本橋恵一の「これからのエネルギー事業を考えよう」
本橋 恵一:環境エネルギージャーナリスト/コンサルタント・H Energy日本担当カン
トリーマネージャー
エネルギー業界誌記者、エネルギーIoT企業マーケティング責任者などを経て、電力システムや再エネ、脱炭素のビジネスモデルなどのレポート執筆、講演などで活躍。著書に『電力・ガス業界の動向とカラクリがよーくわかる本』『図解即戦力 脱炭素のビジネス戦略と技術がしっかりわかる教科書』ほか。
▼連載102:電力自由化のバックラッシュ ▼連載101:そろそろ地域発電事業を考えよう ▼連載100:系統用蓄電池バブルははじけた方がいい ▼連載99:旧一電に回帰する電力システム改革 ▼連載98:そろそろ“長期安定適格太陽光発電事業者”の準備を ▼連載97:目の前の正しそうなことが正しいとは限らない ▼連載96:それって現実的なのだろうか? ▼連載94:明日は今日の延長ではない ▼連載93:非化石価値取引市場で何が起きているのか ▼連載92:マインドセットについて ▼連載91:日本でも本格的に始まる排出量取引制度(GX-ETS)
▼連載81〜90 ▼連載71〜80 ▼連載61〜70 ▼連載51〜60 ▼連載41〜50 ▼連載31〜40 ▼連載21〜30 ▼連載11〜20 ▼連載1〜10
連載102(2026.1.22)
電力自由化のバックラッシュ
このところ、電力自由化に対するバックラッシュが起きていると感じていた。小売電気事業者に対し、電源確保を義務付ける制度が導入されるが、そうなると電源をほぼ独占する旧一般電気事業者が競争上有利になる。そうでなくとも、再エネではなく原子力を含めた非化石証書とエネルギー高度化法のしくみや、再エネの不利な託送料金の発電側課金、火力発電維持のための長期脱炭素電源オークション(結果として系統用蓄電池が大量に参入しているが)などもそうした文脈で考えられる。
こうした流れが決定的だと思ったのは、1月16日に都内で開催された、公益事業学会・日本原子力学会・電力学会の共催によるシンポジウムだ。元経済産業省でエネルギー政策研究者だった澤昭裕氏の没後10年という節目であることを冠したものとなった。
澤氏は原子力に対しては、原子力ムラの問題を強く指摘し、隠ぺい体質などが原子力産業を壊すと考えていた。原子力推進の立場で、原子力の問題を指摘してきた。
こうした背景から、もちろん原子力の現在の問題は語られ、なおその閉鎖的な体質が再稼働を遅らせていることは指摘された。
しかし、原子力以上に問題なのは、電力自由化や発送電分離に対する公然の批判だった。
パネルディスカッションで語られたことは、例えばLNG火力の復権であり、あるいは電気事業の垂直一貫体制の再評価であった。
確かに、経済産業省の審議会でも、分散型リソース(再エネや蓄電池、デマンドレスポンス=DRなど)は議論されているし、DRの標準化も進められている。
そうであるにもかかわらず、議論は「安定して電力を供給すること」にフォーカスしていた。だからLNG火力の復権や石炭火力の見直しにつながり、原子力推進ということが打ち出される。
とはいえ、そもそも自由化の理由の1つは、電気事業のDXとGXだった。スマートメーターの普及と再エネの拡大といえばいいだろうか。そして、温室効果ガス排出削減を実現するためには、供給側だけではなく需要側の取組みも不可欠になってくる。つまり「安定供給」ではなく「安定運用」が求められているということだ。そして、だからこそ、どこの国の電力システムも必ずしもうまくいっているわけではなく、手探りで進めているということだ。
元電気学会会長で中部電力会長の勝野哲氏は講演で、電力小売り全面自由化について、「価格競争となってしまい、新たなサービスがうまれなかった」と指摘している。当事者が指摘するのもどうかとは思うが、これは事実だ。そうであるにもかかわらず、ディスカッションで新たなサービスにつながる議論が行われなかった。
価格ひとつをとっても、時間帯別料金など変動する料金メニューがあるし、それを効率的に運用するためのサービスも可能なはずだ。
欧米では再エネの増加にともなって電化が促進されているが、日本の場合は逆に福島第一原発事故以降、電力会社がオール電化を拡大しなくなった。いまだに夜間の電力を利用したエコキュートが圧倒的多数だ。
繰り返すが、次世代電力システムは「安定供給」ではなく「安定運用」すなわち、さまざまな分散型エネルギー資源をコントロールしながら、電気を利用していくしくみになる。その中で、あらたなサービスがうまれ、そのことが電力小売り全面自由化の価値をもたらすことになる。
送配電会社は、サービスを提供するためのプラットフォーム事業者という位置付けになる。
さて、日本ではさまざまな産業に対し、経済産業省が既得権益を維持する方向で政策を遂行している。その結果、イノベーションがもたらされず、日本企業の地盤沈下がさらに起こるのではないかと懸念される。
例えば、鉄鋼は水素還元製鉄ではなく高炉で水素は合成メタンを使う方向で研究が進み、自動車はハイブリッド車を継続させていく方針だ。火力発電所でアンモニア混焼を行うこともその一環だといえる。
既得権益を守らないでイノベーションを起こしていくことには痛みがともなう。けれども、その痛みを乗り越えなければ、未来はない。
それは、LPガス事業も含め、どの事業でも同じことなのだと思う。
連載101(2026.1.8)
そろそろ地域発電事業を考えよう
あけましておめでとうございます。
といっても、年始そうそう、アメリカがベネズエラを襲撃し、マドゥロ大統領を拉致。これによって油価が変動しているので、この先も不安が続きそうです。
ベネズエラの原油は重質なので、あまり日本には影響はないのかもしれませんし、OPEC+は原油価格をコントロールできているようですが。
このブログでは、LPガス事業者が地域エネルギー事業者になるべきだということを書いてきました。
そうした意味で、新年らしく、次の展開を書こうと思います。
昨年までに政府はこれからの電気事業において、大きな方向性を示したのではないかとみています。
一つは小売電気事業者の電源確保を義務づけるということです。3年後の需要の5割、1年後の7割でしょうか。しかし、日本の発電所の8割は旧一電が所有しており、独占体制の中でこれを義務付けるということは、小売電気事業は旧一電に有利なものになるということです。
