エネルギー業界ニュース

本橋恵一の「これからのエネルギー事業を考えよう」

本橋 恵一:afterFIT研究所 シニアリサーチャー
エネルギー業界誌記者、エネルギーIoT企業マーケティング責任者を経て、現在は株式会社afterFITにて電力システムや再エネ、脱炭素のビジネスモデルや技術開発の実証研究をコーディネート。著書に『電力・ガス業界の動向とカラクリがよーくわかる本』ほか。

連載20:核融合炉と宇宙太陽光発電連載19:持続可能であるということ連載18:守りよりも攻めが重要-参議院議員選挙と若者の投票行動連載17:カーボンクレジット市場の過熱に惑わされてはいけない連載16:現実を見ないことが原子力の問題連載15:ガソリンのように電気を買う時代は来るのか?連載14:LPガスから撤退する東京ガスと事業ドメイン連載13:円安の時代とイノベーションの不在連載12:アマゾン労組と値上げできない電力連載11:エネワンでんきの設立と、エルピオの小売電気事業からの撤退連載10:震災と原子力と電力需給ひっ迫連載9:ロシアのウクライナ侵攻で考えること連載8:ブルーオーシャンの孤独連載7:電気料金は下がらない連載6:主役はアプリケーションかもしれない連載5:野球チームからラグビーチームに連載4:ソーラーシェアリングって儲かるの?連載3:電力・ガス料金はもう安くならない連載2:「有馬記念」がなくなる日連載1:エネルギー基本計画はたかだか中期経営計画にすぎない

連載20(2022.8.15)

核融合炉と宇宙太陽光発電

 このところ、核融合炉と宇宙太陽光発電について、続けて記事を書く機会があった。いずれも、夢物語のような発電技術ではあるが、同時に、かなりまじめに研究開発もなされていて、それなりに資金もつぎ込まれている。2050年以降の実用化ということになりそうなので、遠い話のような気がするが、28年後と思うと、そうでもないかもしれない。2050年カーボンニュートラルと同じような感覚だろうか。

 核融合炉も太陽光宇宙発電も、アイデアそのものはけっこう古い。
 核融合に関しては、そもそも1920年代にはその事象が発見されている。水素原子どうしが融合してヘリウム原子になるときに、莫大なエネルギーが発生するというもので、太陽のエネルギーも核融合によるものだ。
 核反応といえば、もう1つ、核分裂がある。こちらは、ウラン原子に中性子がぶつかって、2つの原子に分裂するときに、莫大なエネルギーが出るというものだ。
 兵器という文脈でもれば、核分裂は原子爆弾であり、核分裂は水素爆弾ということになる。そして、質量あたりのエネルギーでいえば、核分裂よりも核融合の方が圧倒的に大きい。
 宇宙太陽光発電はもう少し歴史が新しいが、1950年代に人工衛星が打ち上げられた時点で、こうしたアイデアが出ており、1968年には概念をまとめた論文が発表されている。

 巨大なテクノロジーの分野は、しばしば実用化までに時間がかかる。似たようなものとしては、リニアモーターカーがある。現在、ようやく建設中までこぎつけたところだ。進化の袋小路に入ってしまうものもある。超音速旅客機がその例だ。
 そのように考えていくと、核融合炉も宇宙太陽光発電も長い時間がかかっていることはうなずける。そして、それが進化の袋小路に入ってしまう可能性も否定できない。

 とはいえ、核融合炉についていえば、近年は投資額が増えており、スタートアップもいくつも誕生している。もちろん、カーボンニュートラルを実現するための重要な技術の1つとして考えられているということが、背景にある。
 原子力発電の場合、放射性物質の取り扱いこそ簡単ではないが、構造的にはシンプルだ。核分裂するウラン燃料で直接お湯を沸かして、蒸気タービンを回し、発電するというものだ。
 その点、核融合炉では水素の同位体である重水素と三重水素(トリチウム)が燃料として使われる。いずれも常温では気体であり、反応させるためには極めて高い温度が必要となる。その時点で、プラズマとなり、そのままでは容器に閉じ込めることさえできない。
 そこで、核融合炉では電磁石で磁界をつくり、その中に重水素と三重水素のプラズマを閉じ込め、核融合反応させる。このときに、ヘリウムができて、中性子が飛び出す。
 核融合のエネルギーを回収するしくみは、核融合による熱ではなく、飛び出した中性子が炉壁に衝突することで発熱し、この熱でお湯をつくって蒸気タービンを回すことになる。ここまでくれば、あとは原子力発電と同じしくみだ。
 核融合炉の開発にあたっての最大の課題は、核融合を起こす重水素と三重水素のプラズマをいかに閉じ込め、核融合反応を持続させるか、そしてそのエネルギーを取り出すかだ。とりあえず、短時間ではあるが、核融合反応を持続させることには成功している。そして現在は、実証炉がフランスで建設が進められている。

 ところで、核融合炉の燃料である重水素は海水中に多量に含まれており、資源量は問題ない。一方、三重水素については、リチウムに中性子をあててつくるとされている。リチウムもまた、海水中に多く含まれているので、資源量として問題なく、7万年分のエネルギーを供給できるともいわれている。
 とはいえ、正直なところ、リチウムから三重水素をつくることには疑問がないわけではない。核融合燃料をつくるプラントも簡単ではないだろう。
 その一方で、三重水素そのものは放射性物質でもあり、廃棄処分が問題となっている。言うまでもなく、福島第一原発の汚染水だ。ここに含まれる放射性物質は主に三重水素(トリチウム)なのだが、これを取り出して核融合炉で使うということは考えられていない。

 もう1つ、懸念されるのは、核融合炉で放出される中性子だ。中性子線は透過率が高いため、遮蔽も簡単ではない。1999年の東海臨界事故は、中性子線による被ばくが2名の作業員の命をうばった。

 もちろん、開発の従事する技術者は、こうしたリスクを理解した上で、安全でカーボンゼロのエネルギーをつくるつもりである。

 宇宙太陽光発電は、宇宙空間の静止軌道上に太陽光発電を打ち上げ、エネルギーをマイクロ波という電波にして地上に送るというものだ。宇宙には夜がないので、ほぼ24時間発電できる。たくさん打ち上げることができれば、こちらもカーボンゼロのエネルギーをたくさん作りだすことができる。

 課題となる技術は大きく2つ。1つは巨大な構造物を宇宙に打ち上げて組み立てるためのコストが莫大なことだ。コストを50分の1に下げる必要がある。ただし、この技術開発は宇宙太陽光発電に限ったものとはならない。
 もう1つは、マイクロ波による送電効率の向上だ。現在は地上でさまざまな実験が行われているが、50m程度でも、1割くらいのエネルギーしか遅れていない。
 それでも、中国は太陽光発電の電気をマイクロ波で送電する実験に成功しており、2028年には最初の衛星を打ち上げるという。
 日本なども2030年代には同様に実証衛星を打ち上げる方針だ。
 ただ、実際には地上でマイクロ波を受け取る設備には広い面積が必要となるし、そもそも打ち上げコストの低減は簡単ではないだろう。

 それでも、宇宙太陽光発電もまた、カーボンゼロのエネルギーの重要なオプションとして研究が進められている。

 核融合炉や宇宙太陽光発電がエネルギー問題を確実に解決するわけではないが、可能性がないわけでもない。落とし穴も少なくない。この他にもさまざまな技術の開発が進められており、あるものは実用化され、あるものは棄却されるだろう。
 同じことは、メタネーションやプロパネーション、CCUSやDAC(二酸化炭素直接回収)についてもいえる。

 技術に対して、過剰な期待も安易な否定も避けるべきなのだと思う。その上で、どこかの時点では答えが出るはずだ。私たちは、冷静に可能性を見ながら、リスクを判断し、可能性の海を泳いでいくことになる。そうした中で、将来の夢を語ってもいいのではないか、とも思うのである。

連載19(2022.8.1)

持続可能であるということ

 先日、日本語学校で「SDGs」をテーマにした講義を行なった。
 エネルギー業界人向けのセミナーの講師は何度も経験あるが、留学生、それも若い人たちに対する講義というのは、貴重な経験だったといえるだろう。

 短い時間の中で、SDGsについてどんな話をすればいいのか、それをまず考えた。SDGs全般、17のテーマを紹介しても表面的になってしまう。そこで、最初は気候変動問題にフォーカスすることを考えた。もちろん、筆者の専門がエネルギーであるゆえに、気候変動についてはいくらでも説明できる。また、社会の関心が高いテーマでもある。
 けれども、講義の内容を検討していくうえで、かえって専門的な話になりがちであることに気づいた。それに、気候変動問題だけがSDGsのテーマではないし、留学生にとっては、もっと身近なテーマもあるのではないか、と考え直した。

 SDGsは、日本語に直すと「持続可能な開発の目標」ということになる。
「開発」はわかりやすい。人々が豊かに暮らしていくためには、まだまだ開発すべきことがある。インフラの開発というイメージが強いかもしれないが、教育のような人の能力の開発もある。
 一方、「持続可能」というのはわかりにくい。というか、日常は使わない言葉だ。これをやさしく言い換えると、「何かをし続けられる」ということになる。
 では、どんなものが持続可能であり、あるいはそうではないのか。気候変動問題をこの文脈で話すとすれば、二酸化炭素を出し続けることはできない、ということになる。
 魚を獲りすぎるということは続けられないし、森林を牧場にし続けることもできない。

