エネルギー業界ニュース

本橋恵一の「これからのエネルギー事業を考えよう」

本橋 恵一:環境エネルギージャーナリスト/コンサルタント・H Energy日本担当カン トリーマネージャー
エネルギー業界誌記者、エネルギーIoT企業マーケティング責任者などを経て、電力システムや再エネ、脱炭素のビジネスモデルなどのレポート執筆、講演などで活躍。著書に『電力・ガス業界の動向とカラクリがよーくわかる本』『図解即戦力 脱炭素のビジネス戦略と技術がしっかりわかる教科書』ほか。

連載69:反面教師としての日本原電連載68:ペロブスカイト太陽電池の戦略は正しいのか?連載67:「もしトラ」から「ハリかも」連載66:SDGsって環境だけじゃない連載65:愚策によって周回遅れになる日本連載64:北海道はヨーロッパだと考えてみよう連載63:サービスステーションの将来連載62:原子力のためのエネルギー基本計画連載61:キャッシュレスとDX
連載51〜60連載41〜50連載31〜40連載21〜30連載11〜20連載1〜10

連載69(2024.9.2)

反面教師としての日本原電

 日本原子力発電(以下、日本原電)の敦賀原子力2号機は、原子力規制委員会の審査の結果、不合格となった。これによって、再稼働はほぼ絶望的となった。今回は、不合格となった意味について、ちょっと考えてみたい。

 不合格の理由は、原子炉建屋の下に活断層があるということが否定しきれないから、ということだ。
 原子炉の規制においては、活断層は12万年から13万年くらいまでの間に活動した形跡があるということになっている。そのくらいの過去であれば、まだ活動する可能性が高い、ということだ。
 日本は地震大国ではあるものの、原子炉は高い耐震設計で建設されている(はず)。それでも直下で地震が起きた場合の、原子炉への影響ははかりしれない。
 (はず)とカッコ書きしたのは理由がある。原子炉の耐震設計基準は、一貫して引き上げられてきたからだ。東日本大震災以降のことではない。地震の研究が進むにしたがって、予想される地震の震度や規模が変わっていったからだ。
 例えば、中部電力浜岡原子力は、完成後に耐震性を向上させる工事を行っている。しかし、耐震工事を実施するだけの経済性がない1号機と2号機は廃炉となっている。

 しかし、考えてみたいのは不合格になったということではなく、それをとりまくプロセスや背景についてだ。

 日本原発には4基の原子力発電所があるが、うち2基はすでに廃炉となっている。東海第二原子力は再稼働の審査結果こそ合格になったものの、自治体や住民からの合意が得られていない上、防潮堤の工事のやり直しが必要となっており、再稼働の見通しは立っていない。
 そして敦賀原子力2号機の不合格である。
 日本原電が抱える問題の1つは、東日本大震災以降、まともに発電できていないのに、存続しているということだ。発電していなくても、東京電力や関西電力からの、いわゆる基本料金という収入があるので、事業は継続できている。そしてその基本料金は、東京電力や関西電力の原価として算定されている。
 もっとも、東京電力の柏崎刈羽原子力もまったく発電していないが、東京電力が所有しているので、明示的に柏崎刈羽原子力にお金を支払うということはない。日本原電が別の会社であるがゆえに、費用が明示的になっている。

 とはいえ、この先も発電しそうもない日本原電は、解散した方がいい、というのが一般的な見方だろう。しかし、それは簡単ではない。発電しないとしても、長い廃炉作業が待っている。1998年に営業運転を停止した東海発電所は、現在もなお、廃炉作業が進められている。予定では2035年まで続く。
 そして、本当に日本原電を解散するとしたら、廃炉を含めた費用が顕在化し、それを東京電力や関西電力が負担することになる。その日本原電の解散を決めるのは、日本原電ではなく、親会社の東京電力や関西電力などの旧一般電気事業者だ。日本原電には決定権はない。

