エネルギー業界ニュース

本橋恵一の「これからのエネルギー事業を考えよう」

本橋 恵一:環境エネルギージャーナリスト/コンサルタント・H Energy日本担当カン トリーマネージャー
エネルギー業界誌記者、エネルギーIoT企業マーケティング責任者などを経て、電力システムや再エネ、脱炭素のビジネスモデルなどのレポート執筆、講演などで活躍。著書に『電力・ガス業界の動向とカラクリがよーくわかる本』『図解即戦力 脱炭素のビジネス戦略と技術がしっかりわかる教科書』ほか。

連載62:原子力のためのエネルギー基本計画連載61:キャッシュレスとDX連載60:ウクライナ、パレスチナとエネルギーの世代交代連載59:生物多様性と除草しない太陽光発電連載58:インターナルカーボンプライシングって何?連載57:カーボンクレジットの限界連載56:ボランタリークレジットとコンプライアンスクレジット連載55:カーボンニュートラルLPガスとカーボンクレジット連載54:今年の再エネのトレンドは24/7なのである連載53:グレイスラム連載52:みんなが集まるところに答えはない連載51:COP28とグローバルストックテイク連載50:日本では見殺しにされるエコキュート連載49:Mobility Showは盛況だったけど連載48:寂しいCEATEC2023連載47:外資系はもっと地方のDXとGXを支援してもいいのでは?連載46:気候変動と電力需要連載45:脱炭素先行地域で考えたこと連載44:オクトパスエナジーは何がしたいのだろうか?連載43:大人の思い込みを疑え連載42:地域新電力を助ける連載41:脱炭素先行地域モデル事業は可能性の山連載31〜40連載21〜30連載11〜20連載1〜10

連載62(2024.5.21)

原子力のためのエネルギー基本計画

 第7次エネルギー基本計画の策定に向けた議論がスタートした。エネルギー業界においては、それなりに注目することではある。でも、正直なところ、何かすごい計画が策定されるような気はしない。むしろ、民間においては、基本計画に惑わされずに事業を進める方が大事だ。

 今回のエネルギー基本計画では、およそ14年ぶりに、新しい年度の目標が設定されるはずだ。2010年の第3次エネルギー基本計画から2020年の第6次エネルギー基本計画まで、目標年度はずっと2030年度に設定されたままだった。さすがに今回は、2040年度の一次エネルギー供給と電源構成の目標が示されるだろう。
 とはいえ、CO2など温室効果ガス排出削減目標は、2035年66%削減となる見込みだ。では、2035年の一次エネルギー供給と電源構成はどうなるのか。おそらく示されないだろう。
 理由は簡単だ。経済産業省のメンタリティとして、温室効果ガスの削減目標にとらわれたくない、すなわち環境省に縛られたくないからだ。

 政策の方向もだいたい見えている。G7環境相会合で合意したように、「何の対策もとっていない」石炭火力発電所は全廃である。しかし、アンモニア混焼やCCSを行えば、運転は可能だ。日本の場合、CCSの適地は少ないので、メインはアンモニア混焼(一部専焼)だろう。
 原子力の新増設は2040年度には間に合わないだろうが、2050年カーボンニュートラルに向けて、推進の方向性が示されるだろう。関西電力美浜原子力のリプレイスと九州電力川内原子力の増設が視野に入ってくる。そしてSMR(小型モジュール炉)や高温ガス炉などの新型の原子力発電も準備されることになる。

 再生可能エネルギーについていえば、老朽石炭火力発電にとってかわるのが洋上風力発電だ。基本的には着床式の開発を進めつつ、浮体式の技術開発も行っていく。
 太陽光発電はペロブスカイト型を軸に屋根上などを充実させていくことになるかもしれない。

 2035年には新車は電気自動車かハイブリッド自動車ということになるが、2040年の段階では電気自動車が中心になってくるだろう。それだけガソリン需要は減少する。
 逆にデータセンターの需要増もあって、電力需要は伸びることになる。

 LPガスについていえば、残念ながら減少というトレンドは変わらない。2040年時点でLPガス自動車そのものが残っているかどうかもわからない。あとは、政府が欧米のようなオール電化を推進するかどうかということになる。
 エコキュートに代表されるヒートポンプ式給湯器は、日本ではかなり普及しているものの、まだまだ拡大の余地がある。ただし、日本のメーカーにとっては、より大きな海外市場の方が重要になっている。もっとも、あれだけ日本でオール電化キャンペーンをしてきたのに、海外では日本製よりも韓国製が登場することの方が多い。米国で使われている代表的なメーカーがLGだったりする。というのは、余談だけど。

 さて、ではこうした予想されるエネルギー基本計画のどこが問題なのか。
 最大の問題は、ちょっと難しそうな原子力発電と石炭火力発電のアンモニア混焼による脱炭素に期待しすぎることだ。再稼働さえ見込みの半分もできていない原子力発電にどれほど期待できるのか。建設コストが高すぎて旧一般電気事業者は建設する意欲がないとも言われている。アンモニア混焼もグリーンアンモニアの調達から燃焼時のNOxの抑制まで、課題が多い。
 そして、これらの技術開発に依存した結果、他の脱炭素政策が進まないことが問題となる。国境炭素調整によって輸出産業の競争力が弱められることや、そもそも産業立地で不利になることがあるだろう。国際社会の中で、脱炭素化が進まない国として、大いに批判を浴びるかもしれない。
 何より、産業の脱炭素化への移行が進まないことになる。

 ただでさえ、GXリーグのやっていることが、欧州から見れば周回遅れ、というか中国から見てさえ周回遅れの感があるのだから。
 したがって、日本の民間企業においては、エネルギー基本計画に惑わされず、世界の潮流の中で自社がどのような展開をすれないいのか、きちんと考えておくことだ。
 これは、LPガス会社も例外ではない。

連載61(2024.5.7)

キャッシュレスとDX

 世の中、DX(デジタルトランスフォーメーション)とGX(グリーントランスフォーメーション)を推進する声であふれている。GXについては、エネルギー事業者にとって極めて重要だし、取り組まないという選択肢はない。

 さて、DXの方はどうかといえば、何となく重要性はわかっていても、進まない、そう考える企業は多いのではないだろうか。中小企業ほど、DXのハードルは高い。例えば、顧客データの管理をきちんと行えば、マーケティングにも生かせるし、業務も効率化できる、と言われても、システム導入のコストはかかるし、スタッフがシステムになれる必要がある。だったら従来のままでいい、ということにもなってしまう。
 あるいは、経営者がDXと言い出しても、現場がついていかなかったりする、そんなこともあるのかもしれない。
 結論を言えば、DXは必要なところからやればいい、そう考えている。

 日本はキャッシュレスが進まない国だと言われている。隣の韓国に行くと、ほとんどのお店でクレジットカードなどがあたりまえで、現金を使うのは屋台くらいだ。
 海外旅行をすると、現金を使わないので、通貨の交換はほとんどしなくなっている。  その点、現金ばかりつかっている日本は、世界の潮流から遅れている、ということだ。

 しかし、本当にそうなのだろうか。むしろ日本は現金が便利すぎるということではないだろうか。
 例えば、スーパーには現金が優遇されているチェーンは少なくない。
 最近急成長しているロピアは、クレジットカードが使えないという。同じく安売りで有名なOKストアは会員だと現金で3%値引きする。Odakyu OXはクレジットカードだとポイントはつかないし、Ozekiでも現金はポイント2倍だ。
 スーパーに限らず、K’sデンキのように現金値引きを行う電器店もある。

 クレジットカードで決済をすると、店舗側はカード会社に手数料を支払うことになる。店舗や業種によって異なるが、だいたい1%~5%といわれている。また、現金が入ってくるまでに時間もかかる。
 それでも店舗がクレジット決済を可能にしているのは、顧客が買いやすくすることと、現金を扱わずに済むことによる業務の効率化のためだ。
 しかし、特に後者の場合、業務効率化するよりも、現金を取り扱う人件費の方が安かったら、経営者にとってクレジット決済を可能にする理由は減る。また、その分、値引きにまわすことで顧客を増やすこともできる。
 そうだとしたら、現金を優遇した方がいい。

 キャッシュレス決済には、他にも〇〇Payといったスマホ決済や交通系を含むICカードでの決済もあるが、いずれも限られている。特に〇〇Payは、手数料こそ低いものの、店舗にとってはレジでの手間がかかっており、時間的にはロスになっているのではないだろうか。
 特にカードもスマホも不要な現金は、犯罪が少ない日本ではとりわけ便利だともいえる。つまり、日本はキャッシュレスにするためのコストが相対的に高いということになる。

 だからといって、日本がこれから先もキャッシュレスにならないとは思わない。ただ、他国以上に便利で低コストにならないと、キャッシュレス化が進まないということだ。逆に、そうであっても現金を持ち歩かなくてすむので、それなりにキャッシュレスは進んでいるともいえる。

 政府のマイナンバーカード普及策が間違っているのは、マイナンバーカードの利便性を十分に伝えることができず、むしろ不合理さばかりが目立ってしまっているからだ。にもかかわらず、強制的に普及させようとするのは、反感をかうだけである。本当に便利なものになれば、強制しなくても普及していくはずだ。特に保険証の場合、プライバシーへの配慮を前提として、医療カルテの共有化は、けっこう重要になってくるはずだ。もっともそれもマイナンバーカードがなくても可能なのだが。

 これはDXも同じことだ。メリットがきちんと認識されれば進むことだ。業務が効率化され、労働時間が短くなり、あるいは顧客情報や設備情報が適切に管理され、顧客のニーズに応えやすくなり、あるいは事故を防ぐことができればいい。そのために、適切な経済コストや労務コストであればいいということでもある。
 そのことを見極めながら進めていくことが必要だ。

連載60(2024.4.22)

ウクライナ、パレスチナとエネルギーの世代交代

 ロシアによるウクライナ侵攻が始まって2年以上、イスラエルによるパレスチナ侵攻が始まって半年以上がたつ。どちらも終わりが見えず、毎日流れるニュースには、憂鬱な気分になる。
 そしていずれも、エネルギーと無関係ではない。