 SDGsにおいては、「誰もが当事者である」ということ、そして「誰一人取り残さないこと」も重要だ。では、私たちは当事者として何をすればいいのか。
 「レジ袋やプラスチックのスプーン・フォークをもらわない」、「照明をこまめに消す」、「牛肉を食べるのは控える」など、身近にできることはたくさんある。でも、それだけでSDGsが達成されるわけではない。若い世代にはもっと考えるべきことがある。
 ヒントとなるのは、「持続可能ではない事業」には、銀行をはじめ機関投資家はお金を貸してくれなくなりつつある、ということだ。いわゆるESG投資だが、それは何も環境や社会をよりよいものにする、というだけではない。環境や社会に害を与える事業への投資は、長期的には投資回収ができなくなる、ということだ。
 つまり、これから若い人たちは、持続可能な事業に関係する仕事をしていく方がいいということである。そして、SDGsに取り組むという点では、こうした視点で考えることの方が、よほど社会への影響が大きいのではないだろうか。

 講義は45分×2コマで構成されている。最初の1コマで、「持続可能であること」を中心にSDGsのポイントを解説し、ワークショップでは身近なこととして、「持続可能なこと」と「持続可能ではないこと」を討論してもらった。母国での環境破壊を語る学生もいた。
 後半は、SDGsにそってどんな取り組みができるのか、そのアウトラインを話した。持続可能な事業の例や、今の事業が持続可能であるためにすべきことを例示した。例えば、今の会社においても、取締役や管理職は「中高年の男性」ばかりではなく、「女性」や「外国人」の割合を増やすこと。事業環境の変化に対して、多様性を持った組織の方が耐性は強い。
 働き方や地域住民とのパートナーシップなども、持続可能であるためには必要だ。地元とトラブルを起こすメガソーラー開発が持続可能ではないのは言うまでもない。
 そして、ワークショップとして、「将来、どのような持続可能な仕事をしたいのか」ということを話し合ってもらった。

 気候変動問題の国際交渉では、「共通だが差異ある責任」という言葉が使われる。それは、先進国と途上国の間で、どちらも責任あるが、先進国がより重い責任を持つということを意味している。しかし近年は、世代間にも「共通だが差異ある責任」があることが認識されている。年長の世代の方がより重い責任を持っている。
 そうした責任の重さを感じながら、若い世代に何を伝えるべきなのかを考えて、講義を行なった。  慣れない講義だったので、どこまで伝わったのか、その点では不安は残る。それでも、筆者にとってもまた、貴重な経験となった。

連載18(2022.7.21)

守りよりも攻めが重要-参議院議員選挙と若者の投票行動

 7月10日投開票の参議院議員選挙が行われた。選挙結果はいろいろな見方があると思う。ただ、イデオロギー的なことを別にして、結果を通じてあらためて感じたことを書いておきたい。
 単純に言えば、「守る」政党は凋落し、「攻める」政党が票を伸ばした、ということだ。

 例えば、「護憲」勢力はなぜ伸びなかったのか。そもそも、有権者は日本国憲法にさほど興味がないということはさておいて。「護憲」勢力の多くは、憲法第9条を守るということを中心に置いていた。確かに、戦争をしないほうがいい。けれども、それだけで若い世代が直面する困難さが解決できるわけではない。
 日本国憲法で第9条と同じようによく語られるのが、第25条だ。いわゆる「健康で文化的な最低限度の生活をする権利」である。この第25条を中心とした第3章の部分が、「基本的人権」を規定している。
 憲法第9条からなる第2章と、基本的人権について書かれた第3章では、置かれている状況が異なっている。というのも、70年以上もの間、日本は戦争をしなかったけれども、基本的人権が守られてきたとはとうてい言えないからだ。いわゆるブラック校則の問題や、国別比較で100位以下で低迷するジェンダー平等性がその証左だ。
 若い世代が直面する困難さは、この第3章がいまだに十分に守られていないことに関係している。
 このように見ていくと、第9条を守ろうという「護憲」勢力は票を伸ばせず、第3章を実現しようという攻めの姿勢の「護憲」勢力が票をのばしたように見える。
 その点、「改憲」勢力はそもそも攻めの姿勢なので、議席を守ったのも当然なのだろう。

 このことは、かつて安倍政権が長期政権となったことにも通底している。安倍政権の目玉は「アベノミクス」だったが、あまり効果的な批判はなされなかった。ある程度は成功していた部分があるだけに、全否定に説得力がなかった。
 アベノミクスの3本の矢というのは、「金融戦略」「財政戦略」「成長戦略」だった。このうち日本銀行が担っていた「金融戦略」では、市場にお金を供給したことで、まがりなりにも経済がまわっていたといえる。しかし政府が担っていた「財政戦略」は、供給されたお金をお友達に配ることに終始してしまい、隅々にいきわたることはなかった。アベノミクスが批判される点はここにある。さらに言えば、「成長戦略」には中味がなかった。
 アベノミクスの問題をもっともよく見抜いていたのは、ほかならぬ岸田首相である。だからこそ、「新しい資本主義」を打ち出し、「再分配」をすすめようとした。つまり、野党以上に明確に「アベノミクス」の対案を示したということだ(もっとも、最近はすっかりトーンダウンしているが)。

 参議院議員選挙の結果を通じて感じたことというのは、「守り」より「攻め」が人の心をつかむということだ。
 「戦争のない日本」を守るよりも、「誰もが健康で文化的な生活ができる豊かな日本」を作る「攻め」が強く求められるということでもある。
 もう少し普遍的に言えば、「現状を守る」よりも「未来を構想し、実現する」方が市場では優位ということでもある。
 もちろん、「現状を守る」ことを言葉にするのはたやすい。それに対して、「未来を構想する」ことは、多くの知見を動員しなければいけないし、利害対立も出てくる。それでも、生き残るためには「攻め」が必要だ。それは政党でも企業でも同じことではないだろうか。

連載17(2022.7.13)

カーボンクレジット市場の過熱に惑わされてはいけない

 ここしばらく、いくつかの会社からカーボンクレジットについて教えて欲しいという問合せを受けている。実際に、カーボンクレジットの取引は活発化しているようだ。その背景には、手軽にCO2排出量を削減したいという大手企業の思惑がある。また、そこにビジネスチャンスがあるのではないか、と考える企業もある。
 LPガス業界においても、カーボンニュートラル(CN)LPガスの供給にあたっては、こうしたクレジットが利用されている。

 一方、カーボンクレジットの信頼性が問われるようになってきてもいる。とりわけ、森林保全や植林関連のクレジットの場合、問題を抱えたケースが多い。
 森林を保全し、植物が適切に育つのであれば、確かにCO2を吸収してくれる。それが適切に評価され、第三者認証を得ることで、カーボンクレジットが発行される。
 しかし、せっかく保全した森林や植林が放棄されてしまえば、CO2吸収は進まないし、場合によってはCO2排出源ともなる。カーボンクレジットを発行した後に、森林保全事業がストップしてしまえば、実質的にCO2は吸収されなかったということにもなる。

 さらに、森林保全・植林の場合、カーボンクレジットの発行対象から外そうという動きもある。どういうことかというと、一部の環境NGOが主張しているのは、生物多様性の保全が優先されるということだ。適切な森林保全は生物多様性も保全する。そうであれば、カーボンクレジットとは別の形で評価されるべきだということだ。
 逆に、生態系を無視して成長の早い樹種を植林してしまえば、CO2は吸収されるが、生態系は破壊されるということにもなる。

 カーボンクレジットにはもう1つ課題がある。それは、パリ協定との整合性だ。
 現時点で発行されている国際的なクレジットは、基本的にはパリ協定における国別のCO2排出削減目標の達成に使えないと考えていい。つまり、日本の事業者がカーボンクレジットを使ってCO2排出を削減しても、日本のCO2排出削減には貢献していないということになる。その点、J-クレジットなど国内クレジットは、日本のCO2排出削減と明確にリンクしているので、パリ協定と整合していると考えていい。
なお、こうした状況であっても、後述するように、国際的なカーボンクレジットの利用が無意味なわけではない。
 パリ協定の第6条に、カーボンクレジットに関する取り決めがある。とはいえ、このしくみの詳細はこれからつくられることになっている。例えば、先進国が途上国でCO2排出を削減したときの認証機関はどうするのか、といったことだ。そうした意味においても、パリ協定との整合性はこれから構築される、ということになる。

 それでも、カーボンクレジットを通じたCO2排出削減には、経済的合理性がある。CO2排出を削減しやすいところから実施していく、ということになるからだ。よく言われるのは、省エネが進んでいるところでさらに省エネするよりも、省エネが進んでいないとことで進めた方が、CO2排出削減のコストは小さい、ということだ。再エネ導入についても、導入コストが小さいところから優先して行っていくということが合理的である。

 では、今後、どのようにカーボンクレジットとつきあっていけばいいのだろうか。
 第1に、カーボンクレジットの信頼性の確保だ。信頼性は透明性と言い換えてもいいだろう。どの場所で、どのような事業を実施し、その結果として発行されたクレジットである、ということが明確にわかることが必要だ。また、森林保全や植林の場合は、継続的なレポートが求められる。
 第2に、そうはいってもパリ協定と整合性のない現在の国際的なクレジットは一時的なものだと考えるべきだ。今後、パリ協定と整合性あるクレジットの発行がなされていくだろう。日本が実施している二国間クレジットがそうしたクレジットとなっていく見込みだ。将来にむけた準備や情報収集をしておくことは無駄ではない。
 第3に、一般消費者のCO2排出削減という「気持ち」に応えていくには、透明性を持つクレジットが不可欠だ。まさに、どこでどのようにしてCO2排出を削減しているのか、一般消費者がCO2排出削減にどのように貢献しているのか、こうしたことを「見える化」した上で、提供していくことになる。

 パリ協定と整合性があるカーボンクレジットが発行されるようになったとしても、クレジットビジネスはせいぜい2040年までだろう。カーボンゼロがあたりまえの社会になると、CO2排出そのものが認められなくなり、クレジットが発行できなくなっていくからだ。そうしたときに、唯一発行可能なのは、大気中からCO2を除去するようなカーボンマイナスの事業からのクレジット発行ということになる。
 こうした視野を持って、カーボンクレジットと上手に付き合っていくことが必要だ。
 何となく、過熱しているようなカーボンクレジットビジネスだが、冷静に、長期的視野を持って対応していくことが求められる。