 こうしたことの裏返しとして、日本原電のモラルの低さという問題がある。
 敦賀原子力2号機の審査が長期に及んだ背景として、日本原電によるデータの誤りや書き換えがあった。あまりにずさんな申請資料に対し、原子力規制委員会は審査をいったん中断している。
 東海第二原子力の防潮堤もまた、ずさんな工事が行われたため、やり直しが命じられている。
 実際にデータ改ざん事件や金品受領などの事件を起こしてきた旧一般電気事業者のモラルもほめられたものではないが、それ以上に日本原電には問題がある。子会社であるがゆえに、自己決定できないこと、どんなに努力しても社長になれないこと、といったことが、社員の仕事に対するモチベーションを下げてしまう。
 日本原電の社長は、東京電力からの天下りだ。現在の松村衛社長も東京電力出身。もっとも、もはや日本原電の社長は引き受け手がなく、村松社長は在任10年になろうとしている。企画部畑で長年、勝俣恒久元会長の下で仕事をしてきた村松氏は、負の遺産を引き受けるつもりなのだろうか。

 原子力規制委員会は、政府の機関であり、委員はだいたい原子力推進派だと考えていい。事務方となる原子力規制庁も、設立当初は環境省の職員が担当していたが、いつの間にか長官には経済産業省出身者が就任するようになっている。
 つまり、敦賀原子力2号機の不合格は、推進派が審査した中での不合格という、重い物なのだ。もちろんおおよそ推進派とはいえ、委員は学者であり、それゆえの矜持もある。

 ここで考えてきたことは、原子力発電の再稼働ではない。エネルギーインフラを運転していくためのモラルであり、正しく行動するモチベーションが持てる組織であるべきということだ。それが欠落していたのが、日本原電ということだ。
 このことは、LPガス事業も同じではないだろうか。

連載68(2024.8.21)

ペロブスカイト太陽電池の戦略は正しいのか?

 最近、再エネ関連の技術で注目されているのが、ペロブスカイト太陽電池である。現在主流のシリコン系よりも軽くて曲げることもできる。したがって、耐荷重性の低い屋根や壁面にも取り付けられる。まだ耐久性や寿命で課題があるということだが、資源エネルギー庁のホームページでは日本の再エネ拡大の切り札だといわれている。
 日本の高い技術が生かされている分野として、期待がかけられているということだ。
 経済産業省は今年6月から官民協議会を設置して、全面的な推進をしているという。

 でも、経産省のペロブスカイト推進の戦略は正しいのだろうか? 結局のところ、かつての太陽電池と同じ運命をたどるような気がしてならない。

 かつて日本は太陽電池生産量では世界のトップクラスだった。といっても、まだまだ世界中で生産量が少ない中でのこと。ドイツに抜かれ、そのドイツも中国に抜かれる。もはやシリコン系の太陽電池の生産は中国を抜きには考えられない。
 これをもって、日本は太陽電池生産の失敗を繰り返してはいけない、という人たちがいる。
 でも、風力発電も蓄電池も、もはや中国が主な生産国となっている。電気自動車ですら、中国が世界中に拡大し、テスラですらその地位が危うくなっている。

 このようにふりかえってみると、ペロブスカイト太陽電池の生産が日本の重要な産業になるとは思えない。いずれは中国での生産が主流になってくるだろう。したがってこのままでは、「シリコン系太陽電池の失敗」を繰り返すことになる、ように思える。

 でも、そもそも「シリコン系太陽電池の失敗」とは何だったのか。日本の産業として育成できなかったことなのか。
 おそらく、そうではない。いずれ中国で大量生産されることを前提に、安価になった太陽電池でどのようなシステムをくみ上げるのか、どのようなソリューションを提供するのか、どのような新規事業を開発するのか、そうした点に十分に注力できなかったことが、失敗だったといえる。
 例えば、経産省は太陽光発電所を、将来日本を支える電源としてどこまでイメージできていたのか。目の前のRPS制度やFIT制度、PPA推進だけで、結果として再エネが大量導入された電力システムの運営に苦労しているのが実態だ。

 だとしたら、今考えるべきことは、ペロブスカイトが普及した時点で、どのようなサービス、どのようなソリューションを構想していくことではないだろうか。また、ペロブスカイトが普及した電力システムはどうなるのか、建物のデザインはどうなるのか、そういったことだ。そしてそれこそが、日本の重要な産業になっていくのではないだろうか。

