ビジネスは時間を売っている-
――業界の現状を踏まえ、将来に向けた取り組みとしてはどのようなことが挙げられますか?
石井 まず、いま私が一所懸命考えていることからお話ししましょう。時代は大きく変ろうとしています。しかも猛スピードで。今までの10倍の速さ、つまりこれまでの100年で起こったことが今後10年で起きるかもしれません。私たちは10年先、20年先に世の中がどうなるかを踏まえて行動しなければいけない。
過去、社会が変わってきた要因、経済や社会が変わる要素は情報通信のやり方が変わったときと、運輸のやり方が変わったときです。情報通信と運輸が変わるのは、時空が変わること。時間の動く速度がものすごく変わっていくということです。
ビジネスは本当は何を売っているのか。それは、「時間を売っている」ということです。我々の業界も、かつては薪炭を売っていた。今でも薪炭で食事を作るほうが旨いと思うけど、薪炭だと火が安定するまでに30分以上かかる。毎朝そんなことをやっていられない。だから、瞬時に使える電気やガスを使う。家庭用エネルギーの事業者も時間を売っているのです。
輸送手段としてのクルマもそうですね。高いクルマにはステータスがあるかもしれないが、クルマは基本的にはA地点からB地点に速く動くために買う。つまりは、時間を買う。電車、飛行機もそう。利用者は時間を買っているし、事業者は時間を売っているのです。
情報もそうですね。我々がいろいろなグルメ本で情報を得るのは、自分の足で100軒行くより、それを見て選んで行けば時間が節約できます。情報を得ることは時間を得ること。本、そして現代のインターネット等の情報ビジネスも、全部時間を売っているわけです。
20年後の家庭用エネルギー消費は半分になる-
――各産業の動きも変わりつつありますね。
石井 今後の輸送分野の変化は、交通機関ではドローンの活用や自動運転などの形で変わってくるでしょう。そして、環境問題について世界がいよいよ本気になってきました。自動車業界も世界経済の覇者であった石油資本に気兼ねしていましたが、その縛りもなくなったようで、大手を振って電気自動車へのシフトを始めました。
最近の日本経済新聞が「ガソリンスタンドは20年後に半減する」と書いていましたが、自然にそうなるのではなく、政府は「20年で半減させると決めた」「20年で経済を変えるという合意ができた」と読むべきだと私は思います。
日本は最先端で少子高齢化社会を進んでいますが、これらも合わせると、日本で使えるエネルギーは半減すると私は見ています。少なくとも住宅関連はそうなるでしょう。
今後の日本は、オリンピックぐらいまではマンションも合わせた一般住宅の新築着工は、80万戸体制が続くでしょう。政府はそのうち3割くらいをゼロエネ住宅にすると言っています。でも今、日本には6,000万戸の家があり、うち15%が空き家です。既築住宅全体でリフォームするのは3、4割で、あとは取り壊しでしょう。
ドイツでは新築が20万戸しか建っていません。それらはソーラーと電気・ガス等のハイブリッドで、使用する以上にエネルギーを創り出すプラスエネルギー住宅。壁の厚さが40cmもあって、魔法瓶みたいな家。日本はまずゼロエネ住宅にすることが先決ということで、リフォームでは約40%くらいのエネルギーが出入りしている窓の改善あたりから始めることになるでしょう。それだけでも全体のエネルギーの3割くらいはすぐに落ちる。さらに住宅で使うものはトップランナー方式で、電気・ガス器具の性能がどんどんよくなってくる。だから、20年先の家庭用エネルギーの使用量は半分になります。
AIを活用したお客様ニーズの把握-
――私たちのビジネスも変革が必要ですね。
石井 エネルギーが半分しか売れなくなるとしたら、我々はどうするのか。単純に今の延長線上でやるとしたら、社員の給料を半分にするか、生産性を2倍にするしかありません。当然、給料を半分にすることは許されないわけですから、生産性を2倍にする取り組みが必要です。これについては、ITやAIを使ったり、我々の自動検針の技術を使ったりすることで可能でしょう。当社も具体的に着手しています。
しかし、今の延長線上だけで考えていは、未来はない。ITやAIもその観点から活用を考えねばなりません。
そもそも、我々の事業の本当のコアの力は何か。それは、お客様の信用です。信用で家まで入っていけます。このことは、これまでもさんざん言われてきましたが、ガスで食えているうちは、皆さんそれほど真剣でなかったのではないでしょうか。
当社はここを真剣にやる。他の業種と同じように「お客は動く」ことを前提に、お客様の不満の事前察知はもちろんのこと、お客様が「必要」を感じたときに、当社の社員がお客様のもとに先回りして出向くことができるしくみづくりを、めざしています。
お客様の信頼があれば、お客様の多くの情報を正確に集めることができ、AIの活用により分析します。科学的マーケティングを可能とするしくみは、LPガス事業者が地域顧客の信用を持つからこそ可能なのです。
今後の少子高齢化の影響でも、お客様のニーズは変わっていくでしょう。一般的に、高齢者はお金を持っているから販売のターゲットだと言われますが、その高齢者層もどんどん働かなければならない社会になっていきます。働きに出れば、その分、家庭での時間が取れなくなるから、そこで求められるサービスがビジネスになります。それは我々、LPガス事業者が手掛けられる分野だと考えます。そして、こういうビジネスを展開する事業者は、ガス料金を下げたり機器の無償提供等での顧客争奪戦からは離れていくでしょう。
同業者の中には、顧客件数拡大を至上主義にシェア1位をめざしているところもあるようですが、当社のめざすところは違います。ガスで全国1位をめざすのではなく、新しいビジネスのしくみを一番手で作り上げたい。そしてそのしくみは、全国の真面目で熱心な事業者と共有し、LPガス業界の新しいビジネスにしていきたいと考えています。いずれそれは、タスクフォース21のメンバーにもお知らせできるでしょう。
こうした取り組みを進めるには、1つは新技術に対する情報を集め、いち早く取り入れていくこと。そしてもう1つは、その技術を理解し、情報を集め、活用策を立案できる人材が必要です。今の当社の社員にそう育ってもらうことも重要ですが、スピードを速めるためには、異業種等から積極的に人材を獲得することも必要です。新しい人が、新しい発想で、新しい仕事に取り組んでくれることで会社が活性化し、既存の社員も変わっていきます。
もちろん、人材の獲得は簡単ではありません。報酬など条件のことだけではなく、トップが事業の将来像を明確にし、それを共有できる人物を探し続けるしかないのです。