また、電源確保のために相対契約や先物・先渡市場を利用することは、卸電力取引市場のボラティリティを緩和することになります。これは一見、いいように思えますが、太陽光発電が増えた日本において、需要のタイムシフトを減速させるものになると思います。
もう1つは、卒FITを控え、これらの電源を買取って集約し、運用する「長期安定適格太陽光発電事業者」制度がスタートしたことです。しかしこの制度、認定されるにあたっての要件が問題です。
・上場企業であるか、自治体から出資を受けていること。
・非FITの発電所を50MW以上運用していること。
他にも要件がありますが、けっこうこれはハードルが高いです。
適格事業者には、旧一電を含めた大手企業くらいしかなれないのではないか、ということにもなります。あるいは上場した再エネ事業者でしょうか。
本質的に、卒FITは地域エネルギー事業におけるパラダイムシフトをもたらすものだと思っています。
2012年以降、FITによって全国各地に太陽光発電所がつくられてきましたが、実際にそれが地域経済に与える影響は少なかったと思います。むしろ、FITによる売り上げは地域外の投資家に流れていきました。
最初期こそ、FIT認定設備からの電気は「回避可能原価」で調達できたので、安い電源となり、地域新電力等でも使うことができましたが、改正FIT法では市場価格に統一され、何の魅力も持ちませんでした。
しかし、卒FIT電源は、投資回収した太陽光発電所の電気を地元で、場合によっては設備ごと買い取ることができるようになる機会を与えてくれます。
そうなると、電気の地産地消と経済の地域循環に資するものになってきます。
しかし、卒FITの電源を地域外の事業者が集約するのであれば、そうしたことも起きなくなってしまいます。
とはいえ、政策への不満はさておいて、適格事業者でなかったとしても、地域エネルギー事業者としては卒FITに関わっていくことはできると思います。
地域エネルギー事業の将来像としては、地域新電力と地域発電事業が両輪になるのだと思います。
ただし、地域発電事業は少し複雑です。地域新電力はアセットを持たない事業ですが、地域発電事業は少し違います。
アセット(発電所)を所有することは必須ではなく、むしろ管理運営し、地域新電力に供給していくことが求められます。したがって、発電所の所有は地元の投資家が中心になればいいのではないでしょうか。そしてそのO&Mやリパワリング、アグリゲーターとしての需給管理、資産管理、そしてバックエンドまでを担い、安定した電気を供給していくことが、重要な役割となります。
10年後にはこうした形の地域エネルギー事業が全国にできて、きめ細かいサービスが提供できるようになっていれば、地域のエネルギーと経済の循環ができていることと思います。
今回は、1年の最初にあたって、そんな将来像を描いてみました。
連載100(2025.12.17)
系統用蓄電池バブルははじけた方がいい
マスメディアでもしばしば取り上げられるようになってきた系統用蓄電池だが、そろそろ業界的にはバブルが終わるといったところなのだろうか。ここにきて、どうなのかな、と思うような事業者も目立ってきたように感じる。
また、現時点で系統用蓄電池の主な収益源は、需給調整市場の一次調整力だが、その上限価格を引き下げようという経産省の動きに対し、業界からは懸念の声が上がっている。
足元では系統用蓄電池はたしかに大きな収益をあげている。
少し前であれば、三次調整力②が、500円/ΔkWという価格で約定していた。
さすがにこれは高すぎるし、送電線の託送料金にもはねかえるので、募集量を減らし、週間ではなく毎日の募集へと変更した。その結果、約定価格の最高値は大幅に低下した。
続いて一次調整力が収益源となった。こちらは上限価格が19.51円/ΔkWとなっているものの、一日に応札できる回数が多い。
そこで、その上限価格を7.21円/ΔkWに引き下げるべきかどうか、という議論が経産省の審議会で展開している。
系統用蓄電池は本質的には、JEPXの安い電気を充電し、高い時間帯に売電することで利益を上げることができる、いわば揚水式水力発電所と同じ用途の設備である。
確かにJEPXのスポット価格が高騰すれば大きな利益をだすことができる。
とはいえ、需給調整市場で高い収益をあげていることから、参入があいついでおり、かつてのFITスタート期の太陽光発電と同じ状況になっている、といったところだ。
この系統用蓄電池バブルを象徴するように、送配電会社には系統接続検討があいついでおり、各社とも対応に苦労している。また、空押さえも生じており、必要な設備が設置できないことが問題となっている。
そして、あやしげな事業者が、投資の勧誘を行っているということだ。
標準的な蓄電所の規模は、2kW/8kWhの規模で、建設費用はだいたい5億円が相場だ。これを7億円で販売し、ざっくり2億円の利益を出しているというのが、デベロッパーだ。
利回りについては、10%から中には30%といったものまである。それだけ儲かるのであれば、投資したくもなるだろう。
説明にあたっても、一次調整力の上限価格が19.51円/ΔkWのまま試算しているケースがあるし、1日の応札ブロック数も6ブロックくらい入れている。
そして販売価格も、7億円は高いということで、これを分割して販売している事業者まである。
しかし、FITと大きく異なっているのは、収入に予見性がないことだ。FITであれば、20年間にわたって42円/kWhで買ってもらえた(初年度の場合)。しかし、系統用蓄電池が収益を上げるのは、市場での取引だ。もちろん、一般的に予見性がない市場に対し、投資家は仮説を立てて予想することで投資していく。だから、系統用蓄電池に対する投資は否定しない。しかし、販売する事業者は、あまりにも都合のいい数字ばかりを提示していないのではないか。リスクをどれだけ説明しているのか。そもそも、その市場がどういうものなのかも説明しているのだろうか。
FITの発電所の販売でも、販売業者は表面利回りを強調し、O&Mなどの費用を含めた実質利回りは質問しないと答えなかった。こうしたこととよく似ている。
販売業者にしてみれば、系統用蓄電池の蓄電所を開発し、売却してしまえば、利益を確定できるし、市場リスクを背負わなくて済む。
言うまでもなく、これはマンションなどの不動産投資と何も変わらない。
系統用蓄電池に関わる事業者がすべて悪質だとは思わないが、こと販売事業者に限れば、疑問に思う事業者は少なくない。