 最近では、ペロブスカイトによるソーラーシェアリングの実証実験を、積水化学工業とTERRAが共同で行うという。おそらくその先に、温室を使ったソーラーシェアリングなどもあるだろう。というか、言わせてもらうと、ここは米国のようにアグリボルテックスと言っておきたい。夏の遮光に太陽電池を使うことで、農業生産を向上させる、くらいの発想があってもいいからだ。
 他にも、牛舎や鶏舎などに設置して、新しい畜産や養鶏をデザインすることができるだろうし、発電する壁を標準化することもできる。
 そして、それらを効率的に運用するための蓄電池や給湯機の存在も欠かせない。電気自動車もまた、このシステムに組み込まれていく。

 つまりは、経産省が考える戦略とは、ペロブスカイトを開発して普及させることではなく、ペロブスカイトが普及した社会をどのようにデザインするか、ということなのではないか。そして、そこまでの想像力が持てない現在の戦略は、おそらく正しくない。

 考えてみると、日本を代表するエネルギー機器であるエコキュートに代表されるヒートポンプ技術が、世界中での電化の推進で注目されているはずなのに、そのヒートポンプが普及拡大したエネルギーシステムのデザインがなされていない。おそらくそのことが、日本の高い技術をもってしても、なぜか世界的に存在感を示せず、海外メディアでヒートポンプの代表的メーカーとしてなぜかLGの写真が使われたりしてしまっている。
 ペロブスカイト戦略は、また悪い夢を繰り返すようなものなのだろうか。

連載67(2024.8.6)

「もしトラ」から「ハリかも」

 今、アメリカでは「ハリスの旋風」が吹いている。と書くと、60代以上なら反応しそうですね。
 アメリカ大統領選挙では、民主党のバイデン大統領が立候補を断念し、ハリス副大統領が民主党の大統領候補として、共和党のトランプ候補との間で選挙戦を戦っている。
 高齢が問題視されたバイデン大統領は支持率が下がっていき、最初の討論会以降、このままではトランプ元大統領が優勢だった。しかし民主党の重鎮がバイデンに選挙戦から下りるように圧力がかけられ、最後はハリスを大統領候補として支持するとした。急速に民主党がまとまり、ハリス副大統領への支持はトランプ元大統領に拮抗している。

 これを書いている時点では、そんな状況なのだけれど、これによりアメリカは、「もしトラ」➡「ほぼトラ」➡「ハリかも」へと変化していった。

 このアメリカ大統領選挙は、アメリカだけの問題ではなく、日本にも欧州にも中東にも影響を与えるし、気候変動問題とエネルギー問題への影響も大きい。
 そして、トランプ元大統領の当選を望んでいる国は、イスラエルくらいだ。欧州はトランプ政権の混乱した4年間を悪夢だったと考えている。欧州では極右勢力が拡大しているとしても、トランプ大統領を望んでいるわけではない。ただ、国家どうしの分断が進むだけだろう。

 さて、ハリス副大統領が当選したらどうなるだろうか。海外のエネルギーニュースサイトでは、すでにこうした報道がなされている。
 基本的には、バイデン大統領の路線を踏襲することになるだろう。とはいえ、ハリス副大統領はバイデン大統領以上に気候変動問題を深刻に考えているという。カリフォルニア州司法長官時代には、bpやコノコフィリップス、エクソンモービルと戦ってきたのだ。
 シェールオイルの掘削に対しても環境汚染を問題視している。
 何より、実際に今年のアメリカは、灼熱の高気圧に覆われ、あるいは強力なハリケーンが南部を襲い、山火事が相次いでいるのだから、若い世代にとっては気候変動は自分たちの将来に関わる深刻な問題なのだ。地球が沸騰する前に死んでしまう老人にとっては大した問題ではなかったとしても、だ。
 したがって、アメリカの2035年における温室効果ガス排出削減目標も高いものになるだろう。気候変動枠組み条約を離脱しようとしているトランプ元大統領とは180度異なる。

