先しています。その方法として、消費設備のメンテナンス契約、設備貸与契約、そして解約清算金の設定といった内容の契約をいち早く取りつけて、戸建ての建物所有者の場合には、今回の省令改正の規律が及んでいないことを利用しているわけです。

 仮にそうやって切替を行い、切替後にガス料金の値上げをしていくということが行われるとすると、これはやはりおかしいのではないかと思います。そのような事例があれば、通報フォームに通報すべきではありますが、正面切って省令違反だということがいえない面があります。これは憂慮すべきだと思います。今後、戸建の切替対策は急務となるかと思います。

ガイドライン違反は省令違反

 規律がはっきり示された集合住宅についても、いまの段階でこのガイドラインの効力というものを一応抑えておいたほうがよいかと思います。

 ガイドラインの効力ですが、ガイドラインは法律ではないということがまず前提となります。したがって、法的拘束力はありません。あくまでも行政の運用方針です。しかし、行政が出しているということで、実務上は重要なルールであり、ガイドラインに従った行為が違法となることはありません。これは今回の省令改正だけではなく、一般的にいわれていることです。

 ガイドラインというのは、その分野の専門知識のある行政が考え方を示したもので、これを無視することはできません。したがって、裁判所も判断においてはガイドラインを重視します。ですから、法律ではありませんけれども、ガイドラインに従った行為を行う、内容を尊重することは必要です。

 ただ、今回のガイドラインと、そのもとになったパブリックコメントは、皆さんご承知のように、内容的に抽象的な部分が多く、たとえばどんな行為が過大な営業行為の制限に違反するのかということについては、具体的な内容が示されていません。こちらのほうで考えていかなければいけないというような状況にあります。ですから、ここでは基本の考え方を述べます。

 ある行為がガイドラインに違反するのかどうかの見極めは、ガイドラインで「原則として違法行為となる」というような表現で書いてある行為については違法行為となる、と考えるのが、………本文の続きを読む>>>