エネルギー業界ニュース

本橋恵一の「これからのエネルギー事業を考えよう」

本橋 恵一:環境エネルギージャーナリスト/コンサルタント・H Energy日本担当カン トリーマネージャー
エネルギー業界誌記者、エネルギーIoT企業マーケティング責任者などを経て、電力システムや再エネ、脱炭素のビジネスモデルなどのレポート執筆、講演などで活躍。著書に『電力・ガス業界の動向とカラクリがよーくわかる本』『図解即戦力 脱炭素のビジネス戦略と技術がしっかりわかる教科書』ほか。

連載61〜連載51〜60連載50:日本では見殺しにされるエコキュート連載49:Mobility Showは盛況だったけど連載48:寂しいCEATEC2023連載47:外資系はもっと地方のDXとGXを支援してもいいのでは?連載46:気候変動と電力需要連載45:脱炭素先行地域で考えたこと連載44:オクトパスエナジーは何がしたいのだろうか?連載43:大人の思い込みを疑え連載42:地域新電力を助ける連載41:脱炭素先行地域モデル事業は可能性の山連載31〜40連載21〜30連載11〜20連載1〜10

連載50(2023.11.21)

日本では見殺しにされるエコキュート

 エコキュート(自然冷媒ヒートポンプ給湯機)は、都市ガス事業者にとっては憎むべき相手かもしれないが、LPガス事業者にとっては微妙な存在だろう。
 ガス会社はこの間、エネファーム(家庭用燃料電池コージェネレーションシステム)の普及に力を入れてきたし、設置不可能な住宅に対しては、ガス販売量が下がることを前提にエコジョーズ(潜熱回収型ガス給湯器)を販売してきた。ただ、オール電化を望む需要家に対しては、エコキュートやIHクッキングヒーターを販売することもあった。そこが微妙なところだ。

 大手電力会社がこれまで普及に力を入れてきたエコキュートだが、ここにきてむしろ見殺しにされるのではないか、という雰囲気になってきている。
 エコキュートのエコとは、CO2排出量の少ない原子力主体の夜間電力を使ってお湯を沸かしていることと、ヒートポンプによって投入したエネルギーの3倍以上の熱を得られるということによる。
 一面では、大手電力会社が余剰の夜間電力の需要を開拓したということで、かつては電力会社の都合でもあった。それでも時間帯別料金で深夜の電気料金を安くすることができ、経済性があった。
 しかし、福島第一原発事故以降、原子力発電所の再稼働はさほど進んでいない。関西電力と九州電力、そして四国電力の3社にとどまっている。これでは、深夜電力はエコとはいえなくなっている。

 太陽光発電が普及拡大した現在、電気が余っていて、しかもCO2排出量が少ないのは日中だ。もちろん天気に左右されるし、雪の日は火力発電がガンガンに稼働している。
 とはいえ、一般的には、JEPXのシステムプライスは日中が安い傾向にあることはまちがいない。
 にもかかわらず、大手電力会社は、夜間電力が相対的に安い時間帯別電気料金をやめていない。正確には、夜間料金も上がっていて、時間帯別のメリットは少なくはなっているが、それでも夜間を安くしている。
 日中を安くしようと試みているのは太陽光発電の電気が余っている九州電力くらいだ。他に中国電力の春秋限定というのもあるが。
 大手電力会社にとっては、今なお、自社の発電所を稼働させるため、夜間の電力需要の方が大事なのだろうか。

 もちろん、日中の電力を使った方が、エコキュートはエコになる。最近のエコキュートは日中運転もできるようになっているし、とりわけ住宅用太陽光発電を設置した住宅では、なるべく太陽光発電の電気を使うというモードになっている。
 それでも、2023年度上半期は、エコキュートの出荷台数は減少している。2022年度に過去最高を示した反動だというのが、業界団体の説明だ。ZEHの普及で、市場はまだまだ拡大するという。だが、そこには前向きなメッセージは見られない。

 欧米では、政府がヒートポンプ式給湯器の普及に力を入れている。ガスボイラーよりも、ガス火力の電気でヒートポンプを使った方が効率的だし、しかもその電気はどんどん再エネにとってかわっているのだ。また、英国のように、いわゆる再エネ賦課金をガスの方が割高になるように設定し、電化を促進しているケースもある。
 こういった欧米の傾向に対し、ダイキンなど日本企業はヒートポンプ給湯器の輸出に精力的になっている。