連載16(2022.6.22)

現実を見ないことが原子力の問題

 原子力というと、何となく「賛成」か「反対」かというイデオロギー的な問題というイメージがある。けれども、日本の原子力が直面しているのは、そうした問題ではなく、いかに安全に再稼働させ、あるいはコスト効率的な運用に着陸させていくのか、ということだ。
 6月20日現在でも、電力の市場価格は高止まりしており、7月から8月にかけて需給のひっ迫が予想されている。そのため、原子力の再稼働を望む声は少なくない。けれども、原子力は「可能なものは再稼働させる」ことですでに決着している。
 原子力の再稼働が進まない問題を、イデオロギーの問題に転換させてしまうことで、本質的な問題を見ないようにしている、というのが実情だ。
 そして、「見たくない現実は見ない」ということが、日本社会における最大の問題ではないだろうか。

 原子力の再稼働が進まないのは、日本において「安全に原子力発電所を運転する」ことに、手間がかかるからだ。つい先日も、石川県の珠洲市の近くで震度6弱の地震があった。珠洲市はかつて原子力発電所の計画があった場所だ。かように、地震の多い国土で原子力発電所を運転するためには、活断層の調査から災害時の対応のための施設の整備、十分な耐震性能、運転管理の適正化、災害時の避難計画の策定など実施すべきことは多い。
 対テロ対策の必要だ。米国の9.11同時多発テロでは、1機はピッツバーグの原発を目指していたが、途中で撃墜されたといわれている。
 原子力の再稼働は、調査、計画策定、審査、工事などがすんでからということになるし、そのためには多くの時間がかかっている。それが現実だ。反対運動や国民の感情で再稼働できていないというわけではない。また、原子力規制委員会も「安全に原子力発電所を運転」してもらうために、最大限の努力をしているはずだ。
 結局のところ、日本で原子力を推進したい人たちの実力が、ここまでなのだ。

 日本社会には、このように見たくない現実から目をそらすことは少なくない。
 例えば、2000年代の産業界における京都議定書への評価は「米国も中国も参加していないのに、日本だけがCO2排出削減をするのは意味がない」ということだった。しかし2008年にオバマ政権が誕生した時期は、米国も中国もCO2排出削減に前向きに取り組んでおり、日本だけが削減に後ろ向きだった。そこで日本は気候変動問題をめぐる国際社会から取り残されていった。
 何も環境やエネルギーだけではない。少子化も同様だ。若い世代の賃金が伸びず、とりわけ女性の雇用環境が変化しないのでは、出産に対する機会費用は高まるばかりだ。子供を持つと豊かに暮らせなくなる、という現実を誰も見ない。その結果、何の対策もとられることなく、出生数は下がる一方だ。
 同じことは、教師が不足しても増やされない文教予算、働き手が減少しても受け入れない移民、身近にスポーツを楽しめる環境の整備を差し置いて赤字垂れ流しで行われたオリンピックなど、いくらでもある。まともな外交ができずにいくつかの国とは関係は悪化したままだ。

 けれども、未来を見るためには、見たくないものであってもきちんと見る必要がある。そこでは、必ずしも望ましい世界は見られないかもしれない。けれども、生き残るための未来を見ることができるだろう。
 もうすぐ参議院議員選挙がある。各政党、政治家が公約を口にするだろう。誰が見たくないものを見ているのか、誰が見たくないものから目をそらしているのか、そうしたことも気になっている。

連載15(2022.6.7)

ガソリンのように電気を買う時代は来るのか?

 同じエネルギーであっても、ガソリンと電気には大きな違いがある。いや、自動車の燃料かどうか、という話ではない。EVだってあるしね。
 違いというのは、市場に直接連動しているかどうか、ということだ。ガソリン価格は市況によって変動している。その点、電気はあまり変動していない。
 そういうと、「いや、最近は値上がりしているじゃないか」って言われるかもしれない。でも、そうではない。
 電気の市場価格(日本卸電力取引所=JEPXのスポット価格)は毎日30分単位で価格が異なっている。けれどもほとんどの小売電気事業者は電気を決まった価格で販売している。市場の電気が50円/kWhになっても、それを仕入れて30円/kWhで売らなきゃならない、ということだ。
 たぶん、ガソリンはそんな売り方はしていないはずだ。

 ここにきて、市場連動型の電気料金が注目されている。新電力の多くは、これまでの価格で電気を売ることはできないし、次の夏、その先の冬の価格高騰が予想されるため、そもそも決まった価格で電気を売ることにはリスクがありすぎる。したがって、リスクは需要家にもってもらおう、ということなのだ。とはいえ、市場連動を打ち出すのも勇気がいる。
 1年前の価格高騰のときは、市場連動型の電気料金メニューにしていた需要家は急激な電気料金の上昇に悲鳴をあげていた。他方、固定料金のメニューで提供していた小売り電気事業者は逆ザヤに悲鳴をあげていた。
 2年目ともなれば、今までのような電気の売り方ができないということが自明となってくる。そのため、新電力が行っているのは、優良な顧客以外は減らしていく、といったことだったりもする。
 結局、新電力にとって、電気を供給しつづける料金メニューは今のところ市場連動型しかないが、他方で冬には従来の4倍にもなるような電気料金を請求することにもなり、社会問題の矢面に立たされかねない。また、そもそも市場連動型の方が年間を通じて需要家にメリットがあるということを説明するのはたやすいことではない。
 こうした中、中部電力ミライズや日本テクノは市場連動型の法人向けメニューの提供を開始した。というか、筆者が所属するafterFITも開始している。とりあえず、問合せはまあまあ来ているが、契約者に対しては、最初の夏の高騰時の顧客への説明についての準備は必要だ。

 ただ、そもそもの話でいえば、小売価格が卸市場の価格の変動に影響されるのは、ガソリンも玉ねぎも小麦も同じ話だ。電気の場合、市場のボラティリティがやたらと高いということはあるとしても。それでも、長期的に見れば、小売電気事業者がリスクをとって単価を固定するよりも、需要家の電気代の総額は市場連動の方が安くなるはずだ。
 おそらく、実態としては、まだ市場連動の方が高い可能性がある。小売電気事業者はまだまだリスクを低く見積もりすぎているか、大幅な値上げができていないか、たぶんその両方だ。
 そうだとしても、1年後には生きのこった小売電気事業者は市場連動か割高の単価固定のメニューに分かれているだろう。発電所を確保している小売り電気事業者だけが例外的に、既存顧客に安定した料金で電気を販売することができるだろうが、すぐに顧客を増やすということはしないだろう。

 あらためて、需要家が考えるべきは、ガソリンのように電気を買うという感覚だ。安い電気を使い、高いときは節約する。それだけのことだが、これからの社会においては必要なことだろう。  小売電気事業者に求められるのは、需要家が上手に電気を使うことをサポートすることだ。そうした取組みが、持続可能な事業になる。電気の使い方だけではなく、リスクの低減のしかたなど、やるべきことは多い。そうした創意工夫が、中長期的には競争力となっていく。

 それに、ガソリンのように電気を買うということは、悪い事ばかりではない。プリペイド型の料金メニューがまさにそうなのだが、これについてはまた次回。

連載14(2022.5.25)

LPガスから撤退する東京ガスと事業ドメイン

 2022年4月27日、東京ガスがLPガス事業を岩谷産業に譲渡することが発表された。LPガス事業から撤退するということである。選択と集中という文脈でいえば、納得できるものだ。東京ガスという会社にとっては、LPガス事業は相対的に小さなものだった。同時に、カーボンニュートラルを目指していく上では、重荷になることは予想できた。ただし、これがただちにLPガス事業そのものに将来性がないということにはつながらない。また、既存のLPガス事業者にとっては、住み分けができるいい機会かもしれない。それは、ガスの種類というよりも、事業ドメインという文脈で考えることができる。

 東京ガスは日本最大手の都市ガス会社である。東京ガスに限らず、大手都市ガス会社にとって、2050年の脱炭素というのは、遠くて困難なテーマだ。とりあえず、メタネーションと再エネ事業でカーボンニュートラルを実現していこうというのが、現在公表されている長期ビジョンだ。  だが、ここには、メタネーションという、まだ確立されていない技術に未来をゆだねなくてはいけないという危うさがある。
 おそらく、東京ガスの本音は違うのではないだろうか。

 東京ガスの事業は、LNG基地と導管というインフラを中心とした、都市ガスの垂直一貫型の事業者だ。ただし導管事業は2022年4月に分離され、別会社となった。とはいえ、多くの電力会社と同じく、上流と下流を持つ会社であることにはかわりない。
 事業ドメインは、インフラ事業者というものであり、ある程度は「エネルギーの安定供給」が会社としてのミッションということになる。
 ライフバルという一般消費者の窓口となる事業との連携もあるとはいえ、お客様との距離の近さはLPガス事業者ほど近いわけではない。それでも旧一般電気事業者よりは近いことが、電気事業への参入で一定の成果を出したことにつながっている。

 そのように考えていくと、エネルギーインフラの会社としての東京ガスは、供給するエネルギーを都市ガスにこだわる必要はない。とはいえ、自分たちでなくても支えられるインフラについては、こだわる必要はない。そうした文脈において、東京ガスにとってLPガス市場のような優位性がないところで戦う必要はない。重厚長大なインフラをかかえつつ、次のインフラにシフトしていく、というのが本音なのではないだろうか。そう考えると、2050年の東京ガスは再生可能エネルギーを供給するインフラを担う企業になっているというのが、あるべき目標なのではないだろうか。とはいえ、都市ガス事業をやめてしまうということについてコミットする必要はなく、重要なオプションとして残しつつ、対外的にはガス会社であることを示している、ということではないか。