 日本はアメリカの政策を追随することになる。アメリカの目標が高ければ、日本も高い削減目標を迫られるし、再エネ導入目標やEV導入目標も足並みをそろえさせられる。

 それでも、日本にとっては、というか少なくともエネルギー業界にとっては、ハリス大統領の方が好ましい。シェールオイルの減産はアメリカ産LPガスの輸入に影響を与えるかもしれない。それでも、中東の混乱はトランプ元大統領よりはひどくないだろう。
 おそらくイスラエルによるガザ侵攻はネタニヤフ首相の失脚によって片付くのではないか。ハリス大統領となれば、その可能性は高まる。
 それに、トランプ大統領時代の日本は、当時のアメリカの政策に追随してしまったために、バイデン政権になってあわてて気候変動対策を修正しなければいけなくなった。そのことで日本が世界から遅れてしまったことを考えると、結果的にはハリス大統領の方が望ましいといえる。

 その点、日本は誰が総理大臣になっても、あまり変わらない感じがして、それはそれで良くないなあ、とも思うのだが、その理由はといえば、政治家にも政党にもまともな政策立案能力がなく、役人におんぶにだっこだからなのだが。その役人がアメリカばかり見ているのだから、まあ、やっぱりアメリカ大統領選挙は私たちにとって、とても重要ですね。

連載66(2024.7.22)

SDGsって環境だけじゃない

 東京都江戸川区には、ちょっとユニークなSDGsのアプリがある。
 といっても、全体的には、それほどユニークな感じはしない。

 どんなアプリかといえば、SDGsに関する行動をとることで、ポイントがたまるというしくみだ。たまったポイントは江戸川区内の飲食店で使える。
 SDGsに関する行動といえば、マイバッグを持参する、省エネする、健康のために運動する、といったようなことだ。ボランティア活動でもポイントがたまる。それでも、江戸川区の温室効果ガス削減にはそれなりに役立つし、区民への啓発にもなる。

 でも、ユニークなのは、もっと別のところにある。
 実はこのアプリのベースとなったのは、認知症の行方不明者を探すためのアプリなのだ。

 実は認知症者の行方不明者は毎年1万人を大幅に超えている。見つからない人も数百人規模だ。とはいえ、行方不明者を探すのは、警察だけでは十分ではない。地域住民の目を有効に使うことが重要だ。
 こうしたことから、あらかじめ認知症を探すボランティアを登録しておき、行方不明者が発生したら、どのような外見なのかなどを、専用ページで知らせる。ボランティアは、探すというより、通勤通学や近所への買い物、散歩などで注意してみてもらうだけでいい。それでも、けっこう発見される。

 残念なことに、認知症の行方不明者を探すアプリではどうしても登録者数に限界があった。そこで、SDGs全体にテーマを広げたということだ。結果として、登録者が大幅に増加したという。
 登録者だけではない。協力してくれる店舗の存在も大きい。
 結局のところ、やっていることは、地域住民のネットワークづくりなのだ。

 SDGsというと、どうしても気候変動問題ばかりに、あるいはせいぜいサーキュラーエコノミーにばかり関心が行く。省エネやマイバッグ持参をしていればSDGsなのか、というような風潮すらあるのではないか。
 しかし、SDGsの17の目標の中には、地域社会をつくっていくというものもある。暮らしやすい、持続可能な地域社会をつくっていくことも大切なことだ。

 エネルギー事業者というと、どうしても脱炭素化ばかりに目がいってしまうだろう。しかし、地域に根差した事業者という風に考えていくと、むしろ地域のネットワークに積極的にかかわっていくことが求められるのではないだろうか。それもまた、SDGsに向けた取組みだといえる。

連載65(2024.7.8)

愚策によって周回遅れになる日本

 電力・ガスに対して激変緩和措置ということで政府が補助金を支出してきたが、5月で終了した。ところが8月から再び3か月限定で復活するという。暑い夏でも安心してエアコンを使ってもらうため、だとか。でもこの補助金、岸田首相の人気回復以外の理由が思い当たらない。そして何より、この補助金は問題が多い。日本が脱炭素化に向けて周回遅れになるからだ。
 一方、ガソリンに対する補助金は終わる気配がない。