系統用蓄電池がリスクは大きいものの、儲からないわけではない。適切な利益が出るようであれば、投資が進むことは当然のことだ。
実際に、経産省の審議会では、一次調整力の上限価格の引き下げに対して異論が出たことから、5円/ΔkWから19.51円/ΔkWまで上限価格とさまざまなCAPEXを前提に、10年および15年でのIRRの試算を行っている。落札も2ブロック/日だ。試算結果は、CAPEXを抑制すれば、7.21円/ΔkWでも利益が出せることがわかった。ただしそれは、2kW/8kWhの設備を7億円で買っていては十分な利益は出せないだろう。
適切な価格で調整力が提供され、送電網の周波数の乱れが抑制された上で、託送料金が大きく引き上げられなければいいのではないだろうか。その意味では、筆者は上限価格の引き下げを支持する。また、入札も週間単位ではなく毎日にすれば、無駄な応札がなくなるだろう。
そもそも、系統用蓄電池の最大の役割は、余った太陽光発電の電力を充電し、夜間に放電することだ。これは揚水発電所と同じ役割である。しかし、需給調整市場で運用されている限りにおいては、日中の余剰電力が利用されているということにはならない。
今後、太陽光発電や風力発電がさらに増加していくにしたがって、系統用蓄電池の役割が変わっていくことになるだろう。また、卸電力取引市場で運用していくためには、蓄電池の価格はもっと下がる必要があるし、実際にそのようになっていくと、筆者は予想している。
ナトリウムイオン電池など、まだまだ価格が下がる余地がある。
2032年以降、事業用太陽光発電については卒FITが出てくる。これらはセカンダリー市場に出てくると考えられる。投資家にとっては、卒FITの太陽光発電所は魅力的な収益をもたらさないからだ。
系統用蓄電池については、意外に早い段階で、「卒需給調整市場」が、セカンダリー市場に出てくるのではないだろうか。需給調整市場で十分な収益を上げられる時期はそう長くはないからだ。
セカンダリーで系統用蓄電池を安く買うことができるのであれば、卸電力取引市場などでもそれなりの収益を得ることができるのではないか。卒FIT太陽光発電を集約することと同じことになる。そしてその頃になれば、電力システムにおいて系統用蓄電池の位置漬けが明確になってくる。
筆者は意外にこのほうが系統用蓄電池の適切な役割を提供できるようになり、その結果として安定した事業になると予想している。
連載99(2025.12.3)
旧一電に回帰する電力システム改革
ここ数年の、電力システム改革として導入された施策や議論の状況を見ていると、どうしても旧一般電気事業者(旧一電)体制に戻る方向に進んでいるような気がしてならない。
例えば、エネルギー供給構造高度化法に基づいた、非化石証書のシステムがある。これは、小売電気事業者に対して、一定割合のゼロエミッション電力の供給を義務付けるためのしくみだが、そもそも「非化石証書」というものは日本にしか存在しない。というのも、ここには原子力発電による証書がふくまれているからだが、海外で一般的なのは「再エネ証書」であり、原子力は含まれない。
託送料金の発電所にかかる「発電側課金」も当初はkWあたりとしてかけられるものだった。結果として、kWとkWhで半分ずつとなったが、kWあたりにしてしまうと、設備稼働率の低い太陽光発電や風力発電が不利になる。
最近では、長期脱炭素電源オークションだろうか。これも、本来は火力発電のアンモニア燃料対応や短期的にはLNG火力の増設が目的となっている。
結果として、系統用蓄電池の応札が相次いでいるわけだが、廃止される老朽火力を補うものとして設定されているということだ。
前回紹介した、長期安定適格太陽光発電事業者も、原状では非FIT/FIP発電所を50MW以上扱っていることと、「上場企業であること」もしくは「地方公共団体の出資」が要件となっている。50MWというハードルは低くはないし、それだけの事業者に自治体が出資するということも簡単ではない。そうなると、事業者は限られてくる。
そして現在、経産省の制度設計WGで議論されていることの1つが、小売電気事業者に3年後の需要に対して5割の供給力、1年後の需要に対して7割の供給力確保を義務付けようとするものだ。
これに対応できる小売電気事業者はどのくらいいるのか、という点が気になる。同時に、先物市場や先渡市場を使うことで、リスクを軽減できる反面、スポット市場を使うメリットなくなってしまう。ベースロード市場も決して安いわけではない。
そもそも、小規模な事業者に先物市場を利用するノウハウも規模もないし、そうなると相対で調達するしかないが、その売り手となるのは旧一電の発電所ということになるのだろうか。
まして、再エネが主力電源化するのだとしたら、供給力確保にどれほどの意味があるのだろうか。
さすがに、スポット市場の利用には経産省も気にしているらしく、市場連動型料金メニューを使っている事業者は例外とするとか、小規模事業者は義務づける供給力を半分にするとか、そういったことも用意している。
ただ、市場連動型料金メニューには、余剰電力を使っていくインセンティブがあるし、その余剰というのは基本的に太陽光発電の電気だ。これは温室効果ガス排出削減にもつながる。そうした電力を上手に使っていくことも必要だ。
もちろん、2021年度、2022年度と、電力のスポット市場の価格が高騰し、退出する小売電気事業者が多かったことは事実だし、電力供給の責任を持つためには、何等かの仕組みは必要だろう。
ただ、そこで忘れてはならないのは、規制料金の問題だ。
現在、旧一電には、自由化されていない電気料金メニューがある。競争という観点から、旧一電にしばりをかけるしくみである。平等な競争環境ができれば、この規制料金を撤廃することになっていたが、まだ撤廃されていない。
しかし、その判断をしたときは、電気料金はまだ安かった。そしてこの規制料金が足かせとなって、旧一電は市場価格高騰時(=石炭価格の高騰時)に電気料金を引き上げることができず、結果として新電力もそれに引きずられることになる。
この時点で規制料金が撤廃されていれば、旧一電は赤字で電力供給をすることはなかったし、結果として新電力も値上げできた。
そのように考えると、本筋は小売電気事業者の供給力確保ではなく、規制料金の撤廃ということになる。