 こうした状況を考えると、日本でももっとエコキュートを中心としたヒートポンプ給湯器の普及に力を入れてもいいように思える。業界団体は「市場はまだまだ拡大する」というのではなく、「気候変動対策として新たな市場も開拓する」くらいは言っていただきたい。さらに、エコキュートの日中運転が増えれば、再エネの出力抑制を減らしていくことができる。天気を考えずに、毎日日中運転に切り替えるだけでも、CO2排出の抑制効果がある。もちろん、取引市場で価格が安い日中の電気を、電力会社が時間帯別料金メニューで提供すれば、需要家のメリットも大きい。
 日本と欧米で異なるのは、住宅の規模だ。特に集合住宅では大きなエコキュートは設置しにくい。集合住宅用のエコキュートが開発されているが、さらに低価格で小型のエコキュートの開発が求められているかもしれないし、あるいは集合住宅向けのセントラル給湯向けのエコキュートが必要かもしれない。
 電気料金に補助金を出すよりも、こうした分野に補助金を出すべきではなかったかとも思う。

 結局のところ、日本ではエコキュートは気候変動対策としては注目されなくなってきている。ヒートポンプ関連でいえば、電力会社がさんざん導入してきたエコアイスはどうなのだろうか、とも思う。
 一方、欧米ではIHクッキングヒーターへの注目も高まっている。日本ではビルトイン式の高価な製品というイメージだが、実はカセットコンロサイズのものもあり、価格も安い。

 少なくとも欧米が電化を進めようとしているときに、日本の電化製品は先行している。にもかかわらず、日本市場では力が抜けた状態だ。うっかりすると、日本の先行者利益が失われることもあるだろう。
 それも結局のところ、大手電力会社がかつては自社の都合でエコキュートを普及させ、現在は自社の都合で見殺しにしている。そんな構図なのではないだろうか。

連載49(2023.11.7)

Mobility Showは盛況だったけど

 前回に続いて、展示会の話。
 今度は、東京ビッグサイトで開催されていた、Japan Mobility Show 2023(以下、モビリティショー)に足を運んだ。
 行ったのは一般公開日で最終日でもある11月5日の日曜日。かなり盛況で、展示車の運転席に座るだけでも、長い行列ができていた。
 カップルや子連れで来ている人も多かった。入場料は確か3,000円だったと思う。遊園地よりもはるかに安く、子どもも楽しめるイベントだったとは思う。
 これまで、東京モーターショーという名称だったが、コロナ危機での開催中止をはさんで、名称を変更してのスタートとなった。

 ひょっとしたら、平日に来たら印象は変わっていたかもしれない。どうなのだろう。それは保留事項としておこう。
 その上で、ではモビリティショーが収穫の多い展示会だったかといえば、そうではないだろう。本当に申し訳ないのだけれど、自動車の未来を見ることはほとんどできなかった。
 海外のメディアでも取り上げられていた、いすゞのEVバスは全体が低床となっていて、すごく乗りやすそうだったし、これは評価してもいいと思った。今の路線バスって、後部の座席がすごくのりにくいでしょ。
 それと、一部の部品メーカーというのかな、そうした会社は、EV時代の生き残りをかけて、明確な方向性を打ち出していたと思う。自動車業界にあっては、パナソニックですら部品メーカーの位置にあるが、そこで示されたスマートカーのための設備は悪くなかったと思う。
 あと、後述するけど、アプリケーションには可能性がある。

 けれども、自動車メーカーの多くは、新しい製品というだけだったのではないか。EVであることは、いまさら売りにはならないとはいえ、その上でなお、ガソリン車でより快適な自動車を目指しているようだった。
 一方、中国のBYDが大規模な出展をしていることが話題になったけれど、これも正直なところ、BYDの本気さこそわかったけれど、日本市場に対するアプローチとしては十分ではなかったかもしれない。

 もっとはっきり言うと、今回の展示を通じて、未来が見えることはなかった。活況だったし、まだまだガソリン車が売れる時代なのだから、と言えばその通りなのだが。

 最近、東洋経済のネット記事で、最高益を出しているトヨタ自動車が、それでも礼賛できない理由として「EV周回遅れ」であることを指摘する記事があった。
 トヨタ自動車の利益というのは、残存利益であって、将来に向けての投資が必要ということなのだろう。そう思うと、今回のモビリティショーの活況もそこにかぶってくる。
 世界ではEVが急速に伸びているのに、日本の自動車会社は何をやっているのか、ということにもなる。

 とはいえ、では、今からEVに積極的に投資すればいいのだろうか。たぶん、それでも生き残ることができる会社には限度がある。そうであれば、ひょっとしたら自動車メーカーを辞めてしまうという判断もあるのかもしれない。富士フイルムやTDKのように。そもそもトヨタ自動車だって、元々は織機のメーカーだった。
 そして、そう言ってしまうことには、根拠がないわけではない。日本企業が提供するアプリケーションにはまだ未来があると感じたからだ。その細やかさは、ソフトウェアだろうとハードウェアだろうと、メーカーを問わずにインストールできるものであれば、いいのではないだろうか。
 それは、スマートフォンというハードウェアで競争するのではなく、スマホアプリで競争するということにも似ている。
 それに、そもそも、未来においては自動車というものの定義が変わるということも、考えなければならない。だからこその、モーターからモビリティへの転換だったはずなのだが。