 インフラ会社にとって、小売部門はなかなか力を入れにくい分野だ。その点で注目しているのが、TGオクトパスだ。
 オクトパスエネルギーは英国のエネルギー会社で、再エネの供給と柔軟な料金システムを武器に急成長した会社だ。同社が東京ガスと合弁事業を開始したのが、TGオクトパスであり、小売りはオクトパスエナジーのブランド名で展開している。
 まだまだ契約数はすくないが、通常の電気よりも実質再エネ電気の方が安いという驚くべき料金メニューとなっている。
 直近、電力市場の高騰から、事業を拡大するフェーズにはないが、価格が落ち着いてくれば、攻勢に出るだろう。そこで英国での経験が生きてくるはずだ。すなわち、市場価格のボラティリティに対応した料金プランの設計などである。
 こうした優位性をもって、オクトパスのブランドで全国展開をするのであれば、東京ガスは小売りを切り離して、エネルギーの供給に注力することができるだろう。あくまで筆者の感覚的な予想でしかないが、10年後には東京ガスの小売部門はTGオクトパスに吸収されているのではないだろうか。一方、東京ガスは再エネの供給を全国展開しているのではないだろうか。こうしたとき、小売部門の強さが求められるLPガス事業は、手放してしまうのが合理的だ。

 こういった状況になれば、LPガス事業者にとって、TGオクトパスは競争相手なのか提携先なのか、どちらかとなってくるはずだ。TGオクトパスの小売りはWebが中心になると予想されるので、対面営業の部分をLPガス事業者が担うということもあるだろう。

 大阪ガスはともかく、東邦ガスを含めた他の都市ガス会社がLPガス事業を手放すことは考えにくい。地域密着という優位性を手放すことはないということだ。また、そのことが事業ドメインを規定する。
 東京ガスのLPガス事業からの撤退は、おそらく自社の事業ドメインの再定義からくることで、そのための選択と集中だろう。
 カーボンニュートラルという将来像は、エネルギー事業者に対して事業ドメインの見直しを迫っているともいえる。そしてそのことは、他のエネルギー事業者も同様だろう。

連載13(2022.5.11)

円安の時代とイノベーションの不在

 今年に入ってから、いろいろなものの値上がりが続いている。個人的には、駄菓子の「うまい棒」が20年目にして10円から12円に値上げされたというのが印象的だ。「きのこの山」も「たけのこの里」も値上げされた。ビールも値上げされるし、カップラーメンも。
 というか、本当にいろいろなものが値上げされている。とはいえ、エネルギー業界においては、ずっと前から値上げが始まっていたわけだが。というか、エネルギーに関して言えば、もう安い時代は終わったと考えるべきだ。

 値上げの理由はさまざまだ。もちろん、ロシアによるウクライナ侵攻は大きな理由の1つとなっている。だが、ここで考えたいのは、円安という要因だ。そこには、日本社会の構造的な問題がある。
 円安の理由は、米国のFRBが利上げする一方で、日本銀行が公定歩合の利率を下げたままだからだ。ドルの方が利率が高いので、通貨としてはドルの方が価値が高いことになる。
 では、なぜ日本銀行は利率を引き上げられないのか。それも単純な理由で、景気が回復していないからだ。したがって、日本銀行は通貨を供給し続けなければならない。
 ここで気になるのは、円安であるにもかかわらず、日本では景気が回復しないということだ。製造業が海外移転してしまって、円安効果が限定されている、という見方がある。しかし、それは本質ではないだろう。むしろ、円安による物価高に、多くの人は苦しく結果となっている。

 本質的な問題は、1990年代のバブル経済の崩壊以降の、日本社会の対応の誤りだ。
 すでによく知られた話となってしまったが、90年代後半以降、OECD諸国の平均賃金は、自国通貨建てでは、日本を除くすべての国で上昇している。とりわけ鉱業が好調だった2000年代のオーストラリアの上昇は顕著で、1.7倍くらいになっている。韓国も急上昇しており、ドル換算では日本を追い越しているのではないだろうか。
 英国やドイツは上昇率が低いが、それでも1.2倍とか1.3倍といったレベルになっている。これに対し、日本はおよそ0.9倍だ。
 日本は給与が下がったというよりも、非正規雇用が拡大したといっていいだろう。実は正社員がそれほど減っているわけではないが、その正社員の給与が増えない分、女性の就業率が上昇し、これが非正規雇用の拡大につながっている。また、男性については、ロストジェネレーション(現在の40代後半から50代前半)は男性の非正規雇用も多い。
 こうしたことが、内需が拡大しない日本社会の原因となったし、したがっていくら日銀が通過を供給しても、景気は回復しない。

 だが、問題はそれだけではない。非正規雇用の拡大によって、企業がイノベーションを起こしにくくなったともいえる。不安定な雇用の従業員は企業においてイノベーションをもたらす存在にはならない。
 そうであるにもかかわらず、日本企業のほとんどは、経営を維持するために人件費を削減してきたし、その結果として、長期的にイノベーションが起こらない企業となっていったといえるだろう。したがって、付加価値の高い製品の製造ができなくなっており、円安になったとしても、利益を増やすことはできない。
 かつて経営者は、「人件費の高い日本では経営はできない」といってきたが、こうしてみると「人件費が安くても経営できない」というのが真実だったということだ。
 だとしたら、日本はこれから発展途上国(というよりも没落国か)となっていく、ということなのだろうか。

 長期的な多くの経営者の過ちが、現在の日本社会を作り出しているとしたら、すべての経営者が再び過ちを繰り返すことは、本当に日本を途上国にしてしまうだろう。
 経営者に求められるのは、高い負荷価値を提供できる組織をつくることではないだろうか。そのことがまわりまわって、自社の経営環境に大きな影響を与えることになる。より豊かな日本をつくれるのかどうか、その責任を担っているということだ。

連載12(2022.4.27)

アマゾン労組と値上げできない電力

 昨年末、労働組合の脱炭素施策について取材した。対象は連合、自動車総連、全労連である。他にも電力総連と基幹労連の取材も申し込んでいたが、こちらは準備ができていないということで断られた。

 脱炭素社会への移行は、労働者にも大きく影響する。自動車がEV化していけば、下請け企業は業態を変えるか退出するしかない。エンジン開発のエンジニアは不要になる。

 こうした状況にあって、労組が求めていたことの1つは、経営者に対して早く方針を示して欲しいということ、そして政府に対してはキャッチアップのための支援をお願いしたいということだった。

 一方、社会に対しては、こんな要請をしていた。それは、消費者には労働の価値を認識して欲しいということだった。

 しましば、Eコマースにおいて、送料無料というサービスが取り入れられている。しかし、実際には運ぶ人がおり、送料が無料というわけではない。そして、消費者がこうしたサービスを求めるほど、労働者の(ここでは運ぶ人)の価値が低く評価されることになる。そして、そのことが賃金の抑制につながっていく。

 自動車についても、安価に供給することだけではなく、労働者に適正な賃金を支払える価格ということを考えて欲しいということだ。そして、そのことが、自動車産業の労働者でも自動車が買える社会につながっていく、ということになる。

 日本はOECD諸国の中で、唯一20年以上も実質賃金が下がり続けている国である。そこには、賃金抑制によるコスト削減しかできない経営者や、組織率17%という弱体化した労組という要因もあるが、消費者の意識もまた問題だということだ。

 労組としては、賃金引上げを勝ち取れなかった近年については、忸怩たる想いがあるという。そうであっても、労組は労働者の代表として多少なりとも必要な存在でもある。

 こうした中、米国ではアマゾンが労組を結成した。経営側の圧力にもかかわらず、現場の労働者が中心となって、倉庫などにおける劣悪な労働環境を改善するため、労組を結成したということだ。  米国では、組織率は日本よりも低く、わずか10%程度だが、その一方で7割近くが労組を必要だと考えているという。

 現在、電力の卸取引市場の価格は高値が続いている。春となって需要期は脱したため、日中こそしばしば0.01円/kWhになるが、夕方から夜間、早朝にかけて20円/kWhから30円/kWhとなっている。次の冬もまた、高騰する確率が高い。したがって、卸取引市場に依存している新電力は赤字が増えるばかりだ。しかし、大手電力(旧一般電気事業者)もまた、石炭やLNGの高騰で発電原価が上昇しており、新規受付を停止している会社もあるという状況だ。

 もちろん、仕入れ価格が上昇しているのだから、小売価格を引き上げるというのが一般的な考えだろう。実際に、ガソリンはそういった形で販売されており、政府が価格抑制のために補助金を出しているというのが現状だ。

 だが、これは例外だ。日本社会においては、なるべく値上げを回避しようとし、営業努力をするという言い方がなされる。まして、小売電気事業の場合、およそ700社による過当競争となっており、簡単に値上げができる状況にはない。したがって、退出する事業者が出てくる。

 ここで立ち止まって考えたいのは、値上げを最小限にしようとする努力が正しいのかどうか、ということだ。

 もちろん、消費者にとっては、安い方がいい。だが、提供する側にとっては、利益が圧迫されるだけだ。そもそも努力して下げられるものならさっさと下げて利益を増やしているはずだ。

 問題は、価格以上の価値を提供できていないというところにある。直近ではウクライナ情勢の影響があるが、本質的には、これまでのエネルギー価格が安かった。地球温暖化問題に即して言えば、CO2排出のコストを支払っていなかっただけだ。

 過当競争が起きている現在、値上げはしにくいかもしれない。しかし、値上げと市場連動価格の導入をしつつ、過当競争の嵐が去るのを待つというのがいいのではないだろうか。現在の小売電気事業は「持続可能」とはいえない。

 同時に、値上げにあたって、どのような価値を提供しているのか、そのことも問われるべきだろう。市場連動型の電気料金メニューにしてしまえば、顧客に上手な使い方を伝える必要が生じる。

 高い価値を提供し、利益を出していくことで、経済が成長するのだから。

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電力ひっ迫問題、2022年度は大丈夫なのか? 課題が山積みの電力供給計画