もちろん、制度設計WGでもその議論はなされているが、遅いと言わざるを得ない、農業用電力や三段階料金の120kWhまで、島しょの電気料金などは赤字での供給になるが、そこにはユニバーサル料金の適用などが可能なはずだ。そうした議論の方が優先されるべきではないか。
ということで、少し戻るのだけれど、そうはいったものの、新電力にも電源を確保する方向で考えることはできる。とりわけ地域新電力の場合、卒FITが近い発電所を地元企業が買い取り、リパワリングして供給力に組み込んではどうだろうか。これによって、エネルギーの地産地消が実現するし、FITと異なり地元に経済的メリットが生まれる。
そういった姿を想定し、制度を変更していくことが求められるのではないだろうか。
LPガス事業者が地域の再エネをも担っていくのだとしたら、経済産業省に対してこのくらいの提案をしていく必要があるのではないだろうか。
連載98(2025.11.17)
そろそろ“長期安定適格太陽光発電事業者”の準備を
最近、エコボルタイクスという言葉に出会った。
アグリボルタイクス(ソーラーシェアリング)の一環として、花粉を媒介する昆虫を育てる草地を保全する設備がある。昆虫がいなければ、果実は実らないので、農業にとって不可欠なのだ。日本では、メガソーラーはすっかり悪役になってしまっているけれど、海外では自然環境の保全の手段として太陽光発電が考えられるようになってきている。
こうした考えの延長にあるのが、エコボルタイクスである。
実際に、太陽光発電の下の生物相などの研究が行われるようになってきている。適度な日影がある場所では、どのような生態系ができるのか。新たな生物多様性保全のフィールドとなっている。
また、降水量の少ない地域では、太陽光発電を設置することで、地面が乾燥することを防いでいるというケースもある。
このように見ていくと、エコボルタイクスというのは、新たな里地里山なのではないか、と日本人的感覚で思うのではないだろうか。
メガソーラーを環境破壊だと思っている日本人にとっては、目からウロコだろう。もちろん、森林や湿原を破壊するメガソーラーを肯定するつもりはないが、自然と共生するメガソーラーだってあったっていい。
むしろ、エコボルタイクスは日本の太陽光発電事業のこれからのビジネスチャンスではないかとも思っている。
2032年以降、事業用太陽光発電は順次FITの買取り期間が終了していく。年間6GWくらいになるだろう。ほうっておけば、これらは撤去されかねない。
これに対し、経済産業省は長期安定適格太陽光発電事業者(適格事業者)を育成し、その事業者に買取りさせて、集約化をはかろうとしている。適格事業者になると、セカンダリーの買取りがしやすくなるというメリットがある。ただし、長期的に太陽光発電所を運営する能力が求められる。発電容量でいえば、50MWくらいは管理しないといけない。
卒FITの電源はリパワリングや場合によってはリプレイスが必要になる。何らかの形で蓄電池を使わないと、安定電源として稼働できないだろうとも思う。
しかし、同時に全国につくられた太陽光発電は、その地域の重要なエネルギー資源である。そもそも、こうした資源を活用することが、地域新電力が目指していたことではなかったのか。そうだとすれば、卒FIT電源を地域で買い戻し、地域に電力供給していくことが求められるのではないか。
だとしたら、地域に適格事業者をつくり、地域新電力と連携し、新たなエコシステムを作っていくことが必要なのではないだろうか。
そうしたときに、エコボルタイクスにしていくことは、とても重要だ。今でも、下をコンクリートで固めたり、じゃりをしきつめたりした発電所は多い。場合によっては除草剤を散布しており、それはそれで立派な自然破壊である。
でも、地域の自然環境、生物多様性を保全する設備としての太陽光発電だったらどうだろうか。単純に草刈りをするというのではなく、多様な生物が生息できる環境を維持していく。架台を高くする必要があるかもしれないが、そのかわりハーブガーデンにすることもできるかもしれない。
卒FITは7年後からだが、今から準備しておいてもいいと思う。地域外の大手事業者が地域の発電所を買い占めるのであれば、再エネが地域に何の恩恵ももたらさない構造は変わらない。地域のエネルギー事業者(もちろんLPガス事業者はその有力なプレーヤー)にとって、地域のエネルギーの地産地消を作り、守っていくこと、同時に自然環境を保全していくことは、とても重要な役割になっていくと思う。
連載97(2025.11.7)
目の前の正しそうなことが正しいとは限らない
年末でガソリンの暫定税率が廃止されるという。ガソリンスタンドの経営者にとっては、需要が増えるので、ありがたい事だろうと思う。
でも、立ち止まって考えてみると、それって本当に正しい事なのだろうか。
ガソリン税のつかい先は、道路などのインフラの整備である。廃止される暫定税率のだいたい3分の1が地方の税収となる。ということは、道路を整備するための地方の財源がなくなるということになる。それはそれで問題だろう。道路に限らず、日本全国でインフラの老朽化が進んでいるので、その対応が求められるようになってきている。
これは余談だが、20年以上前のこと、道路予算は、気候変動対策予算としても計上されていた。道路がよくなればガソリン消費が減るので、CO2排出も少なくなるという理由。なかなか苦しい理由ではあるが、これからを考えると、EV化で車体の重量が増えるので、ますます道路の補修などが必要になってくるだろう。
ただ、そもそも筆者はガソリンへの補助金についても問題だと考えてきた。気候変動対策としては、化石燃料への補助金は支出してはならない、というのは気候変動対策におけるルールともいえる。したがって、暫定税率廃止もこの点においても問題がある。
補助金はだいぶ予算を使ったが、結果として何も残っていない。同じ金額を再エネの拡大やEVへの補助金として使えば、もっとちがった現在になっていただろうと思うのだが。
とはいえ、今後、カーボンプライスの議論が拡大していくだろうし、そうした中で、現在の地球温暖化対策税を大幅に引き上げるという議論も出てくる。そうなると、ガソリンの税率は元に戻るかもしれない。
実は、現在は原油価格が落ち着いており、60ドル/バレル近くなっている。OPEC+が来年1月~3月の増産を見送って、再び上昇傾向になったものの、わずかなものだ。
ガソリン価格が下がらないのは、円安の影響が強い。
問題は、高市早苗政権の財政政策が円安を転換させそうもないことだ。世論調査の支持率こそ高いものの、金融関係者は現政権をかなり批判的に見ている。