 エネルギー業界も、短期的に最高益を出している。昨年までの原油高が石油会社に大きな利益をもたらしたが、今年度上半期は旧一般電気事業者が過去最高益となっている。もちろん、旧一般電気事業者の場合、燃料費が下がる一方、6月には値上げしたというずれが、利益となっているわけだが。でも、ちょっと距離を置いてみると、それは火力発電の残存利益だともいえる。
 EVになぞらえれば、洋上風力への投資を加速することが必要だろう。しかしそれだけではなく、電気事業の定義が「電気をつくって届ける事業」から「電気を安心して使ってもらえるように安定して運用する事業」に移行しつつあるのだから、提供するサービスも変わってくるはずだ。

 日本の自動車業界は、優れた反面教師だといえるだろう。

連載48(2023.10.25)

寂しいCEATEC2023

 先日、幕張メッセで開催されていた展示会、CEATECに足を運んだ。
 CEATECは、現在は情報通信やAIなどの展示会だが、かつては家電の日本最大の展示会だった。そのころと比べると、とても寂しい展示会となっていた。
 会場には、さまざまな先端技術を開発している大学の研究室やスタートアップの小さなブースが目立つ。DXを推進しようという社会の流れに応じた、多くの企業の出展もあったし、いくつかの企業の展示は、関心は主にエネルギー系ということになるけれども、多少はあったとはいえる。
 それでも、来場者は多いとはいえず、専門的な展示に対しては、なかなかこちらも受け止めきれなかった。

 家電の展示会だった時代は、日本の大手家電メーカーがこぞって新製品やまだそこにいたっていないコンセプトモデルを展示していた。
 すごい家電が見られるということで、会場には活気があったし、幕張メッセで使われている展示会場もはるかに広かった。

 未来の家電が見られる、というのはどういうことかといえば、未来の暮らしが見られる、ということだ。昔は考えられなかった暮らしが、手の届くところまで来ている、そうしたことが、展示会を活気づかせていたし、メディアももっと注目していた。
 しかし、やがて家電はだんだんと未来を見せることができなくなっていった。理由はいくつかある。日本が相対的に貧しくなり、高級家電が買えなくなっていったことがあるだろう。行き過ぎたプロダクトアウトの製品が、消費者にマッチしなかったこともある。その最たるものは、HEMSだったということは、筆者自身がかかわっていたこともあり、よくわかる。

 CEATECの展示で見た、最後のあだ花のようなものが、「自動洗濯もの折り畳み機」だった。たしかにシャツをたたんでくれる。でも、大きすぎる機器で、実用性はなかったし、そもそもそこまでしてシャツをたたむ必要はなかった。シャツは洗濯しなければ繰り返し着ることはできないが、たたまなくても着ることはできる。

 家電は人々の暮らしに夢を見せることができなくなってしまった。同時に日本の家電メーカーは凋落し、家電メーカーとしての東芝やシャープはすでに日本の会社ではない。むしろ、日本を代表するメーカーはアイリスオーヤマなのだろう。

 CEATECでは一時期、EVの展示が多かったこともある。EVというのは、電気自動車ではなく、走るスマホだと考えた方がいい。あるいは、走るプレイステーションだろうか。ソニーが考えるEVはそういうものだった。
 そして現在、EVの市場に、日本車がいるべき場所はない。ソニー/ホンダをのぞけば、走るスマホを理解しなかった、内燃機関の成功体験から脱出できなかった日本の自動車会社にとって、当然の帰結である。
 それはもっと言えば、日本の自動車会社は人々に夢を与えることができなくなっていった、ということだ。

 さて、秋はガス機器の展示会の季節だと思う。
 CEATECとは違うかもしれないが、それでも人々に豊かな暮らしを提案することができる展示会であってほしいと思う。身近な展示会だからこそ、少しでも手の届く先の未来を示すことができればいいのではないか。そんなことを思うのだ。

連載47(2023.10.11)

外資系はもっと地方のDXとGXを支援してもいいのでは?