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連載11(2022.4.13)

エネワンでんきの設立と、エルピオの小売電気事業からの撤退

 3月はLP業界における小売電気事業という点では、2つの大きなニュースがあった。
 1つは、サイサンと中部電力ミライズによる合弁会社としてエネワンでんきの設立。そしてもう1つはエルピオの小売り電気事業の撤退だ。

 背景にあるのは、言うまでもなく電力市場価格(スポット市場のみならず、ベースロード市場や先渡し市場も含め)の高騰だ。市場に安い電気がないのであれば、電気料金を引き上げるしかない。しかし、その結果、電源を持っている大手電力(旧一般電気事業者)に対する競争力は弱まる。この断面だけを見れば、新電力と大手電力との勝負には決着がついたように見える。

 Fパワーやホープエナジーのように経営破綻した会社もあれば、ウエスト電力のように撤退する会社、あるいはネクストエナジー・ソリューションズのように事業譲渡する会社もある。また、かなり以前から、Looopやアイグリッドソリューションズ、東急パワーサプライは大手電力の資本を引き受けてきたし、中央電力やダイヤモンドパワーのようにすでに大手電力の子会社になっているケースもある。

 事業を継続していても、現段階で新規受付を停止している会社も多い。

 とはいえ、電力市場価格の高騰には複数の理由がある。老朽火力の休廃止による予備力の減少が冬期の価格急騰の要因の1つではあるが、化石燃料価格の上昇も大きな要因となっており、大手電力ですら厳しい収支となっている。

 今後も、価格は下がることは見込めず、次の冬も高騰することが予想される。小売電気事業はもはや単純に儲かる事業ではない。

 もっとも、小売電気事業者が700社以上に増加した背景には、そもそも安かったスポット価格がある。安い電気を調達してきてそこそこの価格で売れば儲かる。大手電力は採算割れの価格で市場に電気を供出してきた。そうした構造がいつまでも続くわけはなかった。

 また、大手電力の小売り部門そのものも、実は危機的な状況にあった。とりわけ東京電力エナジーパートナーは3割も顧客を減らしていた。規制価格という面もあるが、何より一般消費者向けの営業拠点がなく、顧客接点に乏しいため、サービスの多様化すらできなかった。

 そうした見方からすると、エネワンでんきの設立は、今後の業界再編のモデルになりそうだ。

 サイサンにとっては、小売電気事業が採算がとれない重荷になっていたのではないだろうか。とはいえ、簡単にエネワンブランドを外せない。一方、中部電力ミライズにとっては、顧客接点がなく、顧客サービスの多様化が難しかった。他エリアへの展開も成功しているとはいいがたい。

 こうしたことから、両社によるエネワンでんきの設立には互いにメリットが多いものなのではないだろうか。

 いずれにせよ、大手電力とガス会社との提携というのは、総合エネルギー企業に向かうという意味では合理的な判断だし、今後はLPガス会社だけではなく都市ガス会社も巻き込んだものとなっていくのではないだろうか。

 エルピオが小売電気事業から撤退するというのは、やはり小売電気事業の継続が難しいという判断による。そして、切り替え先の電力会社としてエネワンでんきを推奨している。今後、エルピオはエネワンでんきの代理店として小売電気事業にかかわっていく。

 エルピオの撤退でダメージを受けているのが、エネチェンジだ。電力切り替えのための価格比較サイトを運営しているが、業界最安値を展開してきたエルピオは同社にとって重要な顧客だった。したがって、エネチェンジは今後、売上を大きく減らすことになる。

 もっとも、価格競争ができなくなった段階で、価格比較サイトというビジネスモデルは破綻しているといえよう。

 こうした一連の出来事を通じて思うのは、エネルギー事業においても、供給側から需要側までのバリューチェーンの中できちんと付加価値を生み出して利益を出していくことの大切さだ。そして、もはやこのバリューチェーンを1社で担うことができなくなっている以上、どのような提携でバリューチェーンを組み立てなおすかが問われてくる。そうした意味において、サイサンと中部電力ミライズによるエネワンでんきは1つのモデルとなるだろう。同時に、価格比較サイトはバリューチェーンからはじき出されるのではないだろうか。

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電力大手とLPガス大手の合弁に見る、エネルギー小売事業の変化とその将来像

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電力小売事業は儲からない? 経産省で議論が進む、新電力のあり方

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連載10(2022.3.23)

震災と原子力と電力需給ひっ迫

 3月16日、東北地方で最大震度6強の地震があった。被災された皆様にはお見舞い申し上げたい。

 ところで、3月22日には、経済産業省は電力ひっ迫警報を発令した。地震の影響で東北エリアの発電所が被害を受け、一部が復旧していないことに加え、寒さと雨が重なり、需要増が予測されるからだ。雨の影響で太陽光発電の稼働も期待できない。

 JEPX(日本卸電力取引所)のスポット価格は80円/kWhにはりついているが、これはインバランス料金の上限に相当する価格だ。新電力にとっては、地獄のような一日だろうとも思う。

 こういった状況になると、「原子力発電さえ動いていれば」と考える人は少なくないだろう。あるいは、「石炭火力発電を休止させてはいけない」と考えるのだろうか。そもそも、同じことはLNG価格高騰やロシアへの経済制裁ということでも、同じことを考えているはずだ。

 では、原子力発電の再稼働を促進すべきなのだろうか。答えは、イエスでもノーでもない。というのも、すでに政府も電力会社も再稼働を促進しているし、その結果としてまだ多くが再稼働できていないからだ。この状況でなお、「原子力の再稼働促進」や「新増設の推進」を言う人は、現実が見えていないということだし、そのことが判断を誤らせる。

 また、石炭火力発電の延命は、気候変動に関する物理的、政治的、経済的リスクを考えると選択することは難しいだろう。

 11年前の東日本大震災で原発事故が起きてしまったのは、それが「想定外」か「想定内」かはともかく、原子力発電所が地震に対して脆弱であったことを示している。そのため、十分な耐性を持った発電所にしなくてはいけないし、それぞれの発電所は工事を行ってきてる。それでも、建屋の敷地内に活断層が存在する可能性がある場合には、再稼働は難しい。

 対テロ対策も求められている。実際に、2001年9月11日の米国での同時多発テロでは、旅客機1機はピッツバーグの原子力発電所を標的にしていたと考えられている。

 こうした課題をクリアした上で、日本の原子力発電所はようやく再稼働できるというのが実情だ。
 日本で原子力発電の再稼働が進まないのは、反対運動でも国民的感情でもなく、極めて現実的なプロセスにおける結果だ。
 電力ひっ迫に対し、原子力発電だけが解決法ではないし、むしろ原子力発電そのものは可能な限り再稼働を進めてきた。それでも不足しているというのが現状だ。

 とはいえ、他に何もやってこなかったわけではない。再生可能エネルギーの開発も進めてきたし、今回のように一時的なひっ迫に対しては需給調整市場といったしくみを整備してきた。また、スマートメーターの設置はほぼ完了しており、前回の計画停電のような病院などまで停電させるようなことはないだろう。

 その一方で、建物の断熱化などはあまり進んでいないことも指摘できる。このことが暖房需要の抑制を不十分なものにしている。
 今回、警報を発令したということは、対策はまだ十分ではなかったということでもある。その上で、将来に向けて必要な対策、備えを進めていくことが必要だ。

 電力需給ひっ迫への対策として、原子力発電や石炭火力発電については、実はあまり議論の余地はない。適切な運用を続け、あるいはどこかの時点で休止していくことだ。仮に原子力発電の新増設があるとしても、それは適切な運用を通じて一般市民との間で十分な信頼関係ができてからのことだ。

 これからのエネルギー事業を考えるということは、原子力発電や石炭火力発電の運用が限られ、あるいはLNGの価格が高くなっていくという前提で、次に何をしなければいけないのか、そのことを考えるということだ。

 たぶん、政策立案者も事業者もやることはたくさんあるはずだ。

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2022年4月の電気料金、最高値を更新 日本の電気代にもウクライナ危機の影響

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連載9(2022.3.9)

ロシアのウクライナ侵攻で考えること

 現在、国際社会において最大の危機的問題となっているのが、ロシアによるウクライナ侵攻であることはまちがいない。ウクライナ国民だけではなくロシア軍兵士も命を落としており、多くの人が心を痛めているはずだ。

 この問題が、エネルギーにも大きく関係しているだけに、LPガス事業者にとっては他人事ではないともいえよう。
 この問題は、どうすれば解決するのかも見えないし、正確な情報も限られており、まさに我々自身、出口が見えない中にいるようだ。
 今回のウクライナ侵攻で気になっているのは、「国際経済」が「ロシア国内政治」を抑止できなかったことだ。

 現在は第二次世界大戦の時期とは、戦争の目的が異なっている。ロシアに限らず、戦争のきっかけは国内問題だといえるだろう。逆に、領土問題ではないともいえる。それぞれの国や地域が経済で深く結びついている以上、侵略してその場所の経済=市場を破壊することは、あまり得策ではないからだ。

 今回の戦争はエネルギーが大きく関係している。それを言えば、第二次世界大戦における日本も同じだったと言われるかもしれない。でも、そうではない。エネルギー資源の確保ではなく、エネルギー市場の確保が重要だったということだ。

 西欧は冷戦時代から、旧ソビエト連邦から天然ガスを輸入するために、パイプラインを整備してきた。それはそれ、これはこれ、である。当時からすでに、それぞれの国の経済的な結びつきや相互依存は強かったということだ。

 ドイツは石炭火力発電を廃止するにあたって、ロシアとの間をつなぐ新たなガスパイプラインのノルドストリーム2を完成させ、運用を待つばかりだった。ロシアにしてみれば、天然ガスを安定して欧州が買ってくれるのであれば、収入が増えるということだ。欧州としても、北海ガス田が生産量を減らしているだけに、ロシア産天然ガスは必要なものだった。