 ロシアがウクライナ侵攻を行った理由の1つは、ソビエト連邦解体後のロシアが、石油やガス以外の産業を育てられず、国そのものが疲弊した中で、プーチン大統領が政権を維持していくための判断だった。特に米国がドイツとロシアを結ぶガスパイプラインの使用を認めなかったことは、引き金の一つとなっていた。シェールガスを有する米国にはダメージはなかったものの、欧州は短期的なガス不足に見舞われた。
 結果的に、ロシアの石油やガスを中国やインドなどが購入し、欧州も調達先の変更や暖冬などの影響もあって、需給はとりあえずおちついている。
 残ったのは、終わりの見えない戦争だけだ。

 イスラエルによるガザ侵攻は、イスラエルがガザ沖の海底油田の開発を行うという目的があるともいわれている。
 また、汚職事件で訴訟を受けているネタニヤフ首相が政権を維持するために戦争を続けているという見方もなされている。実際にネタニヤフ首相のイスラエルでの支持率は、日本の岸田首相とあまり変わらない。
 イスラエル各地で、ネタニヤフ退陣を求めるデモが起きている。

 さらに、イスラエルがシリアにあるイラン領事館を攻撃したことをきっかけに、イランがイスラエルを直接攻撃した。このことが、中東での戦争の拡大につながることが懸念されている。その結果、一時的に原油価格は上昇した。
 さらにイスラエルがイランに報復攻撃を行ったことで、中東情勢は一気に緊迫化しそうだ。

 そもそも、パレスチナ問題の発端は、第二次世界大戦後の1948年にユダヤ人問題を喀血するために、パレスチナにユダヤ人を入植させ、国家を創設したところから始まる。以降、パレスチナ人は土地や自由を奪われたままだった。ヨルダン川西岸ではユダヤ人の入植が進められ、ガザ地区では人々の自由は奪われたままだった。そうした中での、2023年10月7日のハマスによる攻撃には、一方的に責めるようなことではない。

 結局のところ、パレスチナ問題は欧米が作り出した問題だったし、しかもその解決についてはずっと見ないふりをしてきた。ユダヤ人ロビーの影響が強い米国、イスラエル国家創設前までこの地域を統治してきた英国、反ユダヤ主義はタブーとなっているドイツなどが、イスラエルを支援し続けた。

 イスラエルに対して強く圧力をかけられない欧米に対し、グローバスサウスとよばれる国々はイスラエルを強く批判し、南アフリカは国際司法裁判所に提訴を行った。
 どんなにきれいごとをいったところで、欧米が「自分たちが作り出した問題」を解決できないことが、明確にされてしまったといえる。

 一方、米国が明確なのだが、ユダヤ人ロビーの力によってイスラエルへの制裁にまで踏み切れないでいる政府に対し、とりわけ若い世代がパレスチナ支持を強く主張し、こちらもデモが起きている。民主党の中で分裂しており、若い世代ほどパレスチナを支持している。そのため、バイデン大統領はどっちつかずのまま、有効な施策を打ち出せないでおり、大統領選挙にも大きな影響を与えている。
 これはドイツなどでも同様で、イスラエルを非難する若い世代のユダヤ人に対して反ユダヤのレッテルを貼るようなことにまでなっている。

 これは、戦争だけの話ではない。気候変動問題においても、同じ光景をさんざん見てきている。
 二酸化炭素を排出し続けた欧米が責任を取り切れていない、というのが、気候変動問題の本質の一つである。しかし、温暖化した未来を生きなければいけない若い世代は、そのことに異議を唱えている。
 パレスチナ問題についても、同じ構造だ。
 欧米を中心とした先進国の無力さが明らかになっていくにしたがって、世界の主役は変わっていくだろうし、責任を取れない老人は退場していくことになるのではないだろうか。その老人が大統領候補という米国は、世代候補前の最後の瞬間を見ているのかもしれない。

 先進国というものそのものが、すっかり高齢化しているのかもしれない。いかにして世代交代を行うのか。そのことを考えなくてはいけない。

連載59(2024.4.8)

生物多様性と除草しない太陽光発電

 日本ではようやくソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)についての理解が広まってきた。10年くらい前からあるのだけれど、まだまだ積極的に開発されているというほどではない。それでも、農業関係者の間でも理解されるようになってきた。というのが、実感である。

 ソーラーシェアリングが始まった場所は、おそらく日本だと思う。始まった理由はあまり褒められたものではない。というのも、農地の安い固定資産税を適用することが目的だったのだから。
 FITの認定を受けて電気を買い取ってもらうことで、大きな収入が得られるが、太陽光パネルの下で農業が行われていれば、農業収入が得られる上に固定資産税が大幅に減免される。農業よりも売電の方が利益が出せるので、農業をおろそかにしないように、通常の80%以上の農業生産を義務付けた。
 しかし今となってはFITの新規認定による買取価格は低く、むしろPPAで電気を売るのが主流になってきている。農業でも十分な生産が行われなければ、事業として成り立たない、くらいになっている。
 また、野立ての太陽光発電所を設置する場所が少なくなってきていることも指摘される。

 その後、欧州でもソーラーシェアリングが行われるようになってきた。両面パネルを東西に向けた垂直型のソーラーシェアリングは施工しやすく、朝方と夕方の発電量が大きくなることから、それまでの太陽光発電を補完するような発電量となっており、牧場などに設置されている。この垂直型は最近日本にも逆輸入され、福島県などで設置されている。
 アメリカでは最近、800MWという規模のソーラーシェアリングができるということだ。
農業も大規模なら、ソーラーシェアリングも大規模だ。なお、アメリカではソーラーシェアリングはアグリボルトとよばれている。農業発電所といったところだ。
 そしてClean Technicaの記事では、ソーラーシェアリングは発電も含めて農業だと言い切っている。

 そして欧米で、新たなソーラーシェアリングの動きが出てきている。それは、太陽光発電の下で農作物を栽培するのではなく、むしろ雑草を育てているといってもいいだろう。
 どういうことか。
 近年、欧米では、ハチなどの昆虫類の減少が大きな問題となっている。植物の花粉を運ぶ昆虫がいなくなれば、実がならなくなる作物や果樹は多い。そこで、生物多様性を保全し、昆虫を育てる場所を、太陽光発電の下につくるということだ。したがって、基本的には雑草は伸び放題で除草はしない。日本のように除草剤を撒くこととはまったく反対の方向にある。というか除草剤そのものが昆虫を減らす原因の一つなのだが。
 そして、生物多様性保全型のソーラーシェアリングは、果樹園などに隣接して設置されるということだ。太陽光発電の下で作物を育てなくても、立派なソーラーシェアリングである。
 おそらく、ソーラーシェアリングそのものが、発電も含めて農業だという認識があるからこそ、こうした発想が出てくるのだろう。

 生物多様性問題そのものは、気候変動問題と同様に地球規模の深刻な環境問題である。生物多様性条約は気候変動枠組み条約と同時期に発効し、2年に一度のペースでCOPが開催されている。
 最近は気候変動問題と生物多様性問題は深い関係にあるとして、同時に語られることも多い。ブルーカーボンや森林保全も、CO2削減だけの取組ではなくなってきている。

 さて、日本では生物多様性保全型のソーラーシェアリングは可能だろうか。おそらく、すぐにはできないだろう。昆虫を保護するための土地を農地とみなすということからして、壁となってくる。税金の問題もあるだろう。それでも、耕作放棄地に太陽光発電を設置していくときに、無理に農業を行うのではなく、昆虫が育つような環境をつくっていくということはもっと考えられてもいいだろう。どんな植生になればいいのか、研究も必要となってくる。それでも、新たなムーブメントとして、日本でも広がってもいいのではないだろうか。

連載58(2024.3.25)

インターナルカーボンプライシングって何?

 カーボンクレジットに近い話として、インターナルカーボンプライシングというものがある。このしくみは覚えておくといい。

 どういうものかというと、会社が社内の制度としてカーボンプライシングを導入するというものだ。
 例えば、ある会社にA工場とB工場の2つがあったとしよう。
 まず、A工場でCO2排出削減の取り組みをしようと考えたとする。でもそのためには設備改修などの投資が必要となる。では、投資対効果はどのように判断すればいいのか。このときに、カーボンの価格を決めておくと、判断しやすくなる。
 カーボンの価格を1万円/トン-CO2としておく。そうすると、これ以下のコストでCO2が削減できるのであれば、投資するという判断になるし、これ以上のコストになるのであれば投資を見送ることになる。屋根上に太陽光発電をつけるのはこれより低コストなので実行するが、建物の断熱改修は高コストなので行わない、といった感じだ。
 また、A工場とB工場では、CO2排出削減のコストが違っていて、A工場の方が低コストで削減できるとしよう。A工場とB工場でそれぞれ、CO2排出削減のための予算と削減目標が決められていたとしよう。このとき、B工場はその予算でA工場から社内向けのカーボンクレジットを買ってきて目標を達成し、A工場は当初の予算に加えてB工場にカーボンクレジットを販売した分もCO2排出削減の投資に回せるということになる。結果として、この会社は同じだけの投資をしてもより多くのCO2排出削減ができたことになる。

 このしくみは、カーボンニュートラルLPガスやカーボンニュートラル都市ガスにも関係してくる。前提として、オフセットするためのカーボンクレジットが信頼性も追加性もあることは必要だが。
 ある会社において、CO2排出削減をするときに、いろいろな手段の中からカーボンニュートラルLPガスを選択するときには、その会社が決めているインターナルカーボンプライシングの価格より安いことが前提となってくる。その上で、他の手段よりも安いということが求められる。

 では、インターナルカーボンプライシングは、いくらぐらいの価格設定になっているのか。
 最低でも1万円/トン-CO2、会社によっては2万円/トン-CO2近いというケースもある。しかも、価格は年を追うごとに引き上げられていくだろう。ボランタリークレジットと比較するとけた違いに高い設定となっている。とはいえ、EU-ETSなどのコンプライアンスカーボンクレジットの価格を考えると、投資判断のツールであるということを踏まえ、決して高すぎることはない。
 Jクレジットと比較すると、省エネや再エネクレジットよりは高いが、CO2除去となる森林クレジットはやはり1万円/トン-CO2くらいの価格になっている。