 先日、あるセミナーに参加していた。たまには、GXとDXについて、外資系企業の話をじっくり聞いてもいいのではないか、そう考えたからだ。
 このセミナーで強く感じたことがいくつかある。

 まず、外資系の企業が、なぜ脱炭素先行地域モデル事業に参加していかないのかなあということ。たしかに、モデル事業での事業規模は小さい。しかし、モデル事業というように、これから電力業界のプレーヤーが変化し、新しい事業モデルを模索していかなければいけないということも指摘できる。おそらく、旧一電を中心とした大手が市場を支配できるのも、長くてあと10年だろうし、発電設備もその管理も分散型になるのだから、そういった方面にもっと力を入れてもいいのではないだろうか。そしてその経験が、海外を含めた次の市場でも生かされると思うのだが、どうだろうか。

 たしかに、外資系企業にとって、日本の自治体は入っていきにくいのかもしれない。しかし、地方自治体に入っていくことで、自治体にとっても、今以上に先進的なモデル事業ができるのではないだろうか。

 これはDX企業には限らない。GXしか考えていないような、いくつかの外資系の太陽光発電のデベロッパーにも同じことを感じている。それはつまり、いつまでもメガソーラーを開発していればいいというわけではないだろう、ということでもある。もう少し地域の脱炭素化に貢献していただきたいし、それもまた、持続可能な企業であるためには必要だと考えるのだが。

 それから、ちょっと視点がずれるのだが、環境価値をブロックチェーンで紐づけることにどのような意味があるのか、ということも考えた。こうした取り組みは、環境価値を資本主義経済における価値として定義づけるためのことでしかなく、実質的な環境保全にはあまり役立っていないのではないか、ということだ。

 必要なのは、全体として温室効果ガスが削減されているということと、個々の温室効果ガス削減プロジェクト(あるいは生態系保全もそうだが)が問題ないということを認証することだ。

 そもそもGXもDXも、世界の潮流を考えると避けられないことだ。20年以上前から、DXによって、電力自由化は歴史的に必然だった。気候変動対策としてのGXによって電源の分散化は不可避である。逆に言えば自由化やGXのためにDXがあるわけではなく、その逆なのだ。

 そして、そのことを改めて思ったのは理由がある。2008年に「電力・ガス業界の動向とカラクリがよーくわかる本」の最初の版を出したときから、これからの電気事業は「電気をつくって届ける事業」ではなく、「電力を安心して使うためにシステムを安定させる事業」なのだと考えていたからだ。ガス事業も公益事業として、同じ文脈にある。そのことは今も変わっていない。

連載46(2023.9.25)

気候変動と電力需要

 気候変動問題は、脱炭素とは別の文脈で、ガス事業者への影響がある。というのも、気温が上昇するほど、暖房・給湯のガス需要が減るからだ。
 そして、気候変動対策として電化が進んでいくとしたら、ガスそのものの消費量はますます減っていく。
 もちろん、ガス冷房という手段もあるのだけれど。

 ところで、9月18日の週、日本卸電力取引所(JEPX)のスポット市場の価格が、久々に50円/kWhとなった。この週の夕方は、新電力は50円で買った電気を35円くらいで売ることになる。もちろん、託送料なんかもかかる。
 実は、昨年から、卸電力価格が急騰しないように、電力広域的運営推進機関(OCCTO)は追加の電源を募集してきた。また、政府の指導で発電会社はLNGの在庫も積み増してきた。その結果、昨年冬から一時的な急騰(スパイク)は出なくなっていた。来年度以降は容量市場によって電源が確保されているので、ますます電源の不足は起こりにくくなる。
 ところが、その見込みが外れたということだ。

 松尾豪氏のツイート(Xとはあえて書いてあげない)によると、火力の定期検査の影響があるようだ。確かに電源が十分にあっても、検査中は発電しない。そして、検査は基本的に、電力需要が下がる春や秋に行われている。
 問題は、秋になっても気温が下がらず、電力需要が予想を超えてしまったことによるのだろう。ということは、電源を確保していても不足する可能性は小さくないし、残暑が厳しいほど、その可能性は高まる。
 思い出すのは、昨年3月、季節外れの厳寒と降雪によって、東京エリアで需給がひっ迫したことだ。このときも、定期検査に入っていた火力発電所が少なくなかった。

 電力需要もガス需要も気候の影響を受けるのであれば、それに応じた供給の見直しも必要となってくるだろう。今までと同じように電気やガスが使われるわけではない。

 とはいえ、このように卸市場価格が高騰すると、最近注目の系統用蓄電池の事業の採算性が向上する。日本では、太陽光発電がかなりの量がこれからも導入されていくので、系統用蓄電池も相当量の導入が必要となってくる。しかし、昨年冬以降、卸市場価格の変動は小さめで推移しており、なかなか採算がとりにくいのではないかと思われていた。そこにきてのスパイクなので、それはそれで、適切な電力設備を形成していくためには必要なものなのかもしれない。

連載45(2023.9.11)

脱炭素先行地域で考えたこと

 第4回脱炭素先行地域の募集が締め切られた。今回は縁あって、ある自治体の応募を少しだけお手伝いさせていただいた。そこで感じたことをいくつか。

 まず、補助金を取りに行くというモチベーションをどうするのか。よく、補助金が目的化している、という批判がなされるけれど、それはちがっていると感じた。補助金をとりにいくことで、地元を変えたいという思いが強くなる、というのはある。それはけっこう大事なことだと思った。