 しかし、米ロ関係が悪化していることで、ノルドストリーム2は運開できない状況に陥っていた。冷静に考えれば、ロシアにとってもっともメリットがあるのは、米ロ関係で妥協し、ノルドストリーム2を運開させることだったはずだ。

 だが、ロシアはそうした選択をしなかった。むしろ、国境を接するウクライナの民主化がロシア国内に及ぶことを恐れていたのではないか。そうしたことから、ロシアはさまざまな形でウクライナに干渉しつづけた。ウクライナはロシアと欧州を結ぶガスパイプラインの要所でもある。ガスの供給を途絶させてしまうと、欧州にガスを売れなくなってしまうという状況があるにもかかわらず、である。

 結局、プーチン政権は追い込まれる形で、ウクライナ侵攻を行なった。それは、ロシアが経済的結びつきから切り離されていくことをも意味している。

 シェルをはじめ、エクソンモービル、bp、トタールといった石油メジャーはあいついでロシアから投資を引き上げた。そこには、日本にLNGを供給するサハリンの2つのプロジェクトも含まれている。当然、石油メジャー自身も損失を覚悟の上での判断だ。それでも、ウクライナで起きている悲劇に対して、ノーと言うしかなかった。

 もっとも、だからといって、欧州がロシアからの天然ガスの輸入を止めたわけではなく、日本もとりあえずサハリンからLNGが供給されるという状況ではあるが。

 素人考えかと思われるだろうが、私としては、ノルドストリーム2の運開を交渉材料として、ロシアを思いとどまらせることができなかったのだろうか、と考えている。

 多少、弱腰な交渉であっても、人命が失われるよりはましだ。
 しかし、しばしば政府はそういう判断をしない。ロシア政府はウクライナのクリミア半島を占拠したときに、国民から支持を受けたように、ウクライナにさらに強硬姿勢をしめすことで政権の支持につながると考えたのかもしれない。そして、西側諸国、とりわけ米国がそうした判断をしていたのではないかとも考えられる。

 2001年9月11日の同時多発テロをきっかけとした米国のアフガニスタン侵攻、あるいはイラク戦争もまた、米国政府が強い国家像をしめして、国民からの支持を得るためだったとしたら、ロシア政府の判断と同じものだといえる。そして、結果としてアフガニスタンやイラクでは同時多発テロ以上の死者を出している。

 今起きている、ロシア軍によるウクライナ侵攻については、より早く、合理的な解決がなされることを願っている。それ以上のことはなかなか言えないというのが正直なところだ。

 ところで、ここで経営者に対して教訓があるとしたら、自分を守るための強硬な姿勢は、しばしば会社にとってマイナスではないか、ということだ。
 現代の企業は、社会経済におけるエコシステムの中で存在している。そのことを忘れてはいけないだろう。


 誰もが幸福になれる選択をするということが大切だ。それはロシア政府にも、そしてその他のすべての国の政府にも考えて欲しいことだ。そして、国民は強い国ではなく、幸福になれる国であることを政府に求めるべきだろう。このことは、国を会社に置き換えてもおなじだ。

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ロシアのウクライナ侵攻の裏で石油業界にも大きな異変 日本の大手商社にも影響か

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連載8(2022.2.22)

ブルーオーシャンの孤独

 15年以上前、『ブルーオーシャン戦略』というビジネス書が良く売れていた。独自の商品やサービスを開発し、競争相手のいないところで事業を展開するという戦略だ。

 逆に熾烈な競争下にある市場は、レッドオーシャンにたとえられている。

 ところで、エネルギー業界には、けっこうブルーオーシャンが広がっていると思っている。そもそも業界が激変し続けるということは、まだ開発されていないけれども必要な技術やサービスや商品がたくさんあるっていうことだ。

 ところが、実際には多くの事業者が同じような事業に参入し、過剰な競争を展開している。その代表的なものが、小売電気事業だろう。約700社が成長の見込めない市場で争っている。以前のように、卸電力取引市場(JEPX)のスポット価格が安ければ、利益を出しやすい事業だったけれども、そもそもリスクが潜在しており、昨冬、今冬とつづけてスポット価格が上昇し、どの会社も経営は危機的な状況にある。

 とはいえ、実は冷静に考えれば、価格高騰は予測できたし、リスクについてはとっくの昔に、電力広域的運営推進機関(OCCTO)が示してきた。

 短期的に経営環境が変わったことが問題であり、レッドオーシャンが問題ではない、と思うかもしれない。しかし、そうではない。JEPXの電気を右から左に流すだけの事業がレッドオーシャンとなったことに対し、参入者は価格競争とせいぜいセット販売くらいしか考えることができなかった。そのため、新電力が置かれた状況がこのようになっているということだ。

 しかし、もう少し時間的なスケールを広げて考えれば、再エネが拡大することによって、お客様に最適な形で電気を使ってもらうということは、もっと考えるべきことだった。例えば、市場連動型の料金メニューにした上で、安い時間帯に使ってもらうこと、高騰のリスクを回避するための方策、そもそも消費電力量を減らす工夫。そうしたサービスに対応したアプリケーションの開発は、この国では行われていない。

 こうした例は、これまでのVPP(仮想発電所)や現在のPPA(電力供給契約)などにもみられる。

 では、なぜ多くの事業者がブルーオーシャンには行かずにレッドオーシャンに行ってしまうのか。もちろん、ブルーオーシャンで安定した事業を展開したいと思う経営者は多いだろう。

 しかし、ブルーオーシャンは経営者のメンタルにとって決して楽なものではない。なぜなら、競争相手がいないということは、ベンチマークがないということだからだ。それなら、確実に市場が存在しているレッドオーシャンを目指した方が、精神的には楽なのだろう。甘い期待を持って参入していくことになる。

 多くの経営者は、ブルーオーシャンにおける孤独や不安に耐えられないのではないだろうか。未知の世界にいくリスクをとれないということもいえる。

 でも、ブルーオーシャンであっても、必要な情報を収集し、将来の予測ができれば、どうにかなるかもしれない。ブルーオーシャン戦略においては、経営者の胆力が試されている。

連載7(2022.2.9)

電気料金は下がらない

 LPガス事業者の多くは、小売電気事業においては取次店として事業を展開しているので、卸電力取引所のスポット価格の高騰の影響は小さいかもしれない。一方、小売電気事業者として展開している場合は、経営を左右するほどのダメージを受けていてもおかしくはないだろう。おそらく、経営破綻する新電力が出てくるのではないだろうか。

 海の向こうの英国でも、いくつもの小売電気事業者が経営破綻している。もっとも、英国の場合は小売価格に上限があり、十分な値上げができないという事情もある。

 小売電気事業者は今後、いくつかの選択を迫られることになる。事業をやめてしまうということもひとつの選択だ。あるいは値上げをするのか、市場連動型の電気料金にするのか、という判断もあろう。電源を持っていたとしても、燃料価格の上昇には対応せざるを得ない。

 取次店であったとしても、供給元の小売電気事業者がどのように対応するのかは、顧客に伝えていかなくてはならない。供給元の小売電気事業者が業務を停止してしまい可能性は十分にある。

 電力の市場価格の高騰は、短期的なものではなく、中長期的なものだ。短期的には、発電設備の不足は明確になっており、2022年度の冬まで続くことになる。しかし、化石燃料の価格は2030年頃まで需給がタイトになると考えられる。それまでに再エネと省エネに十分な投資がなされることでようやく解決することになるはずだ。

 では、それまで、新電力には冬の時代が続くのだろうか。おそらく、多くの事業者にとってはそうなるだろう。というのも、「卸電力取引所で仕入れた電気を売れば十分に利ザヤが稼げる」という前提で参入した新電力がほとんどであり、そうした事業者は淘汰されるということだ。

 2016年4月に始まった電力小売全面自由化では、欧米と異なり、日本では価格競争とバンドル化(セット販売)しかしてこなかった。その点、欧米ではメニューに省エネサービスを入れることが必須となっていることが多い。また、そのためにさまざまなサービスを開発してきた。

 では、どのような新電力が残るのだろうか。もちろん、体力のある事業者は残るだろう。しかし、それだけではない。結局のところ、電気事業をはじめとするエネルギー事業は、社会を支える事業であり、ある部分ではインフラ事業、あるいは公益事業である。LPガス事業は公益事業とはされていないが、実質的に公益事業だ。

 社会に必要とされている事業は、社会から見捨てられることはない。顧客が必要とするサービスを提供するのであれば、将来を考えることができる。

 電気料金は下がらない。おそらくLPガス料金も大きく下がることはないだろう。でも、そうしたことを前提に、何が必要とされているのかを考えることは大切だ。考えない企業は淘汰される。

連載6(2022.1.26)

主役はアプリケーションかもしれない

 所属する会社で、小売電気事業のあり方について、ずっと考えている。出した結論の1つは、すくなくともBtoCにおいては、電気を売るのではなく、アプリケーションを提供することが柱になるのではないか、ということだ。アプリで電気やガスを売るのか、と思われそうだが、それはちがう。生活をサポートするということだ。

 ガスはともかく、電気については、時間帯によって価格が変わっている。お客様は気づかないかもしれないが、卸電力取引所のスポット価格はボラティリティが拡大していて、新電力の多くはけっこう苦しんでいる。とりわけ一般家庭はスポット価格が上昇する夕方の需要が大きいので、新電力にとってはつらいところだろう。

 スポット価格が高いので、お客様に対応してもらおうというのは、事業者側の都合でしかない。けれども、実はスポット価格が安い日中は、そもそも太陽光発電が活発に稼働している時間帯だ。ということは、日中の電気の方が環境負荷が小さいということになる。それはすなわち、より安心して電気を使えるということを意味する。

 電気に限った話としては、安心して使用できることをサポートするしくみに、事業者がもたらす価値があるということになる。とはいえ、実際には、生活をサポートするということになれば、電気に限った話にはならない。