 電力の非化石証書と比べるとどうだろうか。オークションの結果では、FIT非化石証書が0.4円/kWhとなっているが、これはカーボンにすると1,000円/トン-カーボンとなる。追加性がないとはいえ、オークションで取引される非化石証書は安い。
 ところが、PPAなどで相対取引されている非化石証書の価格は、3~5円/kWhとなっているという。追加性があるゆえに、高いということだ。そうするとやはり、1万円/トン-CO2に相当してくる。
 最後にGXリーグにおける排出量取引はどうなるのだろうか。実は、参加企業が排出量を売る場合、2030年の日本のCO2排出削減目標(正確には温室効果ガス排出削減目標なのだけれど)に沿った形でのベースラインより減らした場合に限り、売ることができる、ということだ。2030年の削減目標は2013年比マイナス46%なので、かなり高い目標だ(と、考えられている)。したがって、相応の削減には相当のコストがかかることが予想される。

 大手企業はCO2排出削減手段の1つとして、インターナルカーボンプライシング制度を導入するところも出てきているわけだが、さらにこの制度は取引先にも要求されることにもなるだろう。同じ考え方を適用すれば、取引先のCO2排出削減にあたっても、同程度の価格上昇は認めてもいいということにもなってくる。
 言うまでもないが、LPガス会社や都市ガス会社もそうした取引先になるということだ。

連載57(2024.3.7)

カーボンクレジットの限界

 カーボンクレジットといっても、いろいろなものがある。そのうち、ボランタリークレジットについては、「クレジット創出のプロジェクトが適切に運営されていない」などの問題が起きており、信頼性がゆらいでいる。
 一方、コンプライアンスクレジットはEUやその他の国の制度に基づいて発行されており、信頼性はあるものの、価格は安くはない。そして、それぞれの国や地域が温室効果ガスの排出削減目標を引き上げるほど、値上がりする可能性が高い。
 それでもカーボンクレジットには、経済合理性があり、温室効果ガスの削減をしやすいところから行っていく、というメリットがある。

 一般的に、日本においてカーボンクレジットは、他に温室効果ガスの削減手段が難しい場合に使われている。代表的なものとして、出張における旅客機の排出するCO2のオフセットがある。熱源としてガスを使う場合の、カーボンニュートラル都市ガス・LPガスは、言うまでもないが、他にもセメントや鉄鋼の生産など、CO2の排出が避けられない分野は多い。鉄鋼の場合、高炉で1トンの鉄を精製すると、2トンのCO2が排出される。
 また、電気のようにCO2排出を削減しやすい分野では、カーボンクレジットはあまり使われない。イベントなどでJクレジットが使われることはある。しかし日本では優先的にPPAなどの追加性のある再生可能エネルギーの利用が評価され、追加性のない再生可能エネルギーや「実質再生可能エネルギー」の電気の供給を受けることが次善の策となる。

 こうしたカーボンクレジットだが、カーボンニュートラルな社会に向けて、さらにその内容も変化していく。
 Jクレジットを例にすると、現在、省エネ、再エネ、植林の3種類のクレジットが発行されている。このうちでも植林・森林管理のクレジットが最も高く、発行量も少ない。
 しかし、価値は植林・森林管理のクレジットの方が高い。なぜならば、省エネはCO2排出抑制であり、再エネもその分だけCO2排出をゼロにする、ということに対し、植林は大気中のCO2を吸収している。つまり、カーボンマイナスになっているということだ。
 これは、プロジェクト由来のカーボンクレジットにおいては共通することで、海外のボランタリークレジットや日本が進める二国間クレジットも例外ではない。

 では、カーボンニュートラルな社会が近づいてきたらどうなるだろうか。
 電気については、基本的に再エネや原子力など、CO2を排出しない電源が一般的になっており、そこで再エネによるクレジットを創出する余地はない。
 これは、基本的に燃料も同様だ。したがって、電気やカーボンニュートラルな燃料についていくら省エネしたところで、CO2排出が削減されるわけでもない。
 そうなると残るのは、植林のように大気中のCO2を吸収するプロジェクト由来のクレジットとなる。だが、前述のように、植林・森林管理のプロジェクトによるクレジットの価格は高い。それだけではなく、クレジット発行後のモニタリングも必須だ。

 そうした中、最近注目されているのが、DACCSやBECCSだ。
 DACCSというのは、直接大気中からCO2を回収し、地中に埋める技術だ。比較的有名なのが、スイスのクライムワークス社が、アイスランドで地熱発電の電気を使ってCO2を回収する実証試験を行っていることだ。地熱発電だからCO2が排出されないようなものの、それでも大量のエネルギーを使う技術だ。
 BECCSは、バイオマス燃料を燃やしたときに発生したCO2を回収して地中に埋める技術だ。元々バイオマス燃料はカーボンニュートラルなので、そこから由来するCO2を回収すればカーボンマイナスとなる。
 この他にも、植物をそのまま、ないしは炭化させて地中に埋めるということも検討されている。
 こうしたカーボンマイナス技術によるプロジェクトであれば、2050年になってもカーボンクレジットを発行することができる。また、実際に2050年の時点で使えるカーボンクレジットがCO2除去のプロジェクトによるものだというのが、世界的な認識となっている。
 だが、CO2除去のプロジェクトはCO2削減コストが大きいため、結果的にカーボンクレジットも高価なものとなるだろう。そうなると、利用できる場面が限られてくる。

 つまり、こうしたことが、カーボンクレジットの限界なのだ。CO2排出削減による安価なクレジットがいつまでもあるわけではない。
 カーボンクレジットを使ったカーボンオフセットは、2050年までの時間稼ぎくらいに考えるべきなのだ。

連載56(2024.2.22)

ボランタリークレジットとコンプライアンスクレジット

 前回は、カーボンクレジットのうち、ボランタリークレジットの信頼性が下がっているという話をした。でも、だからといってクレジットに意味がないわけではない。
 本当にCO2が削減されているのであれば、そのコストをクレジットの形で負担をするのは、経済的に合理性がある。
 例えば、今現在、日本の多くの家庭ではLPガスや都市ガスが使われている。給湯や調理の熱源となっているわけだが、これらをただちにIHクッキングヒーターやエコキュートに置き換えていくことにはコストがかかる。それも、使う世帯によってコストが異なる。一人暮らしの世帯にエコキュートを入れても、それほど使われないだろうと考えると、同じコストでより多くのCO2を削減できるところにお金を使った方がいい。
 そこで、例えば公共施設などで省エネプロジェクトを実施し、Jクレジットを発行した上で、CO2排出を削減したいお客様にJクレジット利用のカーボンニュートラルLPガスを供給することは、有意でCO2排出削減となる。
 これは、適切に認証し、モニタリングが実施されている限りにおいては、ボランタリークレジットでも同様である。
 そしてもう一つ大事なことは、クレジットのトレーサビリティである。すなわち、どのようなプロジェクトを通じて発行されたのかを、明示しておくことが、クレジットの信頼性につながる。同時に、プロジェクトの質も問われてくる。

 カーボンクレジットには他に、コンプライアンスクレジットがある。これは、排出量取引などの制度に対応したクレジットで、基本的には政府が発行する。
 代表的なものが、EUの排出量取引制度でのクレジットだ。EUでは発電所や鉄鋼所などに、CO2排出量の割り当てがなされており、事業所のCO2排出量がこの割り当てを下回った場合にはカーボンクレジットとして売却することができる。
 EUにはカーボンクレジットの取引市場があり、原油などのように市場価格がある。ロシアによるウクライナ侵攻で発電用石炭の使用が増加したときは、市場が高騰し、100ユーロ/CO2-トンを超える価格となっていた。最近は石炭の需要減で60ユーロ/CO2-トンぐらいまで下がっている。ただし、それでもボランタリークレジットの平均的な価格よりははるかに高い。
 日本では今後、GXリーグ(日本でCO2排出削減に取り組む企業群が協働するしくみ)に対応したクレジットが発行される見込みだ。GXリーグに参加した企業が、政府目標(2030年CO2削減46%)相当を下回った場合にのみ、クレジットを売却することができる。GXには強制力はないので、準コンプライアンスクレジットといったところだろうか。
 ただ、コンプライアンスクレジットは制度に参加している主体しか利用できない。
 日本ではEUの排出量取引に対応したコプライアンスクレジットを伊藤忠商事が扱いはじめたが、だいた1万円/CO2-トンくらいだ。また、GXリーグのクレジットも、CO2削減の要件が厳しいので、同じくらいの価格になるだろう。
 でも、それがCO2排出削減の現在のコストでもあるとするならば、ボランタリークレジットもこうした価格に近づいてくるだろう。実際に、Jクレジットも値上がりする傾向にある。社会のCO2排出量が削減されていくほど、省エネのコストが上がるからだ。例えば、電気の標準的なCO2排出係数が小さくなるほど、再エネを利用したときに削減されるCO2の量は少なくなる。
 そうだとしたら、カーボンニュートラルLPガスも毎年値上がりしていくことになる。そしてある時点で、LPガスよりも他のエネルギーを使った方が安くなるようになれば、LPガスを使わなくなる。こうしたことが、2050年のカーボンニュートラルに向かって、少しずつ進んでいくことになる。

連載55(2024.2.7)

カーボンニュートラルLPガスとカーボンクレジット

 脱炭素社会に向けて、カーボンニュートラルLPガスやカーボンニュートラル都市ガスが登場している。こうしたガスを使えば、需要家のCO2排出量を削減することができる。というか、削減したように算定することができる。でも、本当にカーボンニュートラルなガスになっているのか、問題はないのか、そもそもどのようなしくみでカーボンニュートラルになっているのか、実はあまり理解されていないのではないか。そんなことを思わせることがあった。

 まず、カーボンニュートラルLPガスのしくみについて説明しておこう。
 これは、LPガスを燃焼したときに排出されるCO2を、別の場所で削減しておく、というしくみだ。そして、このしくみに使われるのが、カーボンクレジットである。
 カーボンクレジットとはどのようなものか。例えば、植林をしたとしよう。植物が成長するにしたがって、大気中のCO2を吸収してくれる。つまり、植林によってCO2が減っているということになる。その減った分を、カーボンクレジットというものにする。
 CO2を減らす事業は植林だけではない。省エネや再エネのプロジェクトも、“今のところ”クレジットの発行ができる。ガス田のフレア除去もクレジットの発行対象になっている。
 そして、カーボンニュートラルLPガスは、燃焼したときに排出するCO2を、あらかじめ植林などによるカーボンクレジットで相殺してある、ということだ。