 確かに、さまざまなものが円安などの理由で値上げされる一方、賃上げは実質では追い付いていないので、庶民の生活は苦しくなる一方だ。だから、生活に不可欠なエネルギーの値上げが抑制されるのは、短期的には庶民にとっては歓迎すべきことだろう。
 もちろん、補助金に使われたお金は税金なので、将来は増税されるのではないか、と不安視する声もある。でも、問題の本質はそこではない。

 まず、押さえておきたいのは、気候変動枠組み条約では、化石燃料の補助金のフェーズアウトが求められているということ。化石燃料の消費抑制のためには、非化石燃料へのシフトが求められる。
 その点ではガソリンへの補助金はともかく、化石燃料の価格上昇による電気代・ガス代の上昇への対策という点では、いずれも化石燃料の補助金に他ならない。
 こうした日本の政策は、実際に昨年のCOP28(気候変動条約第28回締約国会議)でも指摘され、批判されていた。

 その上で、こうした補助金は一時しのぎにすぎず、脱炭素化に対してはマイナスだ。例えば、住宅用や産業用の太陽光発電によるPPA事業を考えると、需要家にとっては補助金の分だけ、導入のメリットが小さくなることが指摘できる。自宅の太陽光発電からの電気には補助金はつかわれない。
 これはガソリンも同様で、ただでさえ遅れている日本の自動車産業のEV化が、さらに遅れることになる。海外ではEV化が減速していると言われているが、大きなトレンドとしては、EV化は止まらない。

 電力・ガスとガソリンに対しては、これまで10兆円以上の国費が使われている。これらは結果として何も生み出していない。
 政策的に失敗だったといわれているFIT(固定価格買取制度)でも、全国に太陽光発電を増大させ、化石燃料の価格上昇を多少は緩和してきた。
 10兆円を、EV導入や充電設備の導入、再エネ導入や省エネ促進に使っていれば、脱炭素化は進めることができたし、その効果は持続的だ。

 電気代やガス代、ガソリン代の値上がりが生活を苦しくしているというのであれば、最低限の補助金でよかった。電気であれば、3段階料金の最初の120kWhまでは補助する、といったことも可能だったはずだ。公共交通を守るために、公共バスに限ったガソリン代の補助という方法もあっただろう。エアコンを安心して使ってもらうためには、買い替えの促進が効果的だったはずだ。

 欧州では化石燃料の価格上昇に対しては、基本的に補助金は使われていない。そのため、日本よりもはるかに高い電気代やガス代、ガソリン代となっている。もちろん庶民はこうした値上げに対して苦しんでいる。それでも、どうにか乗り切ってきたし、現在は化石燃料価格も落ち着いている。

 日本でも、5月で電力・ガスの補助金を一度終わらせたのは、化石燃料の価格が落ち着いているからだ。補助金が終わった反動と、特に電力については再エネ賦課金が2円/kWhも上昇したことで、電気代は5円/kWh以上も上昇した。それでも、各社の燃料費調整制度はマイナスになっているので、元の電気料金に戻った、ということだ。

 今回の電力・ガスの補助金復活は、首相の独断で決まったとも言われている。経済産業省は何も聞いていなかったとも。
 いずれにせよ、こうした近視眼的な政策が、将来を誤ったものにさせる。そうした事例は、実はいくらでもあるような気がする。

連載64(2024.6.20)

北海道はヨーロッパだと考えてみよう

 前回に続き、北海道の話。
 札幌の住宅街を歩いていると、東京ではまず見ないものを目にする。灯油タンクである。北海道の人にとってはあたりまえだけれど、暖房や給湯のためには、このくらいの灯油を使っている、ということである。
 筆者もそうだが、本州以南に住んでいると、どうしても脱炭素化をその基準で考えてしまう。でも、むしろ欧州(ヨーロッパ)の基準に近いのかもしれない。