103万円の壁も160万円に引き上げられるとのことだが、これもけっこう問題だ。働き控えを減らすという目的だが、それはそもそも、安価なパートタイムの労働力を使いたいということではないだろうか。その意味では、給付付き所得税の方がはるかにましだ。
103万円の壁など引き上げず、社会保険や年金保険を払ってもらったほうが国の財政にとってはありがたいし、それとトレードオフで最低賃金の引き上げを行えばいい。特に年金保険については、将来の年金収入として戻ってくるものなので、未来を考えると自分の年金があるというのは、とても重要なことだと思う。
それに、日本は先進国の中でも突出して最低賃金が低い。生産性が伸びているにもかかわらず、それが大企業の内部留保にまわっていることが原因の1つだ。最低賃金が低いことで、内需が拡大せず、アベノミクスは好景気を演出できなかった。
そうそう、ニューヨーク市長選で当選した民主党のマムダニ氏は公約として、ニューヨークの最低賃金を4500円にするとしている。
先の参院選の争点は経済対策だったはずなのに、気付くと政治の最優先事項が議員定数削減になっている。それは、あまり暮らしには関係ないし、何なら立法府で働く人が減るので、国民の声が届きにくくなる懸念がある。
これも、考えてみると、公務員削減という政策が過去にあったが、その結果として行政サービスが低下し、官製ワーキングプアばかりになっている。例えば公立図書館で働いている人たちの所得は、おどろくほど低いことが多い。
公務員にしても議員にしても何となく仕事をしてもらっている実感がないのかもしれないが、実際にはそんなことはない。でもそのことがわからないから、削減を通じて多くの人が留飲を下げている、くらいのものだろう。
実は、目の前では正しいように見えることが、正しくないということは、けっこう多い。
日本では犯罪は増えているようで、2020年くらいまでは減少が続いていた。近年増えているが、それは主に窃盗犯、日本が貧しくなったからかもしれない。
お米の値段が上がって生活が苦しくなったのは事実だけれど、それでも食費に占める割合は小さい。結果的により高いパンやうどんを食べていたら、何の対策にもなっていない。
1円でも安いガソリンを求めて、自動車で遠くまで走っていくことも非合理だ。燃費のいい自動車でも、10㎞も走れば3分の1リットルのガソリンを消費してしまう。
結局のところ、目の前のことをそのまま見るだけではなく、時間的にも空間的にも少し離れた広い視野で考えることが必要なのではないだろうか。
ガソリンの暫定税率は、廃止しても目の前だけの話で、いずれ地球温暖化対策税の引き上げがあるし、財源を求めて別のところで増税があるかもしれない。そうした視点を持つことが、本当に必要だと思う。
連載96(2025.10.22)
それって現実的なのだろうか?
2050年になっても、化石燃料が大量に使われるのではないかという予測がある。電源構成こそ再エネ化が進むものの、それでもデータセンターの需要が増大し、ガス火力でまかなわなきゃいけない、というのが、最近のマッキンゼーのレポートだ。
そうでなくとも、例えば日本エネルギー経済研究所の予測では、一次エネルギーではまだ石炭も使われていると予測している。
そして、こうした予測に対し、現実的であると評価する人もいる。でも本当に現実的なのだろうか。
実際に、米国はトランプ大統領のおかげで、気候変動対策に対してはすっかり後ろ向きになってしまった。米国が再エネの開発を停滞させるだけならまだしも、CO2濃度の観測なども予算がつかなくなっている。そのため、気候変動の研究が停滞するといわれている。
関係するホームページも閉鎖されるため、研究者たちはその前にデータを取り出すことに注力していた。
仮に次の大統領が気候変動対策に前向きになったとしても、失われた時間とデータは大きい。
もっとも、これは米国だけの話ではなく、世界的にもESG投資が退潮傾向にあることは否定できない。
また、各国の金融機関もNZBA(Net-Zero Banking Alliance)から相次いで脱退している。そもそも、近年の気候変動の交渉をリードしてきたのが金融機関だっただけに、この変化は気候変動対策のモチベーションを下げるというものだ。
では、こうした状況から、2050年も化石燃料を使い続けていることが、現実的なのだろうか。
たぶんそれは、別の面で、現実的ではない。
すでに、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)などが、多くの報告書を公表している。また、そうでなくとも、すでに気候変動は現実のものとなっている。
それは、2050年も化石燃料を使い続けていました、ということだけではすまされない。
25年先まで、毎年のように猛暑が記録を更新し、熱中症も増加する。雪解けが早くなるため、渇水の発生が増える。強大な台風は毎年のように上陸し、線状降水帯による豪雨の被害も増加する。
世界的な異常気象により、穀物は不作となり、食糧の輸入依存度が高い日本は、食糧を確保できるが価格が高騰している。国内でも猛暑で米の作況は悪化する。
デング熱やマラリアなどが国内でも感染例がみられるようになる。
こうした状況を現実的だといえば、現実的なのだろう。
しかし、地球環境が悪化してから、対応を強化するというシナリオもある。
化石燃料の利用が禁止された結果、エネルギーの供給が不十分なものとなり、価格が高騰する。
とりわけエネルギーコストの高い日本では、多くの産業が立ちいかなくなり、経済的に落ち込む。
その結果、円安が進み、日本がさらに貧困な国となる。
なんだか、おどしみたいになってしまったけれど、根拠のない話ではない。
最近、科学技術振興機構が採択した「低炭素社会実現のための社会シナリオ研究事業」の暫定版報告書を読む機会があった。そこで示されているのは、再エネが導入された豊かな社会とともに、再エネの導入が遅れた貧しい社会というシナリオだった。
報告書はネットでも閲覧できるので、そちらを見て欲しい。また、ここまで書いてきたことが、報告書にそった内容ではないことも伝えておく。というのも、シナリオには気候変動対策がとられず、温暖化が進むという設定はないからだ。
ここで言いたいのは、化石燃料を使い続けることを現実的とするのであれば、その負の影響もまた現実的であると認識すべき、ということだ。