 とはいえ、実はカーボンクレジットにはいろいろな種類がある。大きく分けて、ボランタリークレジットとコンプライアンスクレジットだ。ボランタリークレジットは、CO2削減について第三者認証を経てクレジット化したもので、第三者認証機関にはいろいろなものがある。一方、コンプライアンスクレジットというのは、EUの排出量取引制度など法制度に対応したクレジットになる。
 ボランタリークレジットにはいろいろな種類があるが、一般的に海外で認証されているものが比較的安く流通している。しかし、このクレジットでCO2排出を削減しても、日本のCO2排出削減にはならないことには要注意。
 日本で認証されているクレジットには、Jクレジットがある。この場合、日本でCO2を削減しているので、日本のCO2排出削減になる。
 この他に、日本と他の国で協調してCO2を削減する二国間クレジットというものもあり、これも日本のCO2排出削減になる予定だ。

 ボランタリークレジットは比較的安く、CO2-トンあたりで、数百円から数千円の範囲にある。Jクレジットは比較的割高で、数千円から1万円程度のものまである。
 これに対し、コンプライアンスクレジットは最低でもCO2-トンあたりで1万円は超える。
 そんなわけで、最近までは、ボランタリークレジットの利用が増えていた。しかし、最近になって、その利用にブレーキがかかっている。なぜなら、クレジットを創出するプロジェクトそのものの信頼性がゆらいでいるからだ。
 わかりやすい事例としては、植林プロジェクトがある。植林して木が成長すればCO2は削減されるが、クレジット発行後に伐採してしまえば、CO2はまた大気中にもどってしまう。これではクレジットは意味をなさない。信頼性のないクレジットは、誰も使おうとしなくなっている。
 とはいえ、クレジットの課題はそれだけではない。とはいえ、カーボンニュートラルLPガスに意味がないわけでもない。ちょっと長くなるので、続きは次回に。

連載54(2024.1.22)

今年の再エネのトレンドは24/7なのである

 24/7と言われても、だいたいの人は何のことだかわからないですよね。
 これは、24時間/一週間という意味。日本でいえば、24時間365日といったところです。
 そして、再エネを24時間365日供給するサービスが、これから求められてくる、ということなのです。

 現実の話をすれば、とりあえず太陽光発電を設置して使っています、というのが一般的な話だと思う。コーポレートPPAというサービスも普及してきているし、長期契約が可能なら初期費用抜きで太陽光発電が使えるようになってきました。
 そして、最近の話題は、バーチャルPPAというものです。これは、非化石証書だけを購入し、使う電気を全量「追加性のある」再エネにする、というしくみです。この場合、電気は市場で売ったりするので、差金決済というめんどくさいことも必要になるのですが、日本では村田製作所が利用するなどの事例が登場しています。

 米国ではPPAといえばバーチャルPPAが主流でした。REC(再エネクレジット、日本でいう再エネ指定の非FIT非化石証書といったところでしょうか)を利用して実質再エネとして利用しています。
 しかし、結局のところ、バーチャルPPAだけが普及してしまうと、他の需要家に対して火力発電の電気が集まってしまうことになります。
 本当にCO2を出さないのであれば、24時間365日、再エネ発電が供給されるべきではないか、ということになります。そのため、米国ではGoogleなどが実際にこうした形での電力供給を受けていますし、24/7carbon free compactといった国連での運動も進んでいます。もっとも、24/7では再エネにこだわっておらず、原子力も含めているのですが。

 なぜ、24/7かといえば、さきほどちらっと書いた「追加性」に関係があります。現在の電力システムを維持したままでは、太陽光発電の導入量には限界があります。夜間の電気はまかなえません。したがって、バーチャルPPAのような方法で非化石証書を独占しては、再エネの導入の限界を超えず、結果として「追加性」に疑問が生じてしまいます。
 つまり、電力システムが再エネの主流になっていくような変化をうながしていく、そういったしくみが必要になるということです。

 とはいえ、24/7を実現するのは簡単ではありません。Googleでは、太陽光発電や風力発電、地熱発電など複数の再エネを組み合わせて実現しています。
 しかし、太陽光発電と風力発電以外の再エネの大幅な増加は難しいでしょう。そうなると、蓄電池の活用が必要になってきます。
 すでに、パワーXという会社が、24時間太陽光発電供給の顧客の募集を開始しています。25円/kWh~という価格は、現在のフィジカルPPAよりは高いものの、一般的な高圧の電気料金+非化石証書の価格を考えると、悪くないようにも感じます。
 パワーXの場合、蓄電池を安く供給することが可能という前提があってのことですが、蓄電池そのものは値下がりを続けており、他社もこうした事業に参入してくると予想されます。

 それでも、蓄電池だけで24/7を実現するにはコストがかかりすぎます。充放電の損失がありますし、そもそも蓄電池もなるべく小さくしたい。したがって、需要側でも電気の使い方を変える必要があるし、太陽光発電以外の再エネを組み込むことも必要でしょう。
 そうであっても、24/7であれば、「実質再エネ100%」といった電気やバーチャルPPAよりもよほどわかりやすいといえます。

 というわけで、今年は24/7が本格的に話題になると思います。でも、それだけではありません。短期的には、低圧太陽光発電所に蓄電池を併設していくことが増えていくと思います。FITの発電所をFIPに転換して蓄電池を設置するという取組みが一部で行われていますが、新規の発電所は蓄電池併設があたりまえになってくる、ということも見えてきます。
 そして長期的には、2032年以降の事業用卒FIT発電所の蓄電池併設リパワリングということが視野に入ってきます。さらに、同時に電気料金を安くする24/7向けのエネルギーマネジメントが求められるようになるでしょう。

 2024年は、こうした新しいサービスの開発がトレンドになってくると予想しています。

連載53(2024.1.9)

グレイスラム

 あけましておめでとうございます。
 と言いたいところですが、能登半島地震やウクライナやガザを考えると、あまりそんな気にはなれないですね。
 フランスではまた洪水が起きているし、少し前はドイツでも洪水でした。気候変動は確実に深刻化していますが、昨年末のCOP28の成果は乏しかったと思います。
 今年は第7次エネルギー基本計画の議論が行われると思います。どのような計画になるのかは、エネルギー事業者には大きな影響があるでしょう。LPガス事業者への影響はまだ少ないと思いますが、他方でEV化は加速していくので、ガソリン需要がさらに減少していくのはまちがいないでしょう。2035年温室効果ガス66%削減、という数字が予測されます。2013年から3分の1に減らすというのは、大変なことです。
 未来を考える上では、見たくない現実を正視することも必要かもしれません。

 今年1月4日の日本経済新聞の酒紀行というコーナーで、グレイスラムが紹介されました。沖縄県南大東島でラム酒を醸造している会社で、創立20年になります。
 この会社、沖縄電力のベンチャー募集制度で、当時アステル沖縄の社員だった金城さんが応募し、設立した会社です。南大東島ではサトウキビを栽培しているのですが、それを原料に、さっぱりとした、それでいて味わいのあるホワイトラムを醸造しています。

 20年前といえば、自由化に対応する一環として、電力各社が社内ベンチャーの育成を行っていた時期でもあります。筆者もさまざまな電力発のベンチャーを取材しました。農業の会社やホームセンター、高齢者福祉施設など、さまざまな会社がありました。これも、事業ポートフォリオを拡大する一つの手段です。
 しかし、現在も残っている会社はほんのわずかしかありません。ベンチャー企業とはそういうものかもしれないのですが。

 グレイスラムも最初から順調だったわけではありません。独特のフレッシュなホワイトラムは、決して価格が安いわけではなく、販路の拡大は苦労したと思います。アルコール度数を下げた商品を開発したりもしています。また、2010年には筆頭株主が沖縄電力からヘリオス酒造に代わっていますが、そこにも理由があったのでしょう。
 それでも、20年たって、ラム酒のメーカーとしての評価は確立したといえます。

 それまで沖縄ではラム酒を醸造していなかったのですが、その後、伊江島でもイエラムの醸造が行われています。
 これもまた、エネルギーに関係しています。というのも、NEDOの実証試験で、伊江島で自動車の燃料用アルコールの醸造を行っていたのですが、実証試験後、その設備を活用してラム酒の醸造を始めたということです。
 確かに、ガソリンよりもお酒の方が高く売れますからね。

 電力発のベンチャー企業の多くが撤退している中で、グレイスラムは現在も事業を継続し、ラム酒をつくっている。そこには、少なくとも新規事業を失敗に終わらせなかった要因がいくつもあるのだと思います。  それは、じっくり考えてみてもいいかもしれないと思っています。

連載52(2023.12.21)

みんなが集まるところに答えはない

 エネルギー事業に話を限っても、本当に価値があって持続可能な事業は、みんなが集まるところにはない。
 よくラグビーのモールに例えるのだけれど、そこに入っていくよりも外側にいた方が、どこからボールが出てくるのかがよくわかる。いや、ラグビーにおいてはモールは大切なのだけれど。
 あるいは、中学生の体育の授業でのバスケットボールといえばいいだろうか。みんなゴールを入れられないまま、ボールを奪い合う。

 例えばVPP(仮想発電所)という事業がある。もう何年も前から、住宅用蓄電池などを使ってVPPをやろうとするのだが、少しももうからない。
 今だったら、アグリゲーターだろうか。新しくライセンスができたのだけれど、今はそれほど大きな事業にはなっていないのではないか。
 もっとも、アグリゲーターの今の大きな事業は系統用蓄電池だ。しかし、明確な事業モデルが描けないまま、事業化を進めている。
 需給調整市場で利益を出しているという話もあるし、長期脱炭素電源オークションでリスクを低減できるというが、その場合はリターンが少ない。

 かつて、FITを使った太陽光発電事業が隆盛を極めた。これはさすがに、官製フリーランチともいうべきもので、たくさんの事業者が利益を得たと思う。しかし、持続可能な事業になっているものはどのくらいあるのだろう。利益を得た人たちは、発電所を高値で売却してしまっているのではないか。

 カーボンクレジット事業も同じだ。
 CO2排出を相殺できる便利なクレジットには需要がある。2030年に向けて市場は10倍以上拡大するという予測もあった。
 筆者はそう単純には考えていなかった。そこで言われていたのは、安価なボランタリークレジットだが、実際にはクレジットに信頼性がなく、より高価なコンプライアンスクレジットに関心が集まってきている。それはまったく別のスキームだ。
 おそらく非化石証書も同じ運命をたどるのではないか。