 欧米では、セントラルヒーティング式の暖房・給湯を使っている世帯が多い。家が広いというのもあるし、ヨーロッパの冬は寒い。そのため、これまでは主に天然ガスが使われてきた。まあ、米国では電気温水器(ヒートポンプ式ではない!)もずいぶん普及している。
 しかし気候変動対策として、これをヒートポンプ式に交換していこうとしている。大きなエコキュートと思ってもらえればいいだろう。そのためには、英国は補助金を出しているし、ドイツでは再エネ賦課金についてガスの比重を高くしている(ガスにも再エネ賦課金がかかっている!)。

 ヒートポンプといえば、日本のメーカーに優位性があるはずだ。日本は遅れているという話はエネルギー業界でもよくされるが、ヒートポンプについては先進国のはずだ。
 ところが、海外のニュースサイトを見ていると、ヒートポンプとして紹介されるのは、例えばLGなど、日本以外の製品を目にすることが多い。もちろん、ダイキンや三菱重工業がこの分野で海外で売り上げを伸ばしていることは知っている。でも、それでも存在感がない、ということだろうか。
 それに、こうしたことはあまり日本では報道されていない。ガス会社に気を遣っているわけでもないだろう。
 もっとも、日本のエコキュートでは欧米では小さすぎるのだろう。

 でも、北海道だったらどうだろうか。欧米で使われているようなセントラルヒーティング向けのヒートポンプを入れることができるのではないだろうか。
 幸いなことに、北海道は再エネが余っている。しかも、風力発電のポテンシャルが高い。おかげで、データセンター誘致という話がたくさん出ているが、そこはむしろ、北海道の再エネ電化住宅だろう。調理はガスでもいいと思うけど、でも全体としては欧米仕様でいけるのではないか。

 北海道は人口密度が低いといわれているけれど、そもそも欧州だってオランダなど一部をのぞけば人口密度はけっこう低い。米国はなおさら。そう思うと、北海道は欧州だと考えて、事業モデルを考え直す、ということもあってもいいのではないだろうか。
 そうして、北海道が日本の最先端の地域になってもおかしくない。そんなこともかんじるのだ。

連載63(2024.6.3)

サービスステーションの将来

 先月末、北海道のLPガス会社の方々と話をする機会があった。そこから感じたことなどを紹介したい。

 まずは、ガソリンスタンド(サービスステーション)の将来だ。
 今でも減少傾向にあるガソリンスタンドだが、EV化が進めばさらに減少していくことは明らかだ。では、どのように事業転換をしていけばいいのだろうか。

 bpのケースを紹介する。
 bpでは、コンビニエンスストアの買収やカフェ併設の充電スタンドの整備を進めている。
 EVの充電は基本的に自宅でできる。どうしても充電が必要な場合のみ、充電スタンドを利用する。例えば長距離のドライブなどだ。とはいえ、急速充電器といえども、充電にはそれなりの時間がかかる。そこで、カフェ併設となる。
 急速充電器は設備費用が高いわりには、電気代ではあまり儲からないだろう。だとしたら、別の付加価値が必要になる。
 カフェについて言えば、bpでは充電するとコーヒーが半額になる。それでもコーヒーで儲かるのかもしれない。
 また、コンビニエンスストアを併設することで、bpのクレジットカードが利用される。カードの売り上げもさることながら、顧客の購買データも得られる。

 別の視点でも考えてみる。例えば、ブティック化だ。
 この30年くらいの間に、酒屋がものすごく減少した。規制緩和によって、コンビニや量販店でお酒を売るようになったので、酒屋がほぼ成り立たなくなった。
 でも、生き残っている酒屋もある。例えば、日本酒やワインの専門店(ブティック)になることだ。専門店化すると同時に、商圏を10倍くらいに拡大する。10軒のうち9軒がつぶれても、残った1軒は専門店として生き残る。
 店舗以上に、業務用で飲食店に質の高い日本酒やワインを販売することができれば、残っていくことができる。
 一部のガソリンスタンドをそのように専門店化することも、1つの案だろう。エンジン車のファンのために、バイオガソリン専門店になる、とか。

 専門店化しても、9軒がなくなってしまう、と思うかもしれない。確かに、それを食い止めるのは簡単ではないだろう。でも、10軒のガソリンスタンドを10軒の異なる専門店にしていく、というのは、挑戦してもいいことかもしれない。
 幸い、時間はある。いろいろと考えてみてはどうだろうか。