 とはいえ、補助金の先を考えるのは難しい。例えば、オフサイトPPAの場合は2MW未満という上限がある。したがって、小規模でつくるか、オンサイトPPAを選択することになる。でも、考えてみれば2MW以上であれば経済産業省の補助金があるので、最初に小さくつくって、それを発展させていけばいいことだ、という発想に立つことが大切である。

 先行地域なのだから、新しいことをすることが目的となっている。モデルをつくり、それを広げていくということなのだから。
 しかし、新しいことを理解するのは簡単ではない。どうしても、他と似た事業に落ち着いてしまう。住宅に太陽光発電と蓄電池を設置していくことは、コストがあわなくてなかなか進まないけれど、それを補助金で進めていくというのは、理解できる。特に電力フリッカ問題があるエリアで再エネを増やすには必要かもしれない。
 それはそうなのだけれど、やはり新味はないと思う。

 本当なら、例えば日本ではまだないコミュニティソーラーとかどうだろうか。そのやり方は一通りではないけれども、地域のエネルギーを地域住民で使うことができる。また、そのやり方を地元の企業まで広げることもできる。
 あるいは、地域独自の産業ならではの脱炭素化があると思う。ただし、地域の産業そのものも見直すことになる。例えば、酪農の場合、搾乳の時刻のシフトで、電気料金を節約できるのだが、現場はなかなか変えられない。ソーラーシェアリングでさえ、特産品を栽培する農家に理解してもらうのは簡単ではない。
 それに、再エネには関心があっても、省エネ事業への関心が低いことも気になっている。公営住宅や学校の省エネ化など、経済性では合わないけれど、地域住民の福祉の面で高い価値を持つ事業だってある。

 企画の作成から応募まで時間が少ないというのも感じた。でも、それは悪いことではない。一度つくってみて、再提出という形でいいのだろう。また、採択されたとしても、そのあとの方が課題は多い。地元の合意をとる時間がないまま採択されるとそうなってくる。でも、そこであらためて、地域に向き合うことになるのは、行政にとってもいい事だと思う。

 そんなことを感じたけれども、当然だけれど、LPガス会社はそこに積極的に加わってほしいと思う。そうでもしないと、中央の大手企業が利権を持って行ってしまう。
 そして、行政と一緒に、10年後、30年後の地域を考えながら、目の前の補助金をとっていくということになるのだろう。でも、それは自社にとっても、新しい事業を考える機会ともなる。例えば、バイオマス事業であれば、LPガスボンベの配送ネットワークを使って、バイオマス燃料の配送だってできる。

 次は第5回の募集がある。地域を考えるには、本当にいい機会だと思う。LPガス会社も地域を支える会社として前向きに取り組んで欲しい。

連載44(2023.8.21)

オクトパスエナジーは何がしたいのだろうか?

 最近、X(旧ツイッター)を見ていると、オクトパスエナジーの広告が目に付く(これは人によって違うと思うけど)。渋谷駅でもオクトパスエナジーの広告が目立っている。
 オクトパスエナジーにすると、電気料金は少し安くなるらしい。しかも、CO2排出係数はゼロになる料金メニューの方が安い。

 元々、オクトパスエナジーは英国の小売り電気事業者だ。日本進出にあたって、東京ガスとの合弁会社TGオクトパスを設立し、事業を展開している。
 何と言っても、タコのキャラクターが印象的だ。個人的には、このキャラだけでも、乗り換えてもいいとは思うけれども、一般的にはそうではないだろう。
 オクトパスエナジーの日本での展開に対して、日本経済新聞は、独自性が出せていない、と素っ気ない。

 オクトパスエナジーは、日本で何がしたいのか、何も伝わってこないのだ。安くなるだけでは、小売電気事業としてはもはや成り立たない。再エネ主力の電力会社は他にもある。ガス会社の資本が入っているにもかかわらず、都市ガスの販売は行わない。それでは、東京ガスでの電気とガスのセット割のほうがましではないか。
 まさか、サービス開始後、思うように顧客を集められなかったので、広告費を投入した、というだけではないだろう。

 オクトパスエナジーの英国での強みは、クラーケンシステムにあるという触れ込みだった。これは、柔軟な料金メニューの設定ができるというもので、このシステムだけで英国外に進出している、というイメージだった。
 しかし、これはおそらく、東京ガスの重大な過誤ではなかっただろうか。ちょっと調べればわかるが、オクトパスエナジーの魅力は、柔軟な料金設定などではなく、顧客にニーズにあった料金設定にある。通常の料金メニューに加えて、年間で価格を固定するメニュー、EV向け料金メニュー、再エネ100%だけではなく、ガスのカーボンをオフセットするサービス。しかも、アプリケーションでCO2排出削減を可視化できる。他にも、プリペイド型料金のように、英国では他の会社も取り入れているメニューもある。