 冷静に考えれば、VPPが本当に必要になるには、もう少し時間がかかる。まずは再エネ発電所の出力制御を回避するために、既存の設備でできるところまでいってから、VPPの出番となる。
 アグリゲーターが真価を発揮するのは、2032年の事業用発電所卒FITを待つ必要がある。
 系統用蓄電池は運用益が市場に左右されるので、それを固定する手段が必要だし、だから米国カリフォルニア州では蓄電池が増加しても系統用蓄電池は減少している。
 カーボンクレジットに求められるのは追加性だ。それが担保できないクレジットは駆逐されていく。

 では、メタネーションやアンモニア火力やCCUSはどうなのか。冷静に考えると、少なくとも主役ではないだろう。

 現在と将来の技術、それとコスト、需要、さらに地球環境と人口構成、そういったものを冷静に考えたとき、たぶん、多くの人が集まっているところには答えはない。
 日本人は横並び主義と言われているし、その結果、人がいるところに集まってしまうのかもしれない。
 けれど、行列のできるラーメン屋が必ずしもおいしいわけではない。
 冷静になって10年後を考えてみることは、この国においては、もっともっと必要かもしれない。

連載51(2023.12.6)

COP28とグローバルストックテイク

 11月30日から、UAEのアブダビでCOP28(気候変動枠組条約第28回締約国会議)が開催されている。産油国で開催されるCOPゆえに、脱炭素がゆるいのではないか、と考える人もいるだろう。しかし、UAEは最先端の再エネ事業がある国でもある。
 マスダールシティはカーボンゼロを前提として開発された都市だ。そして、この都市で開発された技術を世界に展開する企業としてマスダールが創設されている。
 産油国も、いつまでも石油産業が続くとは思っていないのだ。むしろ、今のオイルマネーを脱炭素技術に投資しているといっていいだろう。

 さて、今回のCOP28の中心となるテーマは、グローバルストックテイク(GST)というものだ。これは、5年ごとに行われる、世界全体の温室効果ガス排出削減に対する評価だ。そしてこの評価をもとに、次の各国の削減目標が検討される。
 すでに、GSTの議論はおよそ1年にわたって行われてきた。その評価を、今回のCOP28で合意する、ということになる。

 GSTのおおまかな結論というのは見えている。2030年の各国の温室効果ガス排出削減目標は、十分ではない上に、それを実現するための政策措置も十分にとられていない。したがって、まだまだ温室効果ガス排出削減は進めなくてはいけないし、それどころか、削減が遅れた分だけ、今後は急激な削減が必要となってくる。
 今年のG7環境相サミットでは、2035年の温室効果ガス排出削減は2019年比60%削減ということで一致したが、実際には先進国は80%削減が必要なのだ。

 では、どのようにして温室効果ガス排出削減を進めるのか。あらゆる手段、ということになるが、今回のCOP28では、いくつかの取組みが出てきている。
 一つは、再生可能エネルギーを2030年までに3倍に増やすこと。これは日本も賛成している。ただし、日本は3倍にするのではなく、せいぜい2倍。残りは途上国で増やしていく。二国間クレジットなどのしくみを使うことが想定されている。
 原子力も3倍にするということで、日本を含む20か国が合意している。二酸化炭素を出さないのであれば、原子力にも頼りたいといったところだ。ただし、現実には、中国など共産圏が増やすことになるだろう。原子力はコストがかかりすぎる。期待された小型炉でさえ、先日、唯一型式認証を米国で取得した計画が中止になったばかりだ。
 そして、メタンの削減。これはガス田や炭鉱、パイプラインから漏洩するメタンを削減するということで、比較的対応しやすい。

 日本が参加しないのが、石炭火力発電所の削減だ。もう新規の発電所は建設しないとして、その先には既存の発電所の段階的廃止も行われてくる。
 日本はアンモニアを燃やすことで、石炭火力を延命させる方針だ。ただし、将来はグリーンアンモニアを燃やすとしても、直近の実証では天然ガス由来のグレーアンモニアの混焼をおこなっており、実はこれで二酸化炭素の排出は増えている。
 日本にはまだ運開したばかりの石炭火力発電所もある。そういった事情で、石炭火力の廃止にすぐに進むことはできないが、国際的な圧力は高まっていくだろう。

 いずれにせよ、GSTが示すのは、今後さらに温室効果ガス排出削減は厳しいものにせざるを得ないし、その削減も、対策が遅れてしまったがゆえに、急激な削減が求められるというものだ。

 今年は観測史上、地球の平均気温が最も高かった1年になるだろうと言われている。予測値では、平均気温よりも1.8℃も高いということだ。その結果、各国で旱魃による山火事や洪水が発生し、日本でも厳しい猛暑となった。
 ただし、その原因はエルニーニョなども関係しており、通常であれば1.2℃上昇といったところだろう。
 しかし、地球が温暖化すれば、今年以上の猛暑が通常となる。そこでエルニーニョが発生すれば、平均気温は2.5℃くらい上昇してもおかしくない。そういった未来が目に見えてしまうからこそ、温室効果ガス排出削減も急速に進めざるを得ない。
 地球の限界が迫っているというのは、決して大げさな話ではない。エネルギー事業に関わるものは、そのことを将来像に織り込んでおく必要がある。

連載50(2023.11.21)

日本では見殺しにされるエコキュート

 エコキュート(自然冷媒ヒートポンプ給湯機)は、都市ガス事業者にとっては憎むべき相手かもしれないが、LPガス事業者にとっては微妙な存在だろう。
 ガス会社はこの間、エネファーム(家庭用燃料電池コージェネレーションシステム)の普及に力を入れてきたし、設置不可能な住宅に対しては、ガス販売量が下がることを前提にエコジョーズ(潜熱回収型ガス給湯器)を販売してきた。ただ、オール電化を望む需要家に対しては、エコキュートやIHクッキングヒーターを販売することもあった。そこが微妙なところだ。

 大手電力会社がこれまで普及に力を入れてきたエコキュートだが、ここにきてむしろ見殺しにされるのではないか、という雰囲気になってきている。
 エコキュートのエコとは、CO2排出量の少ない原子力主体の夜間電力を使ってお湯を沸かしていることと、ヒートポンプによって投入したエネルギーの3倍以上の熱を得られるということによる。
 一面では、大手電力会社が余剰の夜間電力の需要を開拓したということで、かつては電力会社の都合でもあった。それでも時間帯別料金で深夜の電気料金を安くすることができ、経済性があった。
 しかし、福島第一原発事故以降、原子力発電所の再稼働はさほど進んでいない。関西電力と九州電力、そして四国電力の3社にとどまっている。これでは、深夜電力はエコとはいえなくなっている。

 太陽光発電が普及拡大した現在、電気が余っていて、しかもCO2排出量が少ないのは日中だ。もちろん天気に左右されるし、雪の日は火力発電がガンガンに稼働している。
 とはいえ、一般的には、JEPXのシステムプライスは日中が安い傾向にあることはまちがいない。
 にもかかわらず、大手電力会社は、夜間電力が相対的に安い時間帯別電気料金をやめていない。正確には、夜間料金も上がっていて、時間帯別のメリットは少なくはなっているが、それでも夜間を安くしている。
 日中を安くしようと試みているのは太陽光発電の電気が余っている九州電力くらいだ。他に中国電力の春秋限定というのもあるが。
 大手電力会社にとっては、今なお、自社の発電所を稼働させるため、夜間の電力需要の方が大事なのだろうか。

 もちろん、日中の電力を使った方が、エコキュートはエコになる。最近のエコキュートは日中運転もできるようになっているし、とりわけ住宅用太陽光発電を設置した住宅では、なるべく太陽光発電の電気を使うというモードになっている。
 それでも、2023年度上半期は、エコキュートの出荷台数は減少している。2022年度に過去最高を示した反動だというのが、業界団体の説明だ。ZEHの普及で、市場はまだまだ拡大するという。だが、そこには前向きなメッセージは見られない。

 欧米では、政府がヒートポンプ式給湯器の普及に力を入れている。ガスボイラーよりも、ガス火力の電気でヒートポンプを使った方が効率的だし、しかもその電気はどんどん再エネにとってかわっているのだ。また、英国のように、いわゆる再エネ賦課金をガスの方が割高になるように設定し、電化を促進しているケースもある。
 こういった欧米の傾向に対し、ダイキンなど日本企業はヒートポンプ給湯器の輸出に精力的になっている。

 こうした状況を考えると、日本でももっとエコキュートを中心としたヒートポンプ給湯器の普及に力を入れてもいいように思える。業界団体は「市場はまだまだ拡大する」というのではなく、「気候変動対策として新たな市場も開拓する」くらいは言っていただきたい。さらに、エコキュートの日中運転が増えれば、再エネの出力抑制を減らしていくことができる。天気を考えずに、毎日日中運転に切り替えるだけでも、CO2排出の抑制効果がある。もちろん、取引市場で価格が安い日中の電気を、電力会社が時間帯別料金メニューで提供すれば、需要家のメリットも大きい。
 日本と欧米で異なるのは、住宅の規模だ。特に集合住宅では大きなエコキュートは設置しにくい。集合住宅用のエコキュートが開発されているが、さらに低価格で小型のエコキュートの開発が求められているかもしれないし、あるいは集合住宅向けのセントラル給湯向けのエコキュートが必要かもしれない。
 電気料金に補助金を出すよりも、こうした分野に補助金を出すべきではなかったかとも思う。

 結局のところ、日本ではエコキュートは気候変動対策としては注目されなくなってきている。ヒートポンプ関連でいえば、電力会社がさんざん導入してきたエコアイスはどうなのだろうか、とも思う。
 一方、欧米ではIHクッキングヒーターへの注目も高まっている。日本ではビルトイン式の高価な製品というイメージだが、実はカセットコンロサイズのものもあり、価格も安い。

 少なくとも欧米が電化を進めようとしているときに、日本の電化製品は先行している。にもかかわらず、日本市場では力が抜けた状態だ。うっかりすると、日本の先行者利益が失われることもあるだろう。
 それも結局のところ、大手電力会社がかつては自社の都合でエコキュートを普及させ、現在は自社の都合で見殺しにしている。そんな構図なのではないだろうか。

連載49(2023.11.7)