それは、人が禁煙できないことが現実的であるとするなら、肺がんにかかることも現実的である、ということだ。
でも、それは拒否すべき現実なのではないだろうか。
連載95(2025.10.6)
温泉旅館と化した電力システム
宣伝になってしまって申し訳ないのだけれど、今月(2025年10月)末に、「電力・ガス業界の動向とカラクリがよーくわかる本(第8版)」が刊行されます。最初の版が出版されたのが、2008年なので、それから17年もたっているわけですね。
出版社は、秀和システム新社です。実は前の版元の秀和システムが破産し、Two Virginsという会社が事業譲渡を受け、新たに秀和システム新社となって、そこから出されるということです。
余談ですが、Two Virginsというのは、ジョン・レノンとオノ・ヨーコの最初のアルバムのタイトルです。まあ、アルバムの内容は前衛音楽なので、どうかとは思うのですが、創立者はビートルズのファンなのだと思います。会議室の名称が、Jhon、Paul、George、Ringoで、一番大きい会議室はBeatlesとなっています。
そういうの、好きです。
えーと、それで第8版なのですが、最初の版と比べると、ページ数は100ページ以上増えているし、いちおう価格も700円(税別)ほど値上げさせてもらっています。
なかなか充実した本になったなあ、とは思うのですが、ページがこんなに増えていったのにはわけがあります。
電力・ガス業界について、とりあえず知っておくべきことが大幅に増えていったからです。
2008年といえば、福島原発事故はまだ起きていないし、自由化も大口にとどまっていました。したがって、新電力も限られていました。
しかし原発事故が契機となって、電力システム改革が進展し、さまざまな組織、さまざまな制度が導入され、プレーヤーも増えていきました。
2008年当時なかったものといえば、思いつくだけでも、FIT、FIP、原子力規制委員会、コーポレートPPA、メガソーラー、ソーラーシェアリング、系統用蓄電池、電力ガス取引監視等委員会、電力広域的運営推進機関、容量市場、需給調整市場、長期脱炭素電源オークション、非化石仮取引市場、アグリゲーターなどなど。逆にRPS制度は削除しました。
重要なプレーヤーにはJERAが追加され、送配電は分離されました。NTTもKDDIもソフトバンクも楽天も参入し、ENEOSのように参入するだけではなく名称が変わってしまった事業者もいます。
高速増殖炉の項目は削除した代わりに、SMR(小型モジュール炉)と核融合炉を追加しています。
こうやって比べてみると、17年間の変化がいかに激しいものだったのか、ということがわかります。そして、全面自由化と脱炭素化を進めるにあたって、制度は休むことなく更新されつづけ、つぎはぎのようなものになり、あるいは増築を繰り返した温泉旅館のようなものになってしまっているとも思います。
そして、その全体像を見ることは、簡単ではないとも思います。しかも、さらに知っておくべきこととしては、とりわけ気候変動問題は重要です。
ということで、電力・ガス業界(もちろんLPガス業界も含みます)の特定の分野について、深く掘り下げた本ではないのですが、広く見渡すためには、最低限このくらいは知っておいてもいいよね、というような本にはなっています。というか、知っておいた方がいいことは、それだけ増えたということでもあるのですが。
もし書店で見かけることがあったら、手に取ってみてやってください。
連載94(2025.9.22)
明日は今日の延長ではない
先日、展示会で、系統用蓄電池を扱う会社の人と少し話した。
系統用蓄電池は、電力業界では現在、もっともホットな分野で、一攫千金をねらっているような人たちがむらがっている。2012年にFITが始まったときに似ているだろうか。
とはいえ、投資金額も桁が違うし、FITと違って安定した収入にはならないかもしれない。市場リスクがあるということだ。
現時点での、系統用蓄電池の主な収益は、需給調整市場における一次調整力だ。送配電会社の指令にしたがって、秒単位の制御を行い、周波数の乱れを吸収する。
そんなことが必要なのかといえば、実はけっこう必要で、これまでは(実は今でも)火力発電所の発電機の回転数によって調整されていた。
しかし、脱炭素化に向けて、火力発電所が減少する中で、それにとってかわる調整力が必要ということになる。
さきほど、現時点で、と書いたが、少し前までは同じ需給調整市場の三次調整力②だった。これは、急激な需要の変動や太陽光発電などの発電所の出力の変動に対応し、45分前に発動し、3時間くらい電力を供給するというものだ。
これも、火力発電所を起動させたり、出力を上げたり、といったことで対応してきた。
三次調整力②は、最初はかなり高い約定価格だったので、系統用蓄電池は大きな利益をあげることができたが、そうすると送配電会社の負担が大きくなるので、約定価格を引き下げる方向で調整された。
多分、三次調整力②であれば、DR(デマンドレスポンス)のようなものの方がコストメリットは大きいだろう。みんなで節電するということを約束すればいいということ(エネファームやエコキュートの運転も対応可)。
そして、系統用蓄電池が一次調整力で利益を出せるのも、あと1年半か2年くらいだ、というのが、業界の見方だという。系統用蓄電池そのものが増えてくるし、政府は約定価格の抑制に動くからだ。
ではそのあとは、系統用蓄電池はどうやって利益を出せばいいのだろうか。
そもそも、系統用蓄電池がもっとも必要されているのは、日中の余った電気を蓄えて、夜間に使うようにするためだ。再エネのうちでも太陽光発電の割合が極めて高い日本においては、そうした運用が求められる。問題は、それだけでは簡単に利益を出せないことなのだが、そこでどのような運用方針を立て、どのようにリスクを回避していくのか、ということを考えなきゃいけなくなってくる。
正直なところ、kwとkWhの区別もできないような人たちが系統用蓄電池に群がっているのはどうかとは思う。
でも問題はそこではなく、10年単位で考えなきゃいけない事業に対し、2年後はどうやって収益を上げるのかわからない、ということだ。
実は、電力システムが将来どうあるべきか、5年後や10年後の電源構成や制度、海外の電気事業の状況などを検討していけば、少しずつ見えてくるものだし、先に手を打つことができる。
でもそれは、今日の延長ではない。どこかで大きな環境の変化が起こる。