 問題はオクトパスエナジーではなく、東京ガスが「何がしたいのかわかっていない」ということだ。それがわからないまま、広告費を投入するのは、単なる無駄遣いだろう。

 本来であれば、小売電気事業は(ガス事業もだが)、もっと顧客に寄り添った形で大きく変化する必要がある。そうであっても、英国では小売り電気事業者が困難な状況に追い込まれている。そうした厳しい環境でなお、生き残ろうとしている。
 こうした英国のオクトパスエナジーの経験は、都市ガス事業にも大きな示唆を与えるはずだ。極端に言えば、10年後は一般家庭向けのメインがオクトパスエナジーで、東京ガスはB2B専門の会社になっていてもおかしくないと思っていた。キャラクターにも本国の事業にもそれだけの魅力がある。
 しかし、そうした期待はもう持てないのかもしれない。

 最も、日本のエネルギー会社の広告を見ていると、JERAにせよJパワーにせよ、アンモニアで脱炭素を目指すのはいいけれども、約束できない未来を語っているにすぎず、目の前の顧客にどのような価値を提供してくれるのかはわからない。いや、東京ガスのメタネーションのコマーシャルですら同様だ。

 実は、オクトパスエナジーだけではなく、英国でいえばOVOエナジーなどの新電力や旧一電に相当するブリティッシュガス、あるいは米国のデュークエナジーやPG&Eなどを調べたことがあった。本当に小売り事業で様々な取組をしている。その中に、日本の小売り事業が学ぶべきことや新事業のヒントはたくさんあるはずなのだが。
 日本の会社は変えられないのだろうか。

連載43(2023.8.7)

大人の思い込みを疑え

 暑い日が続きます。今年の7月は12万年ぶりの暑さだったとか。地球温暖化を感じないわけにはいきません。もっとも、今なお、地球が温暖化していることを信じない人や、二酸化炭素が原因ではないと主張する人がいます。これには、どうしたものかと思います。

 ところで、夏といえば甲子園です。高校野球全国大会ですね。しかし、最近では、この暑さの中で試合をやることの是非が問われるようになってきました。屋外での運動は避けるべきだという気温の中で試合をすることは、もはや危険な水準だということです。
 これは、その通りだと思います。もはや、健全なスポーツだとはいえなくなっています。地方予選も含めて、これから見直されるべきことでしょう。

 ところで、高校野球全国大会、これまでも少しずつ変えてきたことがあります。ベンチ入りのメンバーを増やすことや、ピッチャーの連投を避けるため、大会に休養日を設定することなどです。また、延長戦になった場合は、10回からタイブレークとなります。ヘアスタイルも坊主刈りは減って、スポーツ刈りくらいにはなってきました。
 それでも、まだまだ変わるべきことが十分ではないとも感じます。

 高校野球は「高校」という名前があるように、学校を対象としたスポーツです。したがって、そこにはスポーツを通じた個人の育成という目的があるはずです。では、そうなっているのでしょうか。
 大会として考えた場合、選手の健康管理すら十分ではないと思います。少なくとも、ピッチャーの連投はありえません。将来を考えれば、ありえないことです。ロッテで活躍する佐々木朗希選手に対し、高校の監督が地方大会における決勝での登板を回避したことは知られています。こうした対応が、現在のプロ野球での活躍につながっていると思います。

 育成という視点で考えると、常に監督の指示で動くというのもどうかと思います。むしろ、選手がフィールドで判断すべき場合も多いのではないでしょうか。教育という点では、むしろ現場で判断できる選手を育てるべきでしょう。
 さらに、試合に出場できない補欠という問題もあります。3年間に一度も試合に出場しないというのは、アマチュアスポーツとしてもあり得ないことだと思います。海外では、補欠メンバーによるスポーツの試合もあたりまえです。
 トーナメント形式の大会も批判されています。地域の学校でリーグ戦をすればいいのではないか。結局、スポーツの楽しさは試合をするところにあります。
 それに、ついでに言うとヘアスタイルも自由でいいし、ドレッドヘアや茶髪や金髪でもいいのではないでしょうか。

 さらに少年野球に話を広げます。今は、ピッチャーはチェンジアップ(というか単純にゆるい球)以外の変化球は禁止です。宮本慎也杯という大会では、バントも禁止です。知り合いは、盗塁も禁止でいいといいます。野球本来の楽しさは、投げて打って走って捕るというところにあるのではないでしょうか。草野球の楽しさが少年野球には失われているというのは、よく言われることです。