Mobility Showは盛況だったけど

 前回に続いて、展示会の話。
 今度は、東京ビッグサイトで開催されていた、Japan Mobility Show 2023(以下、モビリティショー)に足を運んだ。
 行ったのは一般公開日で最終日でもある11月5日の日曜日。かなり盛況で、展示車の運転席に座るだけでも、長い行列ができていた。
 カップルや子連れで来ている人も多かった。入場料は確か3,000円だったと思う。遊園地よりもはるかに安く、子どもも楽しめるイベントだったとは思う。
 これまで、東京モーターショーという名称だったが、コロナ危機での開催中止をはさんで、名称を変更してのスタートとなった。

 ひょっとしたら、平日に来たら印象は変わっていたかもしれない。どうなのだろう。それは保留事項としておこう。
 その上で、ではモビリティショーが収穫の多い展示会だったかといえば、そうではないだろう。本当に申し訳ないのだけれど、自動車の未来を見ることはほとんどできなかった。
 海外のメディアでも取り上げられていた、いすゞのEVバスは全体が低床となっていて、すごく乗りやすそうだったし、これは評価してもいいと思った。今の路線バスって、後部の座席がすごくのりにくいでしょ。
 それと、一部の部品メーカーというのかな、そうした会社は、EV時代の生き残りをかけて、明確な方向性を打ち出していたと思う。自動車業界にあっては、パナソニックですら部品メーカーの位置にあるが、そこで示されたスマートカーのための設備は悪くなかったと思う。
 あと、後述するけど、アプリケーションには可能性がある。

 けれども、自動車メーカーの多くは、新しい製品というだけだったのではないか。EVであることは、いまさら売りにはならないとはいえ、その上でなお、ガソリン車でより快適な自動車を目指しているようだった。
 一方、中国のBYDが大規模な出展をしていることが話題になったけれど、これも正直なところ、BYDの本気さこそわかったけれど、日本市場に対するアプローチとしては十分ではなかったかもしれない。

 もっとはっきり言うと、今回の展示を通じて、未来が見えることはなかった。活況だったし、まだまだガソリン車が売れる時代なのだから、と言えばその通りなのだが。

 最近、東洋経済のネット記事で、最高益を出しているトヨタ自動車が、それでも礼賛できない理由として「EV周回遅れ」であることを指摘する記事があった。
 トヨタ自動車の利益というのは、残存利益であって、将来に向けての投資が必要ということなのだろう。そう思うと、今回のモビリティショーの活況もそこにかぶってくる。
 世界ではEVが急速に伸びているのに、日本の自動車会社は何をやっているのか、ということにもなる。

 とはいえ、では、今からEVに積極的に投資すればいいのだろうか。たぶん、それでも生き残ることができる会社には限度がある。そうであれば、ひょっとしたら自動車メーカーを辞めてしまうという判断もあるのかもしれない。富士フイルムやTDKのように。そもそもトヨタ自動車だって、元々は織機のメーカーだった。
 そして、そう言ってしまうことには、根拠がないわけではない。日本企業が提供するアプリケーションにはまだ未来があると感じたからだ。その細やかさは、ソフトウェアだろうとハードウェアだろうと、メーカーを問わずにインストールできるものであれば、いいのではないだろうか。
 それは、スマートフォンというハードウェアで競争するのではなく、スマホアプリで競争するということにも似ている。
 それに、そもそも、未来においては自動車というものの定義が変わるということも、考えなければならない。だからこその、モーターからモビリティへの転換だったはずなのだが。

 エネルギー業界も、短期的に最高益を出している。昨年までの原油高が石油会社に大きな利益をもたらしたが、今年度上半期は旧一般電気事業者が過去最高益となっている。もちろん、旧一般電気事業者の場合、燃料費が下がる一方、6月には値上げしたというずれが、利益となっているわけだが。でも、ちょっと距離を置いてみると、それは火力発電の残存利益だともいえる。
 EVになぞらえれば、洋上風力への投資を加速することが必要だろう。しかしそれだけではなく、電気事業の定義が「電気をつくって届ける事業」から「電気を安心して使ってもらえるように安定して運用する事業」に移行しつつあるのだから、提供するサービスも変わってくるはずだ。

 日本の自動車業界は、優れた反面教師だといえるだろう。

連載48(2023.10.25)

寂しいCEATEC2023

 先日、幕張メッセで開催されていた展示会、CEATECに足を運んだ。
 CEATECは、現在は情報通信やAIなどの展示会だが、かつては家電の日本最大の展示会だった。そのころと比べると、とても寂しい展示会となっていた。
 会場には、さまざまな先端技術を開発している大学の研究室やスタートアップの小さなブースが目立つ。DXを推進しようという社会の流れに応じた、多くの企業の出展もあったし、いくつかの企業の展示は、関心は主にエネルギー系ということになるけれども、多少はあったとはいえる。
 それでも、来場者は多いとはいえず、専門的な展示に対しては、なかなかこちらも受け止めきれなかった。

 家電の展示会だった時代は、日本の大手家電メーカーがこぞって新製品やまだそこにいたっていないコンセプトモデルを展示していた。
 すごい家電が見られるということで、会場には活気があったし、幕張メッセで使われている展示会場もはるかに広かった。

 未来の家電が見られる、というのはどういうことかといえば、未来の暮らしが見られる、ということだ。昔は考えられなかった暮らしが、手の届くところまで来ている、そうしたことが、展示会を活気づかせていたし、メディアももっと注目していた。
 しかし、やがて家電はだんだんと未来を見せることができなくなっていった。理由はいくつかある。日本が相対的に貧しくなり、高級家電が買えなくなっていったことがあるだろう。行き過ぎたプロダクトアウトの製品が、消費者にマッチしなかったこともある。その最たるものは、HEMSだったということは、筆者自身がかかわっていたこともあり、よくわかる。

 CEATECの展示で見た、最後のあだ花のようなものが、「自動洗濯もの折り畳み機」だった。たしかにシャツをたたんでくれる。でも、大きすぎる機器で、実用性はなかったし、そもそもそこまでしてシャツをたたむ必要はなかった。シャツは洗濯しなければ繰り返し着ることはできないが、たたまなくても着ることはできる。

 家電は人々の暮らしに夢を見せることができなくなってしまった。同時に日本の家電メーカーは凋落し、家電メーカーとしての東芝やシャープはすでに日本の会社ではない。むしろ、日本を代表するメーカーはアイリスオーヤマなのだろう。

 CEATECでは一時期、EVの展示が多かったこともある。EVというのは、電気自動車ではなく、走るスマホだと考えた方がいい。あるいは、走るプレイステーションだろうか。ソニーが考えるEVはそういうものだった。
 そして現在、EVの市場に、日本車がいるべき場所はない。ソニー/ホンダをのぞけば、走るスマホを理解しなかった、内燃機関の成功体験から脱出できなかった日本の自動車会社にとって、当然の帰結である。
 それはもっと言えば、日本の自動車会社は人々に夢を与えることができなくなっていった、ということだ。

 さて、秋はガス機器の展示会の季節だと思う。
 CEATECとは違うかもしれないが、それでも人々に豊かな暮らしを提案することができる展示会であってほしいと思う。身近な展示会だからこそ、少しでも手の届く先の未来を示すことができればいいのではないか。そんなことを思うのだ。

連載47(2023.10.11)

外資系はもっと地方のDXとGXを支援してもいいのでは?

 先日、あるセミナーに参加していた。たまには、GXとDXについて、外資系企業の話をじっくり聞いてもいいのではないか、そう考えたからだ。
 このセミナーで強く感じたことがいくつかある。

 まず、外資系の企業が、なぜ脱炭素先行地域モデル事業に参加していかないのかなあということ。たしかに、モデル事業での事業規模は小さい。しかし、モデル事業というように、これから電力業界のプレーヤーが変化し、新しい事業モデルを模索していかなければいけないということも指摘できる。おそらく、旧一電を中心とした大手が市場を支配できるのも、長くてあと10年だろうし、発電設備もその管理も分散型になるのだから、そういった方面にもっと力を入れてもいいのではないだろうか。そしてその経験が、海外を含めた次の市場でも生かされると思うのだが、どうだろうか。

 たしかに、外資系企業にとって、日本の自治体は入っていきにくいのかもしれない。しかし、地方自治体に入っていくことで、自治体にとっても、今以上に先進的なモデル事業ができるのではないだろうか。

 これはDX企業には限らない。GXしか考えていないような、いくつかの外資系の太陽光発電のデベロッパーにも同じことを感じている。それはつまり、いつまでもメガソーラーを開発していればいいというわけではないだろう、ということでもある。もう少し地域の脱炭素化に貢献していただきたいし、それもまた、持続可能な企業であるためには必要だと考えるのだが。

 それから、ちょっと視点がずれるのだが、環境価値をブロックチェーンで紐づけることにどのような意味があるのか、ということも考えた。こうした取り組みは、環境価値を資本主義経済における価値として定義づけるためのことでしかなく、実質的な環境保全にはあまり役立っていないのではないか、ということだ。

 必要なのは、全体として温室効果ガスが削減されているということと、個々の温室効果ガス削減プロジェクト(あるいは生態系保全もそうだが)が問題ないということを認証することだ。

 そもそもGXもDXも、世界の潮流を考えると避けられないことだ。20年以上前から、DXによって、電力自由化は歴史的に必然だった。気候変動対策としてのGXによって電源の分散化は不可避である。逆に言えば自由化やGXのためにDXがあるわけではなく、その逆なのだ。

 そして、そのことを改めて思ったのは理由がある。2008年に「電力・ガス業界の動向とカラクリがよーくわかる本」の最初の版を出したときから、これからの電気事業は「電気をつくって届ける事業」ではなく、「電力を安心して使うためにシステムを安定させる事業」なのだと考えていたからだ。ガス事業も公益事業として、同じ文脈にある。そのことは今も変わっていない。

連載46(2023.9.25)

気候変動と電力需要

 気候変動問題は、脱炭素とは別の文脈で、ガス事業者への影響がある。というのも、気温が上昇するほど、暖房・給湯のガス需要が減るからだ。
 そして、気候変動対策として電化が進んでいくとしたら、ガスそのものの消費量はますます減っていく。
 もちろん、ガス冷房という手段もあるのだけれど。