筆者が、メタネーションを必ずしも肯定しないのは、都市ガス業界が30年後もガスを販売しているという、まさに今日の延長の明日しか見ていないということによる。確かにメタネーションが必要とされる分野はあるだろう。でもそれはニッチな分野でしかない。
エネルギー業界に長く身を置いているが、それは今日の延長ではない明日の連続だったと思う。電力需要の伸びは続かないし、発電も小売も自由化された。気候変動問題という制約が強まり、さらに原発事故まで発生した。電気の卸取引市場なんて、30年前は考えなかったのではないだろうか。でも、こうやって変化してきた。
LPガスも同様で、需要開拓だけをしていればいいという状況ではない。
けれども、足元では、今日の延長の明日しか見てない人が多すぎるのではないか、そんなことを感じている。
連載93(2025.9.3)
非化石価値取引市場で何が起きているのか
2025年8月29日、今年度の第1回非化石価値取引市場のオークション結果が発表された。約定価格だけをみると、大きな波乱はなかったようだが、入札行動にはある傾向が見られた。
まず、昨年後半のオークションを振り返っておく。まずFIT非化石証書だが、こちらは順調に売り入札量が最終の第4回に向かって増えていく一方、買い入札はそれを下回ってきた。売れ残った非化石証書は次のオークションにまわされるため、売り入札が増えていくということがわかる。また、FIT非化石証書は、再エネ価値取引市場、すなわち需要家に供給する電気を実質再エネ化するために使われる。
こうしたことから、一定割合の再エネ需要に対応できており、最低約定価格も下限として設定されている0.4円/kWhとなっている。
今年の第1回オークションについても、この傾向が続いており、売り入札こそリセットされたものの、それでも買い入札を上回っていた。
一方、非FIT非化石証書のオークションは様相が異なっていた。
昨年前半は、非FIT非化石証書・再エネ指定はそれなりに売り入札があり、指定なしはかなりの量の売り入札があった。しかしいずれも買い入札が少なく、約定量も少ない。
しかし第3回オークションからは、売り入札が極端に減少する一方、売り入札が増大し、やはり約定量は少ない結果となった。しかし約定価格は、前半2回が下限の0.6円/kWh程度だったのに対し、後半2回は上限の1.3円/kWhとなっていた。
こちらの市場は高度化法義務達成市場となっており、小売電気事業者が割り当てられた非化石電源の電力量を確保するために用いられるものだ。したがって、小売電気事業者は必要量を確保する必要があるし、必要量は2030年に向かって毎年増加する。
今年の非FIT非化石証書のオークションは、昨年とは逆に、売り入札が極端に少なく、買い入札が極めて多かった。結果として、約定量は少ないままだ。しかし約定価格は再エネ指定が0.91円/kWh、指定なしが0.72円/kWhと、上限には届かなかった。
実は、昨年の4回のオークションを通じて、小売電気事業者が高度化法の義務を達成できないことになりかねないため、その場合は第4回オークションに限り、高度化法義務達成のための買い入札への参加を可能とし、その場合入札額は1.3円/kWh以上にするという。このことを見越して、第1回オークションでは、1.3円/kWh以下で入札したものと考えられる。
非FIT非化石証書のオークションが、売り入札がほとんどなくなったのは、旧一電の売り惜しみではないとすれば、あとは相対で販売しているとしか考えられない。そして、相対であれば、オークションの上限価格以上の値段で取引することもできる。
これが、再エネ指定だけの話であれば、追加性を持った非化石証書の需要があるからではないか、といったことも想像できる。というのも、コーポレートPPAにおける相対での非化石証書の価格が、2円/kWh程度だからだ。もちろん複数年契約によるプレミアムもあるだろう。さらに、これはカーボンプライスにすれば5,000円/トン-CO2に相当する。
ところが再エネ指定なしでも似たような構造になっている。再エネ指定なしの場合、原子力や廃棄物発電が含まれていると考えられるのだが、そういった証書が売られているのだろうか。
他方、高度化法義務達成にあたっては、第4回オークションでFIT非化石証書を1.3円/kWhで購入するというのが最後の手段になる。それまでは第2回と第3回で少しでも安く買い入札をことになる。
結論はこうだ。高度化法義務達成市場は有名無実化するのではないか。というのも、非FIT非化石証書をより高い価格で売る可能性があるからだ。
GX-ETSのカーボンプライスは1万円/トン-CO2になると予測している。これは4円/kWhに相当する。そしてこれは、FIT非化石証書の上限でもある。
FIT非化石証書と異なり、多少なりとも追加性のある非FIT非化石証書を購入するという行動をとる企業が出てくることは、理解できる。
今後、出力制御が増えれば、FIP転が増えるため、非FIT非化石証書の供給量は増えるだろうが、高度化法の義務量も増えてくるため、需要も増えてくるだろう。つまり、旧一電が販売する量が減るということだ。同時に、FIP転によって非化石証書を高値で売る機会も出てくる。
一方、小売電気事業者はFIT非化石証書を1.3円/kWhで買うことになる。
非FIT非化石証書のビジネスは、新たな局面を迎えたことになる。さて、第2回オークションはどのように展開するのだろうか。
連載92(2025.8.25)
マインドセットについて
脱炭素先行地域モデル事業に採択されたあと、実行していくにあたって、重要な問題にぶつかっている。それは、自治体職員のマインドセットだ。
脱炭素先行地域モデル事業として採択された自治体の多くで、必ずしも事業が順調に進んでいないようだ。
それにはいくつか原因があるが、根本的なことの1つとして、自治体が提案書をまとめるにあたって、住民合意が技術的検証などを行う時間が不足していることがある。そのため、環境省としても計画の変更はある程度織り込み済みだ。それでも、なるべく変更したくはないだろうが。
例えば、地域新電力を設立して、地域住民の電力の契約を切り替えてもらうことは、けっこうハードルが高い。少しくらい安くても切り替えてはもらえないし、自治体が関与していたとしてもその信頼性が十分だとはいえない。それでも、少しずつ理解を広げていき、5年間に半分くらい切り替えてもらえれば、大成功だ。最初の年は10軒くらいかもしれない。