連載62(2024.5.21)

原子力のためのエネルギー基本計画

 第7次エネルギー基本計画の策定に向けた議論がスタートした。エネルギー業界においては、それなりに注目することではある。でも、正直なところ、何かすごい計画が策定されるような気はしない。むしろ、民間においては、基本計画に惑わされずに事業を進める方が大事だ。

 今回のエネルギー基本計画では、およそ14年ぶりに、新しい年度の目標が設定されるはずだ。2010年の第3次エネルギー基本計画から2020年の第6次エネルギー基本計画まで、目標年度はずっと2030年度に設定されたままだった。さすがに今回は、2040年度の一次エネルギー供給と電源構成の目標が示されるだろう。
 とはいえ、CO2など温室効果ガス排出削減目標は、2035年66%削減となる見込みだ。では、2035年の一次エネルギー供給と電源構成はどうなるのか。おそらく示されないだろう。
 理由は簡単だ。経済産業省のメンタリティとして、温室効果ガスの削減目標にとらわれたくない、すなわち環境省に縛られたくないからだ。

 政策の方向もだいたい見えている。G7環境相会合で合意したように、「何の対策もとっていない」石炭火力発電所は全廃である。しかし、アンモニア混焼やCCSを行えば、運転は可能だ。日本の場合、CCSの適地は少ないので、メインはアンモニア混焼(一部専焼)だろう。
 原子力の新増設は2040年度には間に合わないだろうが、2050年カーボンニュートラルに向けて、推進の方向性が示されるだろう。関西電力美浜原子力のリプレイスと九州電力川内原子力の増設が視野に入ってくる。そしてSMR(小型モジュール炉)や高温ガス炉などの新型の原子力発電も準備されることになる。

 再生可能エネルギーについていえば、老朽石炭火力発電にとってかわるのが洋上風力発電だ。基本的には着床式の開発を進めつつ、浮体式の技術開発も行っていく。
 太陽光発電はペロブスカイト型を軸に屋根上などを充実させていくことになるかもしれない。

 2035年には新車は電気自動車かハイブリッド自動車ということになるが、2040年の段階では電気自動車が中心になってくるだろう。それだけガソリン需要は減少する。
 逆にデータセンターの需要増もあって、電力需要は伸びることになる。

 LPガスについていえば、残念ながら減少というトレンドは変わらない。2040年時点でLPガス自動車そのものが残っているかどうかもわからない。あとは、政府が欧米のようなオール電化を推進するかどうかということになる。
 エコキュートに代表されるヒートポンプ式給湯器は、日本ではかなり普及しているものの、まだまだ拡大の余地がある。ただし、日本のメーカーにとっては、より大きな海外市場の方が重要になっている。もっとも、あれだけ日本でオール電化キャンペーンをしてきたのに、海外では日本製よりも韓国製が登場することの方が多い。米国で使われている代表的なメーカーがLGだったりする。というのは、余談だけど。

 さて、ではこうした予想されるエネルギー基本計画のどこが問題なのか。
 最大の問題は、ちょっと難しそうな原子力発電と石炭火力発電のアンモニア混焼による脱炭素に期待しすぎることだ。再稼働さえ見込みの半分もできていない原子力発電にどれほど期待できるのか。建設コストが高すぎて旧一般電気事業者は建設する意欲がないとも言われている。アンモニア混焼もグリーンアンモニアの調達から燃焼時のNOxの抑制まで、課題が多い。
 そして、これらの技術開発に依存した結果、他の脱炭素政策が進まないことが問題となる。国境炭素調整によって輸出産業の競争力が弱められることや、そもそも産業立地で不利になることがあるだろう。国際社会の中で、脱炭素化が進まない国として、大いに批判を浴びるかもしれない。
 何より、産業の脱炭素化への移行が進まないことになる。

 ただでさえ、GXリーグのやっていることが、欧州から見れば周回遅れ、というか中国から見てさえ周回遅れの感があるのだから。
 したがって、日本の民間企業においては、エネルギー基本計画に惑わされず、世界の潮流の中で自社がどのような展開をすれないいのか、きちんと考えておくことだ。
 これは、LPガス会社も例外ではない。