 ところで、9月18日の週、日本卸電力取引所(JEPX)のスポット市場の価格が、久々に50円/kWhとなった。この週の夕方は、新電力は50円で買った電気を35円くらいで売ることになる。もちろん、託送料なんかもかかる。
 実は、昨年から、卸電力価格が急騰しないように、電力広域的運営推進機関(OCCTO)は追加の電源を募集してきた。また、政府の指導で発電会社はLNGの在庫も積み増してきた。その結果、昨年冬から一時的な急騰(スパイク)は出なくなっていた。来年度以降は容量市場によって電源が確保されているので、ますます電源の不足は起こりにくくなる。
 ところが、その見込みが外れたということだ。

 松尾豪氏のツイート(Xとはあえて書いてあげない)によると、火力の定期検査の影響があるようだ。確かに電源が十分にあっても、検査中は発電しない。そして、検査は基本的に、電力需要が下がる春や秋に行われている。
 問題は、秋になっても気温が下がらず、電力需要が予想を超えてしまったことによるのだろう。ということは、電源を確保していても不足する可能性は小さくないし、残暑が厳しいほど、その可能性は高まる。
 思い出すのは、昨年3月、季節外れの厳寒と降雪によって、東京エリアで需給がひっ迫したことだ。このときも、定期検査に入っていた火力発電所が少なくなかった。

 電力需要もガス需要も気候の影響を受けるのであれば、それに応じた供給の見直しも必要となってくるだろう。今までと同じように電気やガスが使われるわけではない。

 とはいえ、このように卸市場価格が高騰すると、最近注目の系統用蓄電池の事業の採算性が向上する。日本では、太陽光発電がかなりの量がこれからも導入されていくので、系統用蓄電池も相当量の導入が必要となってくる。しかし、昨年冬以降、卸市場価格の変動は小さめで推移しており、なかなか採算がとりにくいのではないかと思われていた。そこにきてのスパイクなので、それはそれで、適切な電力設備を形成していくためには必要なものなのかもしれない。

連載45(2023.9.11)

脱炭素先行地域で考えたこと

 第4回脱炭素先行地域の募集が締め切られた。今回は縁あって、ある自治体の応募を少しだけお手伝いさせていただいた。そこで感じたことをいくつか。

 まず、補助金を取りに行くというモチベーションをどうするのか。よく、補助金が目的化している、という批判がなされるけれど、それはちがっていると感じた。補助金をとりにいくことで、地元を変えたいという思いが強くなる、というのはある。それはけっこう大事なことだと思った。

 とはいえ、補助金の先を考えるのは難しい。例えば、オフサイトPPAの場合は2MW未満という上限がある。したがって、小規模でつくるか、オンサイトPPAを選択することになる。でも、考えてみれば2MW以上であれば経済産業省の補助金があるので、最初に小さくつくって、それを発展させていけばいいことだ、という発想に立つことが大切である。

 先行地域なのだから、新しいことをすることが目的となっている。モデルをつくり、それを広げていくということなのだから。
 しかし、新しいことを理解するのは簡単ではない。どうしても、他と似た事業に落ち着いてしまう。住宅に太陽光発電と蓄電池を設置していくことは、コストがあわなくてなかなか進まないけれど、それを補助金で進めていくというのは、理解できる。特に電力フリッカ問題があるエリアで再エネを増やすには必要かもしれない。
 それはそうなのだけれど、やはり新味はないと思う。

 本当なら、例えば日本ではまだないコミュニティソーラーとかどうだろうか。そのやり方は一通りではないけれども、地域のエネルギーを地域住民で使うことができる。また、そのやり方を地元の企業まで広げることもできる。
 あるいは、地域独自の産業ならではの脱炭素化があると思う。ただし、地域の産業そのものも見直すことになる。例えば、酪農の場合、搾乳の時刻のシフトで、電気料金を節約できるのだが、現場はなかなか変えられない。ソーラーシェアリングでさえ、特産品を栽培する農家に理解してもらうのは簡単ではない。
 それに、再エネには関心があっても、省エネ事業への関心が低いことも気になっている。公営住宅や学校の省エネ化など、経済性では合わないけれど、地域住民の福祉の面で高い価値を持つ事業だってある。

 企画の作成から応募まで時間が少ないというのも感じた。でも、それは悪いことではない。一度つくってみて、再提出という形でいいのだろう。また、採択されたとしても、そのあとの方が課題は多い。地元の合意をとる時間がないまま採択されるとそうなってくる。でも、そこであらためて、地域に向き合うことになるのは、行政にとってもいい事だと思う。

 そんなことを感じたけれども、当然だけれど、LPガス会社はそこに積極的に加わってほしいと思う。そうでもしないと、中央の大手企業が利権を持って行ってしまう。
 そして、行政と一緒に、10年後、30年後の地域を考えながら、目の前の補助金をとっていくということになるのだろう。でも、それは自社にとっても、新しい事業を考える機会ともなる。例えば、バイオマス事業であれば、LPガスボンベの配送ネットワークを使って、バイオマス燃料の配送だってできる。

 次は第5回の募集がある。地域を考えるには、本当にいい機会だと思う。LPガス会社も地域を支える会社として前向きに取り組んで欲しい。

連載44(2023.8.21)

オクトパスエナジーは何がしたいのだろうか?

 最近、X(旧ツイッター)を見ていると、オクトパスエナジーの広告が目に付く(これは人によって違うと思うけど)。渋谷駅でもオクトパスエナジーの広告が目立っている。
 オクトパスエナジーにすると、電気料金は少し安くなるらしい。しかも、CO2排出係数はゼロになる料金メニューの方が安い。

 元々、オクトパスエナジーは英国の小売り電気事業者だ。日本進出にあたって、東京ガスとの合弁会社TGオクトパスを設立し、事業を展開している。
 何と言っても、タコのキャラクターが印象的だ。個人的には、このキャラだけでも、乗り換えてもいいとは思うけれども、一般的にはそうではないだろう。
 オクトパスエナジーの日本での展開に対して、日本経済新聞は、独自性が出せていない、と素っ気ない。

 オクトパスエナジーは、日本で何がしたいのか、何も伝わってこないのだ。安くなるだけでは、小売電気事業としてはもはや成り立たない。再エネ主力の電力会社は他にもある。ガス会社の資本が入っているにもかかわらず、都市ガスの販売は行わない。それでは、東京ガスでの電気とガスのセット割のほうがましではないか。
 まさか、サービス開始後、思うように顧客を集められなかったので、広告費を投入した、というだけではないだろう。

 オクトパスエナジーの英国での強みは、クラーケンシステムにあるという触れ込みだった。これは、柔軟な料金メニューの設定ができるというもので、このシステムだけで英国外に進出している、というイメージだった。
 しかし、これはおそらく、東京ガスの重大な過誤ではなかっただろうか。ちょっと調べればわかるが、オクトパスエナジーの魅力は、柔軟な料金設定などではなく、顧客にニーズにあった料金設定にある。通常の料金メニューに加えて、年間で価格を固定するメニュー、EV向け料金メニュー、再エネ100%だけではなく、ガスのカーボンをオフセットするサービス。しかも、アプリケーションでCO2排出削減を可視化できる。他にも、プリペイド型料金のように、英国では他の会社も取り入れているメニューもある。

 問題はオクトパスエナジーではなく、東京ガスが「何がしたいのかわかっていない」ということだ。それがわからないまま、広告費を投入するのは、単なる無駄遣いだろう。

 本来であれば、小売電気事業は(ガス事業もだが)、もっと顧客に寄り添った形で大きく変化する必要がある。そうであっても、英国では小売り電気事業者が困難な状況に追い込まれている。そうした厳しい環境でなお、生き残ろうとしている。
 こうした英国のオクトパスエナジーの経験は、都市ガス事業にも大きな示唆を与えるはずだ。極端に言えば、10年後は一般家庭向けのメインがオクトパスエナジーで、東京ガスはB2B専門の会社になっていてもおかしくないと思っていた。キャラクターにも本国の事業にもそれだけの魅力がある。
 しかし、そうした期待はもう持てないのかもしれない。

 最も、日本のエネルギー会社の広告を見ていると、JERAにせよJパワーにせよ、アンモニアで脱炭素を目指すのはいいけれども、約束できない未来を語っているにすぎず、目の前の顧客にどのような価値を提供してくれるのかはわからない。いや、東京ガスのメタネーションのコマーシャルですら同様だ。

 実は、オクトパスエナジーだけではなく、英国でいえばOVOエナジーなどの新電力や旧一電に相当するブリティッシュガス、あるいは米国のデュークエナジーやPG&Eなどを調べたことがあった。本当に小売り事業で様々な取組をしている。その中に、日本の小売り事業が学ぶべきことや新事業のヒントはたくさんあるはずなのだが。
 日本の会社は変えられないのだろうか。

連載43(2023.8.7)

大人の思い込みを疑え

 暑い日が続きます。今年の7月は12万年ぶりの暑さだったとか。地球温暖化を感じないわけにはいきません。もっとも、今なお、地球が温暖化していることを信じない人や、二酸化炭素が原因ではないと主張する人がいます。これには、どうしたものかと思います。

 ところで、夏といえば甲子園です。高校野球全国大会ですね。しかし、最近では、この暑さの中で試合をやることの是非が問われるようになってきました。屋外での運動は避けるべきだという気温の中で試合をすることは、もはや危険な水準だということです。
 これは、その通りだと思います。もはや、健全なスポーツだとはいえなくなっています。地方予選も含めて、これから見直されるべきことでしょう。

 ところで、高校野球全国大会、これまでも少しずつ変えてきたことがあります。ベンチ入りのメンバーを増やすことや、ピッチャーの連投を避けるため、大会に休養日を設定することなどです。また、延長戦になった場合は、10回からタイブレークとなります。ヘアスタイルも坊主刈りは減って、スポーツ刈りくらいにはなってきました。
 それでも、まだまだ変わるべきことが十分ではないとも感じます。

 高校野球は「高校」という名前があるように、学校を対象としたスポーツです。したがって、そこにはスポーツを通じた個人の育成という目的があるはずです。では、そうなっているのでしょうか。
 大会として考えた場合、選手の健康管理すら十分ではないと思います。少なくとも、ピッチャーの連投はありえません。将来を考えれば、ありえないことです。ロッテで活躍する佐々木朗希選手に対し、高校の監督が地方大会における決勝での登板を回避したことは知られています。こうした対応が、現在のプロ野球での活躍につながっていると思います。