 では、どのようなアプリケーションがいいのだろうか。スマートフォン向けアプリを小規模事業者がそれぞれ開発するのでは、手間がかかるだろう。むしろ、大手事業者がアプリケーションをつくり、それを小規模事業者が使えるようにするといいのではないのだろうか。ガスを卸供給し、電気の取次店をやってもらうだけではなく、アプリケーションの提供も大手事業者の重要な取組みになってくるはずだ。

 アプリケーションはなにもスマートフォンだけではない。アナログなサービスもアプリケーションとして構築することができる。事業所そのものをデバイスと考えてサービスを再構築してみるといいだろう。

 東京ガスは英国のオクトパスエナジーと合弁でTGオクトパスという会社を作り、オクトパスエナジーのブランドで日本市場で展開するという。クリーンエネルギーを販売していく電力会社ということになる(ガスもいずれ売ると思う。本国ではすでに販売しているのだから)。

 オクトパスエナジーは電力会社というよりも、自らをテック企業だとしている。同社が英国におけるいわゆる新電力でありながら、現在では英国6大電力会社(日本の旧一般電気事業者に相当)に匹敵する顧客規模に成長した。そこには、お客様に価値をもたらすのが何なのか、既存事業者とは異なる視点があった。英国のオクトパスエナジーのサイトを見れば、どんなサービスが提供されているのかがわかる。

 デジタルトランスフォーメーションが言われて久しい。しかしそれは単純にデジタル化すればいいという話ではなく、そのことがどのような価値をもたらすのか、その点をしっかりと考えていくことが必要だ。

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脱炭素サバイバルで生き残るための2つの方法とは 脱炭素・デジタル化社会で生き残るためのイノベーション戦略(1)

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連載5(2022.1.12)

野球チームからラグビーチームに

 気候変動問題やデジタル化など、ほぼすべての業種において、変革が求められている現在、LPガス会社も言うまでもなく例外ではない。この変化を乗り切るために、組織のあり方を変えるというのも1つの方法だ。というよりも、変化に耐えられる組織づくりが必要ということだ。

 3年ほど前、「ティール組織」というビジネス書がベストセラーになっていたことを憶えているだろうか。簡単に言えば、各個人が自律して動く、フラットな組織である。意思決定においても上下関係はない。

 会社においてそういった組織が成り立つのかどうか、疑問に思われるかもしれないが、実際に存在している。代表的なものとして、訪問看護師の事業所だ。ミッションは決まっているので、それに基づいて自律的に動くことになる。当然、意思決定もまた個人にゆだねられることになる。

 その点、一般の会社は、社長以下管理職がいて一般社員がいるという階層構造になっており、基本的に上意下達で動くことになる。また、意思決定においても上司の判断が求められる。

 旧来の上意下達型の組織は、変化に耐えられないのだろうか。おそらく、変化への対応は難しい。フラットな組織が優れているのは、こういうことだ。まず、意思決定が早い。だからこそ、変化に対応しやすい。

 徹底した上意下達型の組織というと、多くの人は軍隊を思い浮かべるだろう。しかし、実は米軍のマニュアルでも、現場の意思決定を重視したものとなっている。意思決定に時間がかかっていたら、戦況の変化に対応できないからだ。

 また、経営者なり管理職が変化に対応できなければ、上意下達の組織は機能しなくなる。そして、これまでの成功体験を脱却できない経営者というのはめずらしくないはずだ。むしろ、成功したからこそ経営者となっているといえる。だが、その体験が変化の障害となる。

 LPガス会社にあてはめてみれば、事業環境の変化はこれまでの方が今後よりは相対的に小さかったはずだ。そこでは、オール電化対策などをしながらも、LPガスの販売量を拡大し、さらに商材を拡大していくということは、そんなに変わらなかったし、だからこそ戦略を決めて現場がそれを遂行していくことで良かった。

 しかし、電化、脱炭素化、デジタル化が急速に進んでいく中で、どのような戦略をとればいいのかは、簡単ではないし、技術開発が商材を変化させていく。だからといって、目の前のLPガスの売上も必要だ。こうした状況で、経営者や管理職が素早い意思決定ができるとは限らないし、適切な判断をしていくためのリソースも不足しがちだ。

 こうした変化に対応するために、現場の意思決定を重視し、そのために組織をフラット化していくということになる。
 では、経営者の役割は何かといえば、ビジョンを明確にし、ゴールを設定することだ。LPガス会社においては、例えば脱炭素社会における地域のエネルギーのサプライヤーになるというビジョンではどうだろうか。その上で、ビジョンに対応した数値目標、例えば顧客軒数や売上げ、あるいはあるべき事業ポートフォリオが浮かんでくる。

 一般社員まで、ビジョンを徹底して供給し、ビジョンにそった意思決定を徹底していくことで、自律した組織になる。しかしそれだけではガバナンスの問題が生じるため、意思決定に対して後からレビューすることになる。

 野球は日本においては国民的スポーツだった。昨年末は日本シリーズが意外に盛り上がった(個人的には、東京ヤクルトのファン)。野球は監督が細かく指示を出して、選手がそれに応える形でゲームを行なう。そうしたスタイルが、日本人になじんだのだろう。

 その点、ラグビーはそもそも監督がいない。最初に戦略を立て、それを共有し、試合中は選手が自律的に動くことになる。

 もっとも、その野球も以前とは変わりつつあるようだ。東京ヤクルトの高津監督は常識にとらわれない投手起用が、長期にわたるペナントレースにおける勝因となった。日本ハムで今季から指揮をとる新庄監督(ビッグボス)は、そもそも指揮の前に選手の自律を求めているところがある。

 自律することには責任が伴う。フラットな組織のメンバーは、責任を背負うことになるが、それでも経営者が描いたビジョンに向かって、各自が激しく変化する事業環境に対応し、解を探しながら進んでいく、ということが、これからの組織に必要なのではないだろうか。

 また、そうすることで、成功体験を脱却し、常識にとらわれない発想で、事業を成長させていくことができるだろう。

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全労連に訊く カーボンニュートラル実現に必要なピースは「原発依存からの脱却」と「早期のエネルギー転換」

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自動車総連に訊く EV・FCVへの移行は「いばらの道」 自動車業界が脱炭素を達成する為の様々な課題

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連載4(2021.12.22)

ソーラーシェアリングって儲かるの?

 最近、ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)が知名度を上げている。テレビのバラエティ番組で取り上げられているのも見た。実際に、エネルギー基本計画で示された電源構成の数値目標を達成するためには、開発のリードタイムが短い再エネとして太陽光発電のさらなる拡大が必要とされるが、もはやメガソーラーの時代ではない。そのため、50kW以下の低圧太陽光発電とソーラーシェアリングへの期待が高まっている。

 太陽光発電事業は以前のようなものすごく儲かる事業ではなくなっている。固定価格買取制度の買取り単価はかなり引き下げられており、今から新たに建設するよりも、中古の発電所を買い取って、場合によってはリフォームした方が儲かるという状況だ。もっとも、その結果、中古の発電所の価格は値上がりしており、こちらも結果としては儲かるものではなくなっていく。

 とはいえ、近年は短期的な儲けよりも持続可能な長期的な利益への関心が高まっている。大手の金融機関、機関投資家ほどそうした傾向にある。その点でいえば、ソーラーシェアリングは持続可能な事業への可能性が開けているといえる。

 ソーラーシェアリングは、簡単に言えば農地の上に太陽光発電を設置するというものだ。ということは、農業なしには成り立たない。

 そもそも、ソーラーシェアリングでは固定資産税の低い農地をそのまま利用するという発想なのだが、野立ての太陽光発電と比較すると、それ以外のコスト構造も異なっている。架台は高くなるが、草刈りは不要だし、フェンスを省略するケースも多い。山奥につくるわけではないので、点検もしやすい。

 これを農業側から見た場合、副収入が得られるということが魅力だ。FITの買取り単価が高い時期は、売電と農業の利益が10:1ということもあったが、今ではそこまでの利益は見込めない。それでも、冬期であっても売上げが立ち、安定した収入になる点は魅力だろう。

 農家においては農業を引き続き営んでいくことそのものが問題なのだが、ソーラーシェアリングを設置することで、副収入を得ると同時に農業をせざるをえなくなる。もっとも、農業そのものも外部に委託することもあり得るが、公益的には農地が維持されることのメリットは大きい。

 畑の上に太陽光発電パネルを置いて、作物が育つのかどうかという疑問はあるだろう。実はけっこう育つ。パネルの割合にもよるが、多くの植物は一定以上の光があるとかえって育たなくなる。そもそも、植物の光合成の能力は、恐竜時代(中生代)に適応しているが、当時の大気中のCO2濃度は0.1%(1000ppm)で現在の0.04%と比較すると2.5倍だ。CO2濃度を上げて温室栽培することにも合理性がある。したがって、現在のCO2濃度においては、多少光が少なくてもあまり変わらないということだ。

 ただし、これはCO2濃度が上がり地球が温暖化した方が植物にとってはいいということは意味しない。急激な気温の変化に、移動できない植物は対応できない。

 さて、ここでソーラーシェアリングを紹介することの意味は、それがこれからのトレンドになるからではない。これまでの太陽光発電の開発事業者では、農業にアクセスすることが難しいが、その点では地域に根差した事業者の方が優位だということだ。農業振興は地域でLPガスを販売する事業者にとっても売上げを維持することにもつながるが、同時に一緒に農村地域の発展にも寄与できるということも魅力だろう。

 地域の発展やLPガスと同様の災害対策という面から、多少時間をかけてでも、ソーラーシェアリングの可能性を検討してみるというのはどうだろうか。

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ソーラーシェアリングの撤退理由から見る、生き残る条件

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菅直人は今、日本のエネルギーをどう思っているのか

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連載3(2021.12.08)