 青少年のスポーツにまで話を広げます。元バレーボール日本代表の益子直美は、監督やコーチが選手に怒ることを禁止すべきだといいます。
 また、中学校以下では、全国大会をなくす動きもあります。

 高校野球に話を戻しましょう。
 本当は、全国野球大会は、甲子園球場でやる必要はなく、インターハイでいいのではないかと思っています。甲子園球場で大会を実施し、NHKによって全国放送されるというのは、高校野球を特別視しすぎだと思いますし、大人の幻想が入り込んでいるような気がします。
 そして、高校野球だけがそういった特別視されることで、選手の立場に立った改革がなされていないのだとも思うのです。
 その結果、選手が野球をすることをどこまで楽しんでいるのか、むしろプレッシャーの方が大きいのではないかとも感じてしまいます。
 その点、全国高校女子野球の方が、選手が生き生きとしている、という話を聞いたことがあります。

 ここまで、エネルギーに関係ない話をしてきました。
 でも、本当はそうではないのです。経営者や管理職の思い込みが、組織の成長を阻害しているということはあるでしょう。本来の目的を見失っているということもあるかもしれません。そうした中で、時代の変化に取り残されていることもあるでしょう。
 高校野球というのは、組織のマネジメントの上では、反面教師でもあると思います。

 高校野球が嫌いなわけではありません。というか、野球は観るのもするのも好きです。だから、すべての高校球児が、甲子園大会も含めて、野球を楽しんでくれたらいいと思います。

連載42(2023.7.24)

地域新電力を助ける

 最近、地域新電力の方々の話を聞いていて、不安に思うところがある。きれいごとだけで考えていて、本質をわかっていないのではないかということだ。
 小売全面自由化以降、地域新電力はいくつも設立された。そこには、エネルギーの地産地消と地域経済の循環という理念があったし、地域に対する想いもあった。けれども、実際には、昨年までの電力市場価格高騰で経営に大きなダメージを受けた。幸い、現在は電力の市場価格が落ち着いているので、利益を出せているのではないかと思うが、将来もこうした状態が続くとは限らない。

 地域新電力がダメージを受けた理由は、その多くが市場に依存していたからであり、地元の再エネといっても、FIT電源を特定卸供給という何の意味もない制度を利用して確保していたため、こちらもまた市場リスクがあった。非FITの電源や相対取引などを利用してリスクを回避できた部分は少なかった。また、相対取引やベースロード市場を利用したくても、決して安い価格ではなかった。
 そこで、非FIT電源を増やすということが、地域新電力の残された選択肢ということになる。しかし、本当にそうなのだろうか。

 地域新電力に求められるのは、地域の「エネルギー」を地域に供給することだけではない。そのことによって、地域にメリットをもたらす必要がある。そしてその方法は、再エネを増やすことだけではない。また、再エネの増やし方にもくふうが必要だ。
 さらに、電力システムを通じて地域にメリットをもたらすためには、電力システムの将来像を描くことができなくてはいけない。柔軟性(フレキシビリティ)を提供することも考える必要があるということだ。

 再エネも、自社開発だけではなく、ユーティリティPPAという方法もある。市民発電所とのPPAということもあるだろう。住宅の卒FITを集めることがすべてではない。
 地域新電力に求められるのは、地域の再エネ供給だけではない。経済的メリットをもたらすのだとすれば、省エネやDR(デマンドレスポンス)も不可欠だ。とりわけ省エネでは、住宅向けであれば、断熱リフォームをはじめ、照明のLED化や古いエアコンの更新などもある。エコキュートの運用もその1つで、太陽光発電がさかんな日中の運転が望ましい。
 事業所の省エネについても、やるべきことは多い。オンサイトPPAとセットで提供することも可能だろう。この場合、ピークカットは日中ではなく夕方になる。
 また、電気料金も時間帯別料金にするべきだろう。地域の非FIT再エネを増やすことは簡単ではないし、相対取引やベースロード市場の利用も限界がある。ある程度、卸取引市場や特定卸供給を利用するのであれば、日中を安くし、夕方からのシフトを考える必要がある。そこで、料金にインセンティブをつけることになる。

 さらに、今後はEVへのサービスも必要となる。EV充電設備の設置や運用も地域新電力の仕事ということになる。
 住宅用だけではなく、事業所や公共の場所への設置も増えるだろう。

 ここまで書いていくと、地域新電力がやるべきことは多い。しかし地域新電力にはそれだけの力があるかといえば、ほとんどないだろう。限られた人数で小売り電気事業を行ってきたというのが実情だからだ。
 そこで、いくつかのサービスを提供するために、他の事業者と提携することになる。そうしたとき、地域のLPガス事業者が担うことができる役割は、少なくないはずだ。
 共同でPPAを推進することや、住宅のリフォーム、エコキュートをはじめとする家電の省エネ化のように、住宅におじゃまして行うことは、LPガス事業者の得意とすることではないか。