 育成という視点で考えると、常に監督の指示で動くというのもどうかと思います。むしろ、選手がフィールドで判断すべき場合も多いのではないでしょうか。教育という点では、むしろ現場で判断できる選手を育てるべきでしょう。
 さらに、試合に出場できない補欠という問題もあります。3年間に一度も試合に出場しないというのは、アマチュアスポーツとしてもあり得ないことだと思います。海外では、補欠メンバーによるスポーツの試合もあたりまえです。
 トーナメント形式の大会も批判されています。地域の学校でリーグ戦をすればいいのではないか。結局、スポーツの楽しさは試合をするところにあります。
 それに、ついでに言うとヘアスタイルも自由でいいし、ドレッドヘアや茶髪や金髪でもいいのではないでしょうか。

 さらに少年野球に話を広げます。今は、ピッチャーはチェンジアップ(というか単純にゆるい球)以外の変化球は禁止です。宮本慎也杯という大会では、バントも禁止です。知り合いは、盗塁も禁止でいいといいます。野球本来の楽しさは、投げて打って走って捕るというところにあるのではないでしょうか。草野球の楽しさが少年野球には失われているというのは、よく言われることです。

 青少年のスポーツにまで話を広げます。元バレーボール日本代表の益子直美は、監督やコーチが選手に怒ることを禁止すべきだといいます。
 また、中学校以下では、全国大会をなくす動きもあります。

 高校野球に話を戻しましょう。
 本当は、全国野球大会は、甲子園球場でやる必要はなく、インターハイでいいのではないかと思っています。甲子園球場で大会を実施し、NHKによって全国放送されるというのは、高校野球を特別視しすぎだと思いますし、大人の幻想が入り込んでいるような気がします。
 そして、高校野球だけがそういった特別視されることで、選手の立場に立った改革がなされていないのだとも思うのです。
 その結果、選手が野球をすることをどこまで楽しんでいるのか、むしろプレッシャーの方が大きいのではないかとも感じてしまいます。
 その点、全国高校女子野球の方が、選手が生き生きとしている、という話を聞いたことがあります。

 ここまで、エネルギーに関係ない話をしてきました。
 でも、本当はそうではないのです。経営者や管理職の思い込みが、組織の成長を阻害しているということはあるでしょう。本来の目的を見失っているということもあるかもしれません。そうした中で、時代の変化に取り残されていることもあるでしょう。
 高校野球というのは、組織のマネジメントの上では、反面教師でもあると思います。

 高校野球が嫌いなわけではありません。というか、野球は観るのもするのも好きです。だから、すべての高校球児が、甲子園大会も含めて、野球を楽しんでくれたらいいと思います。

連載42(2023.7.24)

地域新電力を助ける

 最近、地域新電力の方々の話を聞いていて、不安に思うところがある。きれいごとだけで考えていて、本質をわかっていないのではないかということだ。
 小売全面自由化以降、地域新電力はいくつも設立された。そこには、エネルギーの地産地消と地域経済の循環という理念があったし、地域に対する想いもあった。けれども、実際には、昨年までの電力市場価格高騰で経営に大きなダメージを受けた。幸い、現在は電力の市場価格が落ち着いているので、利益を出せているのではないかと思うが、将来もこうした状態が続くとは限らない。

 地域新電力がダメージを受けた理由は、その多くが市場に依存していたからであり、地元の再エネといっても、FIT電源を特定卸供給という何の意味もない制度を利用して確保していたため、こちらもまた市場リスクがあった。非FITの電源や相対取引などを利用してリスクを回避できた部分は少なかった。また、相対取引やベースロード市場を利用したくても、決して安い価格ではなかった。
 そこで、非FIT電源を増やすということが、地域新電力の残された選択肢ということになる。しかし、本当にそうなのだろうか。

 地域新電力に求められるのは、地域の「エネルギー」を地域に供給することだけではない。そのことによって、地域にメリットをもたらす必要がある。そしてその方法は、再エネを増やすことだけではない。また、再エネの増やし方にもくふうが必要だ。
 さらに、電力システムを通じて地域にメリットをもたらすためには、電力システムの将来像を描くことができなくてはいけない。柔軟性(フレキシビリティ)を提供することも考える必要があるということだ。

 再エネも、自社開発だけではなく、ユーティリティPPAという方法もある。市民発電所とのPPAということもあるだろう。住宅の卒FITを集めることがすべてではない。
 地域新電力に求められるのは、地域の再エネ供給だけではない。経済的メリットをもたらすのだとすれば、省エネやDR(デマンドレスポンス)も不可欠だ。とりわけ省エネでは、住宅向けであれば、断熱リフォームをはじめ、照明のLED化や古いエアコンの更新などもある。エコキュートの運用もその1つで、太陽光発電がさかんな日中の運転が望ましい。
 事業所の省エネについても、やるべきことは多い。オンサイトPPAとセットで提供することも可能だろう。この場合、ピークカットは日中ではなく夕方になる。
 また、電気料金も時間帯別料金にするべきだろう。地域の非FIT再エネを増やすことは簡単ではないし、相対取引やベースロード市場の利用も限界がある。ある程度、卸取引市場や特定卸供給を利用するのであれば、日中を安くし、夕方からのシフトを考える必要がある。そこで、料金にインセンティブをつけることになる。

 さらに、今後はEVへのサービスも必要となる。EV充電設備の設置や運用も地域新電力の仕事ということになる。
 住宅用だけではなく、事業所や公共の場所への設置も増えるだろう。

 ここまで書いていくと、地域新電力がやるべきことは多い。しかし地域新電力にはそれだけの力があるかといえば、ほとんどないだろう。限られた人数で小売り電気事業を行ってきたというのが実情だからだ。
 そこで、いくつかのサービスを提供するために、他の事業者と提携することになる。そうしたとき、地域のLPガス事業者が担うことができる役割は、少なくないはずだ。
 共同でPPAを推進することや、住宅のリフォーム、エコキュートをはじめとする家電の省エネ化のように、住宅におじゃまして行うことは、LPガス事業者の得意とすることではないか。

 現在の地域新電力は、ピンチを乗り越えてきた存在だ。とはいえ、ピンチのあとにチャンスがあるといっても、単独でそれをものにするのは容易ではない。だからこそ、LPガス事業者にとってもチャンスなのではないだろうか。

連載41(2023.7.10)

脱炭素先行地域モデル事業は可能性の山

 筆者はある自治体の、脱炭素先行地域モデル事業の企画立案を支援している。そこで感じたことは、この環境省の事業は、多くの可能性があるということだ。同時に、予算措置がその可能性に対応しきれていないことも指摘できる。当たり前のことしか想定されていない予算の枠組みで、新規性のあることをしなきゃいけない。しかも、すでに第3次まで選考しており、だんだんと要求されるレベルが上がっているというのだが。

 地方を脱炭素化するにあたって、その地方の状況を調べていくと、地方ごとに様々な可能性があることがわかる。
 太陽光発電をとってみても、地方が抱える要件はさまざまだ。すでにメガソーラーなど大規模な設備が入っているところは、追加で入れることは簡単ではない。しかし、だからこそ蓄電池併設でさらに追加導入を目指すことができる。というのも、この追加導入こそ、全国に拡大するものだ。単なる系統用蓄電池というだけではなく、周波数の乱れに備えることもできる。
 温泉があれば、地熱発電は無理でも、熱利用はできる。温度によっては冷房までできる。
 工業団地全体の脱炭素化もチャレンジングだ。団地全体を対象としたシェア型PPAだって可能だろうし、団地内のマイクログリッド化も可能だ。

 エネルギーだけではない。地域ごとに抱える課題だって異なる。産業が異なるし、人口構成も異なる。地方都市と集落でも異なる。交通インフラだって違うのだ。
 畜産や養鶏の脱炭素化、EVバスの導入、カーボンゼロのサテライトオフィスの誘致など、いろいろ考えられる。

 きちんと問題意識を持てば、これまでのFITが、地域外の投資によって再エネ設備をつくり、地域外に供給し、地域外に利益を流出させていくものだったとすれば、今やらなければいけないのは、地域内の経済循環とエネルギーの地産地消ではないか、とも考えることだろう。実質的にFITが終了し、FIPに移行したのは、そうした変化だととらえてもいいだろう。

 そのはずなのだが、なぜか画期的な取組はなかなかない。むしろ、大手の事業者が地方自治体に提案し、予算獲得したあとはその事業者が事業を実施するという、FITとあまり変わらないような姿さえみえたりもする。
 もちろん、自治体が中心となって脱炭素化を進めるには、人材が足りないし、アイデアも足りないということはあるのだろう。

 さらに、「地域貢献」を社是としてきた旧一電もあまり協力的ではないときく。
 地域貢献といっても、とりわけ地方電力会社にとって、地域の経済成長なしには自社の成長がない、ということの裏返しであるはずなのだが、その電力会社は再エネが嫌いなのでなかなか積極的になれない、というのだろうか。たしかに、供給する電力量が減る事業を支援するのは、とりわけ現場の人には心理的にも難しいものがあるのかもしれないが。

 それでも、本質的にはさまざまな事業機会に国家予算が準備されており、地域を脱炭素化につくりかえることができるはずだ。同時にそれは、地域の課題解決にもつながる。
 EVバスの導入は、将来の自動運転導入も視野に入れた、交通インフラの改革となるし、サテライトオフィスの誘致は若い世代に働く場所をもたらす。
 農業や畜産業の脱炭素化もまた、次の世代に産業を引き継ぐことにつながる。ソーラーシェアリングは農業の高付加価値化につながるし、搾乳を日中にシフトすることは畜産業の労働環境の改善となる。
 再エネ導入がエネルギーコストを下げ、マイクログリッドが末端集落のレジリエンスの強化となる。
 温泉熱利用は、観光地の価値を向上させるし、その一方で自然環境の保全はエコツーリズムにつながる。
 工業団地ですら、大手企業のスコープ3の対策として脱炭素化が急務だが、だからこそシェア型PPAや団地全体のエネルギーマネジメントシステムの導入など、先進的な取組が可能だ。

 このように、脱炭素化はさまざまな機会につながっている。そしてその機会は、地域が抱える課題にある。
 再エネの建設場所がないとか、蓄電池だけでVPPをしたいとか、誰もが考えるような施策では、モデル事業にはならないが、視野を広く持てば、いろいろなアイデアが出てくるはずだ。
 本当は、旧一電も含め、地域のエネルギー会社こそ、その核心を担うべきだし、これまでのエネルギー供給事業からソリューション事業へのピポットともなるはずなのだが、どうだろうか。