電力・ガス料金はもう安くならない

 昨冬の電力のスポット市場の高騰の記憶が残る中、この秋から再び電力市場は高値が続いている。一般消費者にとっては、今のところ大きな値上がりとなっていないが、JEPX(日本卸電力取引所)で電力を調達している新電力にとっては、厳しい状況となっている。

 実は、今冬の電力市場価格の高騰はある程度は予想されていた。というのも、電力の供給予備力が不足していたからだ。OCCTO(電力広域的運営推進機関)と資源エネルギー庁はどうにか3%を超える予備力を確保したとしていた。しかし10月にはすでに、高い気温と石炭火力発電の計画外停止によって一部の電力会社でLNGが不足し、市場価格は昨年秋を上回っていた。

 日本についていえば、予備力の不足は、旧一電(旧一般電気事業者)、いわゆる大手電力が老朽火力発電の休廃止を進めたことが原因だ。かつては猛暑のときだけ稼働する石油火力発電などがあったが、自由化の影響で採算がとれなくなり、休廃止したということだ。これを防ぐために容量市場という制度が導入されたが、確保された電源は2024年度以降であり、効果も疑問だ。

 一方、欧州でも電力の市場価格は高騰しており、とりわけ英国では電気料金の値上げに上限があることなどから、経営破綻する会社が相次いでいる。主な原因は、風況の悪化で風力発電の稼働率が低下したことと、天然ガス価格の高騰だ。そして、天然ガス価格については、日本のLNG価格にも影響を与えている。もちろん、同じ化石燃料であるLPGの価格も上昇している。

 春になれば、需要が減少し、価格も落ち着くとされているが、夏期や冬期には再び価格が上昇する可能性が高い。

 理由の1つは、OCCTOがまとめた供給計画においては、2022年の冬もまた、予備率が低いからだ。昨年、今年のように、火力発電の計画外停止や予想以上の寒波が訪れれば、市場価格は簡単に上昇する。

 もう1つの理由は、化石燃料の価格が高止まりすることだ。今後、中国などではLNGなど化石燃料の需要が高まっていく。しかしIEA(国際エネルギー機関)が示しているのは、新規油田・ガス田への投資の停止だ。進行中のプロジェクト以外は新規開発はしないということだ。これは2050年カーボンニュートラルの実現のためではない。逆に世界がカーボンニュートラルに向かっているため、新たに油田やガス田を開発しても座礁資産となってしまうからだ。

 先のCOP26(気候変動枠組み条約第26回締約国会議)でも、先進国の意思は、新たな油田・ガス田ではなく再エネへの投資を加速するというものだった。だとすると、十分な再エネが開発されるまでは、LNGもLPGも高値が続くことになる。少なくとも2030年頃までは高値で推移するだろう。

 こうしたことに加え、欧州は炭素税や排出量取引などのカーボンプライシングの世界規模での導入を主張している。これが導入されれば、ますます化石燃料の価格は上昇することになる。

 では、これはネガティブな状況なのかといえば、必ずしもそうではない。化石燃料の価格上昇は再エネや省エネの普及を促進する。また、そのことによって化石燃料価格を引き下げる可能性もある。また、とりわけ省エネが普及すれば、需要家の電気代やガス代は下がることになる。

 実際に、安価なエネルギー価格は気候変動を促進してきたし、電気代やガス代が日本の半分程度の米国では、日本の2倍近くも電気やガスを使っている。

 エネルギー事業者には、化石燃料が当面は高値で推移するということを想定して、事業計画を立てていくことが求められる。

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短期的な石油・ガス高騰にはクリーンエネ投資で、課題は途上国支援 IEA、世界エネルギーアウトルック2021を読む

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卸電力取引所の高騰は次の冬も危ない(このままでは)

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連載2(2021.11.24)

「有馬記念」がなくなる日

 社会はある瞬間に大きく変化することがあるが、その変化の背後には小さな変化の積み重ねがあります。未来を予測するには、その小さなことに注意していくことが必要です。そして、基本的には合理的な方向に変化します。

 例えば、ランドセルのメーカーは、10年後も残っているのでしょうか。ランドセルそのものがなくなっている可能性は十分にあります。なぜか。それは、そもそも「ランドセルは小学生が教材を持ち運ぶのに機能的ではない」からです。とりわけ小学校低学年の生徒にとって、ランドセルは重すぎます。教材を詰め込んだらなおさらです。もし本当に機能的であれば、大人もランドセルを使っているはずです。しかし、最近のサラリーマンはパソコンが入るようなリュックを背負って通勤しています。また、価格の問題もあります。リュックでも問題ないはずです。実際に、ランドセルが児童の身体に与えている悪影響も指摘されるようになってきました。

 ランドセルがなくなることについては、別の側面もあります。ランドセルはもともと、旧日本軍の兵士が背負う背嚢に由来します。それを言えば、学ランやセーラー服も元はといえば軍服です。そこには、最近話題となっているブラック校則との共通性を見出すことができます。髪の毛の長さや色といった身体を管理し、さらには下着の色まで管理しようするということは、制服による管理と共通していますし、ランドセルもその延長にあります。そういった人権を無視した管理が問題視されるようになってきたのです。

 制服については、トランスジェンダーに対応して女性のズボン着用なども認められるようになりつつあります。しかし、そもそも制服が学校に必要なのかどうか、いずれ問われるようになるでしょう。

 学校をめぐる、こうした小さな変化が、いずれはランドセル廃止につながっていってもおかしくはありません。その方が合理的なのであれば、基本的にはその方向に進みます。

 2030年のCO2排出削減の上積みも、急な変化ではありません。2050年カーボンニュートラルという流れは、2018年に発表されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)による1.5℃特別報告書が決定づけたものです。同時に、世界的な金融機関などによる気候変動問題を重視する姿勢は2000年代から拡大していました。

 もちろん、未来を正確に見通すことは不可能です。でも、可能性があることに対してはシナリオを用意する必要があります。2030年、EVが普及し、LPGスタンドが不要になっているかもしれませんし、LPGが炭素税によって高価格となり、オール電化の競争優位性が高まっているかもしれません。

 さて、年末の競馬といえば有馬記念です。でも、10年後には有馬記念、というよりも競馬そのものがなくなっている可能性があります。近年、動物虐待に対する批判がたかまっており、売れ残りが殺処分されかねないペットショップの存在が危うくなっています。競馬に対して批判の矛先が向けられる日は近いと思います。年間およそ7,000頭が殺処分されているということが、この先も見過ごされるとは思いません。競馬業界の人は、そろそろ競馬がなくなるシナリオを描いておく時期にきているとおもいます。

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連載1(2021.11.10)

エネルギー基本計画はたかだか中期経営計画にすぎない

 こんにちは。本橋恵一と申します。タスクフォース21の会合でも何度かお話しさせていただきましたが、初めての方も多いと思うので、自己紹介から。

 元々は環境エネルギージャーナリストです。1994年からやっているので、27年にもなるんでしょうか。LPガス業界だけではなく、電力・ガスはもちろん、気候変動問題まで、さまざまな取材をさせていただきました。「電力・ガス業界の動向とカラクリがよーくわかる本(第6版)」は最近出したばかりです。宣伝みたいで申し訳ないですが。

 現在は、afterFITという会社で、Energy Shiftという環境とエネルギーのニュースサイトの運営をする一方、afterFIT研究所の研究コーディネーターとして少し先のビジネスにつながる研究のプランを考えています。気候変動問題を考えると、どうしてもLPガス事業はネガティブなイメージを持たれてしまいそうですが、決してそんなことはないと思っています。さまざまなチャンスがあるし、とりわけ海外のエネルギー会社を見ていると、そのことを強く感じます。

 こうした視点から、定期的にいろいろなことを書かせていただきたいと思います。

 最初に取り上げるのは、先日、閣議決定されたばかりの、第6次エネルギー基本計画です。LPガスは社会を支えるエネルギーの最後の砦として位置づけられています。その一方、2030年温室効果ガス46%削減にあわせて、再生可能エネルギーの導入拡大や原子力の維持も示されています。エネルギー業界のそれぞれにとって、受け止め方が違うことでしょう。

 とはいえ、見誤ってはならないのは、これはたかだかエネルギーの「中期経営計画」にすぎないということです。ここで数値目標が示されたからといって、確実にその数字が達成されるわけではありません。むしろ恣意的な数値目標となっています。

 例として、2010年に閣議決定された第3次エネルギー基本計画があります。この計画では、2030年までに原子力を14基増設するということが示されていました。2000年以降、原子力の新増設がほとんどなかったにもかかわらず、次の20年間で14基です。電力会社は電力需要が伸びないために、原子力の建設を手控えていましたし、したがって新増設が大幅に進むとも考えていませんでした。ただ、温室効果ガス排出削減のための数値を合わせるための目標だったのです。

 震災があったとはいえ、この目標には実態はありませんでした。さらに言えば、その後の第4次・第5次エネルギー基本計画の電源構成も大幅に見直さざるを得ませんでした。

 今後、政府はエネルギー基本計画を根拠にエネルギー政策を進めていくことでしょう。とはいえ、エネルギー事業者においては、政府の恣意的な目標に振り回されるのは避けるべきです。政府の目標に沿った対応をした結果、東芝が原子力で大幅な損失を計上することになり、石炭火力の多くは座礁資産になりかけています。

 エネルギー事業者にとって大切なことは、自らのエネルギー基本計画をつくることです。さまざまな情報を収集していけば、より確度の高い見通しとなるのではないでしょうか。そうすることで、ビジネスチャンスがうまれてくると思います。

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送電の広域化と配電の分散化で、電気事業のビジネスモデルは進化する
国際大学 橘川武郎氏(Energy Shift 2020.2.4)

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第6次エネルギー基本計画案 GHG46%削減でも見えない経産省の危機感 日本企業のとるべき道は
本橋 恵一(Energy Shift2020.8.6)

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