 現在の地域新電力は、ピンチを乗り越えてきた存在だ。とはいえ、ピンチのあとにチャンスがあるといっても、単独でそれをものにするのは容易ではない。だからこそ、LPガス事業者にとってもチャンスなのではないだろうか。

連載41(2023.7.10)

脱炭素先行地域モデル事業は可能性の山

 筆者はある自治体の、脱炭素先行地域モデル事業の企画立案を支援している。そこで感じたことは、この環境省の事業は、多くの可能性があるということだ。同時に、予算措置がその可能性に対応しきれていないことも指摘できる。当たり前のことしか想定されていない予算の枠組みで、新規性のあることをしなきゃいけない。しかも、すでに第3次まで選考しており、だんだんと要求されるレベルが上がっているというのだが。

 地方を脱炭素化するにあたって、その地方の状況を調べていくと、地方ごとに様々な可能性があることがわかる。
 太陽光発電をとってみても、地方が抱える要件はさまざまだ。すでにメガソーラーなど大規模な設備が入っているところは、追加で入れることは簡単ではない。しかし、だからこそ蓄電池併設でさらに追加導入を目指すことができる。というのも、この追加導入こそ、全国に拡大するものだ。単なる系統用蓄電池というだけではなく、周波数の乱れに備えることもできる。
 温泉があれば、地熱発電は無理でも、熱利用はできる。温度によっては冷房までできる。
 工業団地全体の脱炭素化もチャレンジングだ。団地全体を対象としたシェア型PPAだって可能だろうし、団地内のマイクログリッド化も可能だ。

 エネルギーだけではない。地域ごとに抱える課題だって異なる。産業が異なるし、人口構成も異なる。地方都市と集落でも異なる。交通インフラだって違うのだ。
 畜産や養鶏の脱炭素化、EVバスの導入、カーボンゼロのサテライトオフィスの誘致など、いろいろ考えられる。

 きちんと問題意識を持てば、これまでのFITが、地域外の投資によって再エネ設備をつくり、地域外に供給し、地域外に利益を流出させていくものだったとすれば、今やらなければいけないのは、地域内の経済循環とエネルギーの地産地消ではないか、とも考えることだろう。実質的にFITが終了し、FIPに移行したのは、そうした変化だととらえてもいいだろう。

 そのはずなのだが、なぜか画期的な取組はなかなかない。むしろ、大手の事業者が地方自治体に提案し、予算獲得したあとはその事業者が事業を実施するという、FITとあまり変わらないような姿さえみえたりもする。
 もちろん、自治体が中心となって脱炭素化を進めるには、人材が足りないし、アイデアも足りないということはあるのだろう。

 さらに、「地域貢献」を社是としてきた旧一電もあまり協力的ではないときく。
 地域貢献といっても、とりわけ地方電力会社にとって、地域の経済成長なしには自社の成長がない、ということの裏返しであるはずなのだが、その電力会社は再エネが嫌いなのでなかなか積極的になれない、というのだろうか。たしかに、供給する電力量が減る事業を支援するのは、とりわけ現場の人には心理的にも難しいものがあるのかもしれないが。

 それでも、本質的にはさまざまな事業機会に国家予算が準備されており、地域を脱炭素化につくりかえることができるはずだ。同時にそれは、地域の課題解決にもつながる。
 EVバスの導入は、将来の自動運転導入も視野に入れた、交通インフラの改革となるし、サテライトオフィスの誘致は若い世代に働く場所をもたらす。
 農業や畜産業の脱炭素化もまた、次の世代に産業を引き継ぐことにつながる。ソーラーシェアリングは農業の高付加価値化につながるし、搾乳を日中にシフトすることは畜産業の労働環境の改善となる。
 再エネ導入がエネルギーコストを下げ、マイクログリッドが末端集落のレジリエンスの強化となる。
 温泉熱利用は、観光地の価値を向上させるし、その一方で自然環境の保全はエコツーリズムにつながる。
 工業団地ですら、大手企業のスコープ3の対策として脱炭素化が急務だが、だからこそシェア型PPAや団地全体のエネルギーマネジメントシステムの導入など、先進的な取組が可能だ。

 このように、脱炭素化はさまざまな機会につながっている。そしてその機会は、地域が抱える課題にある。
 再エネの建設場所がないとか、蓄電池だけでVPPをしたいとか、誰もが考えるような施策では、モデル事業にはならないが、視野を広く持てば、いろいろなアイデアが出てくるはずだ。
 本当は、旧一電も含め、地域のエネルギー会社こそ、その核心を担うべきだし、これまでのエネルギー供給事業からソリューション事業へのピポットともなるはずなのだが、どうだろうか。