連載61(2024.5.7)

キャッシュレスとDX

 世の中、DX(デジタルトランスフォーメーション)とGX(グリーントランスフォーメーション)を推進する声であふれている。GXについては、エネルギー事業者にとって極めて重要だし、取り組まないという選択肢はない。

 さて、DXの方はどうかといえば、何となく重要性はわかっていても、進まない、そう考える企業は多いのではないだろうか。中小企業ほど、DXのハードルは高い。例えば、顧客データの管理をきちんと行えば、マーケティングにも生かせるし、業務も効率化できる、と言われても、システム導入のコストはかかるし、スタッフがシステムになれる必要がある。だったら従来のままでいい、ということにもなってしまう。
 あるいは、経営者がDXと言い出しても、現場がついていかなかったりする、そんなこともあるのかもしれない。
 結論を言えば、DXは必要なところからやればいい、そう考えている。

 日本はキャッシュレスが進まない国だと言われている。隣の韓国に行くと、ほとんどのお店でクレジットカードなどがあたりまえで、現金を使うのは屋台くらいだ。
 海外旅行をすると、現金を使わないので、通貨の交換はほとんどしなくなっている。  その点、現金ばかりつかっている日本は、世界の潮流から遅れている、ということだ。

 しかし、本当にそうなのだろうか。むしろ日本は現金が便利すぎるということではないだろうか。
 例えば、スーパーには現金が優遇されているチェーンは少なくない。
 最近急成長しているロピアは、クレジットカードが使えないという。同じく安売りで有名なOKストアは会員だと現金で3%値引きする。Odakyu OXはクレジットカードだとポイントはつかないし、Ozekiでも現金はポイント2倍だ。
 スーパーに限らず、K’sデンキのように現金値引きを行う電器店もある。

 クレジットカードで決済をすると、店舗側はカード会社に手数料を支払うことになる。店舗や業種によって異なるが、だいたい1%~5%といわれている。また、現金が入ってくるまでに時間もかかる。
 それでも店舗がクレジット決済を可能にしているのは、顧客が買いやすくすることと、現金を扱わずに済むことによる業務の効率化のためだ。
 しかし、特に後者の場合、業務効率化するよりも、現金を取り扱う人件費の方が安かったら、経営者にとってクレジット決済を可能にする理由は減る。また、その分、値引きにまわすことで顧客を増やすこともできる。
 そうだとしたら、現金を優遇した方がいい。

 キャッシュレス決済には、他にも〇〇Payといったスマホ決済や交通系を含むICカードでの決済もあるが、いずれも限られている。特に〇〇Payは、手数料こそ低いものの、店舗にとってはレジでの手間がかかっており、時間的にはロスになっているのではないだろうか。
 特にカードもスマホも不要な現金は、犯罪が少ない日本ではとりわけ便利だともいえる。つまり、日本はキャッシュレスにするためのコストが相対的に高いということになる。

 だからといって、日本がこれから先もキャッシュレスにならないとは思わない。ただ、他国以上に便利で低コストにならないと、キャッシュレス化が進まないということだ。逆に、そうであっても現金を持ち歩かなくてすむので、それなりにキャッシュレスは進んでいるともいえる。

 政府のマイナンバーカード普及策が間違っているのは、マイナンバーカードの利便性を十分に伝えることができず、むしろ不合理さばかりが目立ってしまっているからだ。にもかかわらず、強制的に普及させようとするのは、反感をかうだけである。本当に便利なものになれば、強制しなくても普及していくはずだ。特に保険証の場合、プライバシーへの配慮を前提として、医療カルテの共有化は、けっこう重要になってくるはずだ。もっともそれもマイナンバーカードがなくても可能なのだが。

 これはDXも同じことだ。メリットがきちんと認識されれば進むことだ。業務が効率化され、労働時間が短くなり、あるいは顧客情報や設備情報が適切に管理され、顧客のニーズに応えやすくなり、あるいは事故を防ぐことができればいい。そのために、適切な経済コストや労務コストであればいいということでもある。
 そのことを見極めながら進めていくことが必要だ。