また、技術的な課題もある。できると思って提案したのに、実際には不可能だった、あるいはコストが嵩み過ぎるなどの問題があるだろう。その場合は計画を縮小したりあきらめたりすることになる。
しかし、もう一つの大きな問題は、自治体職員のマインドセットの問題だ。
往々にして自治体職員(に限らないが)は、環境省からの要求に額面通りに応えようとする。でも、実はそれは正しくはない。本省の要求の背後にあるものがわからなければ、正しい答えを提示できないからだ。
例えば、こういうことがあった(いちおう、本質がわかる程度まで、かなり脚色しています)。「ソーラーシェアリングをするにあたって、新たな作物の栽培についても、具体例を示してほしい」という要求である。これに対し、自治体職員は何を栽培すればいいのか、考え込んでしまう。
けれども、そもそも日本においてはソーラーシェアリングに適した作物についての知見はほとんどなく、何を栽培すればいいのか、手探りでやっていかなくてはいけない。だからその手探りの方法(教育機関、研究機関との連携やJAとの連携など)を示すことが答えになる。
なぜ、このように答えがずれてしまうのかというと、脱炭素事業の目的そのものを把握していないからだといえる。
環境省が求めているのは、脱炭素のモデルをつくることであって、それを実現するための具体的提案を求めている。具体的作物を示してほしいというのが、具体的提案を出してもらうための補助線であり、ここではモデルとなるソーラーシェアリングをどのようにつくっていくのか、というプロセスを示すことが求められている。
つまり、自治体職員側も、この事業で何を実現することが重要であるのかがわかれば、環境省の質問に額面通りに答える必要がないことはわかるはずだ。
また、もう一つの目的として、脱炭素先行地域モデル事業を推進することによって、地域をどのように変えていくのか、というビジョンを持つことだ。ソーラーシェアリングができたくらいで、地域が大きく改善することはない。むしろその先に、雇用の拡大や暮らしやすさの向上、あらたな産品の開発や地域のブランド化がある。
もっといえば、5年後の自治体をどのように想定し、そこに向かっていくことが重要であって、目の前の課題だけを解決すればいいということではない。また、目の前の課題しか見えていないと、本質を見誤る。
こうした場合、マインドセットを変えていくことが必要になってくる。
この事業を提案書通りに実現することではなく、提案書を軸にして自治体をよりよい地域社会にしていくことを目指すということだ。
これは首長にしても同様だ。5年後、自分たちはどんな地域に住みたいのか、それを考えなくてはいけない。
脱炭素先行地域に採択されたということは、それだけで地域のブランド力を向上させている。それをさらに引き上げていくことを考えないといけない。
そのための、柔軟な思考も求められる。
でもこのことは、自治体職員だけではなく、一般的なサラリーマンにもいえることかもしれない。目の前のことではなく、5年後、10年後、どんな会社に勤務していたいか、あるいは経営者であってもどんな会社を経営していたいか。
それを考えないことには、本当の答えはない。
連載91(2025.8.4)
日本でも本格的に始まる排出量取引制度(GX-ETS)
GXリーグではこれまで、排出量取引(GX-ETS)を行ってきた。今年度までは第1フェーズということで、自主的な目標設定による参加となっているが、来年度、2026年度からは第2フェーズに移行し、年間直接排出量が10万トン(CO2換算)を超える企業は義務化される。改正GX推進法が今年2月に成立し、GXリーグに参加していなくても、排出量取引制度への参加は義務化される。
対象企業は300社から400社、主に鉄鋼、化学工業、非鉄金属、製紙、セメント、石油などが対象となる、ということだ。とはいえ、排出削減の対象は、直接排出だけではなく、電力などによる排出、さらにサプライチェーンでの排出も対象となってくる。
すなわち、義務化の対象と削減の対象が違っている、という点は注意が必要だ。
第1フェーズから第2フェーズに移行するにあたって、どのように変わるのか。もちろん義務化ということは大きな違いだが、内容面でも大きく変化する。
義務化にあたって、各企業の排出枠の設定が決まるが、これについては審議会で議論されている段階だ。
第1フェーズでは直接排出量(事業所で石炭、石油やガスを燃焼させたときの排出量)のみが対象だったが、前述のように電力による間接排出、サプライチェーンを通じた排出も対象となってくる。
また、排出量の削減にあたって、JクレジットとJCM(二国間クレジット)の利用が可能になることも重要なポイントだ。
そもそも、第1フェーズは本格的な排出量取引に向けたトレーニング期間だった。というのも、事業者がCO2の排出量を算定し、目標設定して実行していく、そしてそのことを公表する、というものだ。
排出量取引にあたっては、2030年の日本の削減目標46%にそった削減をしないと、排出量クレジットが作り出せないが、そのハードルは高かったと思われる。
第2フェーズに移行することで、LPガス会社にとってもGX-ETSは他人事ではなくなる。
直接的には、LPガスの大手元売りである石油会社は、GX-ETSの直接の参加者だ。ただこのことはただちに卸売り会社や販売店にまで影響することは少ないのではないだろうか。
むしろ、商品を供給するところで、LPガス会社への新たな要請が出てくるだろう。
第一に、サプライチェーンも対象になるということだ。これは、大手企業のサプライチェーンを担うような企業もCO2を削減しなくてはいけなくなる。そうしたとき、Jクレジットを利用したカーボンニュートラルLPガスの需要が高まることが考えられる。
第二に、電力も取り扱っている場合、これまで以上に再生可能エネルギーの需要が高まるということも考えられる。
第三に、輸送にあたってもCO2排出の削減が求められる。その結果、配送の効率化や車両の電動化も必要になるかもしれない。
とはいえ、こうしたニーズに対応することで、需要を獲得することができる。
将来的には、CO2排出量の基準が引き下げられ、EUのように2万5000トンになるかもしれない。そうなるとさらに多く事業所、多様な業種が義務化されることになる。第2フェーズはその準備ということにもなる。
GX-ETSについては、他にもさまざまな論点があるが、とりあえずこれをビジネスチャンスにできるかどうか、考えておくことが必要だ。