インタビュー
「ガスと異業種の情報誌 taskforce 21」2018年1月7日号掲載


インタビュー03
私たちのポテンシャルを
LPガスだけに限定するのは“もったいない”
お客様の暮らし・住まいの相談相手となり、
リフォーム分野へ拡大を






 
株式会社カナジュウ・コーポレーション
代表取締役社長 牧野 修三 氏

 私たちタスクフォース21 の会長である株式会社カナジュウ・コーポレーションの牧野修三社長は、エネルギー大競争が始まった今、LPガス小売事業者のポテンシャルをLPガスだけに限るのはもったいない、サービスの見える化を料金の公表だけにとどめるのはもったいない、と発信を続けています。では、どう生かしていくのか、どう広げていくのか。自社の取り組みを踏まえた、LPガス小売事業者が今後目指すべき道をうかがいました。


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 エネルギー大競争下でLPガス小売業が選ぶべき道とは
転換点は、お客様の相談相手を進んで引き受けるか

――垣根のないエネルギー大競争が始まっています。私たちはその中で、今後どのように進んでいくべきでしょうか。

牧野 “ガス屋”であるわれわれのこれからは、お客様がどこに頼んでよいかわからないことを、“思わず相談したくなるような相手先”になることではないかと思います。ガス以外の相談を積極的に引き受けるか、それともお断りするか、ここが今後進むべき道の重要なターニングポイントであると考えています。
 私の提案は、LPガス小売業が本来保有する能力、ポテンシャルを、LPガスのサービスだけに限定しておくのはあまりにももったいない、ガス以外の相談を積極的に引き受ける側に回りましょうよということです。
 電力・都市ガス小売の自由化は、ビッグカンパニー同士が価格を下げて客をとるという、まさに価格競争戦、レッドオーシャンであって、誰も勝者のいない戦いになりそうな気がします。電力会社も都市ガス会社も、見ているのは「お客様の顔」ではなくて、「お客様の数」だけであるからです。
 その点、ガス屋であるわれわれは、「お客様の顔」を見つつ商ってきたので、そうした強みを生かしていけば、価格競争ではない、付加価値競争的なビジネスチャンスが開けるはず、その有力候補の一つはリフォーム事業ではないか、と思っています。


 お客様との関係性から見たガス屋のポテンシャル

――リフォーム事業は、われわれのポテンシャルがどう生かせますか。

牧野 カナジュウ・コーポレーションがリフォーム事業に取り組み始めたきっかけと、それから20年を経た現況を紹介すると、わかっていただけるのではないかと思います。
 まず、お客様側から見てみましょう。われわれの周りにはどこに相談していいかわからない“住まいの相談難民”がおられます。たとえば、家を建ててくれた工務店が倒産した、訪問セールスの勧めでオール電化したが、10年経ったら会社がなくなっていた。そこで、われわれに相談してこられるのです。
 どうしてガス以外のことを相談してくるかというと、お客様は水道屋さんの顔は知らない。でも、ガス屋は毎月検針と配送で来ているし、4年に1回は定期点検でも来る。だから、ガス屋の顔は知っている。ガスの配管や器具の修理ができるので、応用問題とも言える水道の配管や水漏れの修理もできるはずだ、と思われるのです。
 最初はあまり、そう連想されるとはわからなかったので、当社では「非想定業務」と名付け、いったい全体お客様はどんなことを相談してくるのかデータベース化したのです。
 1997年4月、最初は雨どいの修理でした。ハチの巣の駆除もありました。非想定業務はわれわれに経験がないので、言ってみれば素人。好意で引き受けても、こちらの手際が良くないと、「なんだ、おたくは素人じゃないか」とお叱りをいただくことにもなりかねません。
 でも、それをこわがっていたら、新しいことはできません。相談内容を見ていくといろいろありますが、でもすべて住まいに関することばかり。ホームドクター、“住まいの町医者”的な存在になってほしいという、お客様の期待感が見て取れます。


 継続的なお付き合いで生涯顧客になっていただく

――どうすれば“住まいの町医者”になれますか。

牧野 暮らしと住まいに関するさまざまな相談を受け、お客様の不満足を解決していくことで、ガスだけではない関係づくりを深めていくのです。お客様の生涯顧客化を目指すわけです。
 当社ではお客様サービス担当による事例発表会を定期的に実施しています。最近、「自分の意志ではなく都市ガスに切り替えたお客様は、継続的なお付き合いが可能(かも?)」という発表がありました。
 お客様としてはLPガスをずっと使いたかったのだが、ご近所との人間関係もあり、2010年の2月に都市ガスに替わった。そのお客様との接点履歴を見ると、それから2カ月後に、すまなさそうに「水漏れしているので点検をお願いしたい」と電話がありました。お客様は、ガス以外のことで相談するのは虫がよすぎると思われたわけです。当社にすれば「(都市ガス化後も引き続き)どんなことでも相談してくださいね」とひと言伝えておけば、そんなことにはならなかったはずです。
 しかしともあれ、そのあと、2014年9月ビルトインコンロ、10月汚水枡の改修、2015年1月洗面台の修理、2016年5月外水栓の交換、2017年5月和室床の間の改修工事、9月和室押入れ改修工事の引き合い(商談中)と、継続的な受注が続いているのです。
 こうした事例からもわかるように、お客様の様々なお困りごとに住まいの町医者として的確に対応し続けることで、お客様の生涯顧客化が図れます。
 当社がリフォーム事業を立ち上げたきっかけには、まさにそういう狙いがあったわけです。と同時に、“裏の理由”としては、リフォームをきっかけにしたガス供給先の離脱をなくしたい、そのためにはリフォームを引き受けようという狙いがありました。離脱事例は、リフォーム事業の展開でなくなってきています。


 ガス屋の特性を生かしたリフォーム事業の展開
仕組みから見たガス屋のポテンシャル

――われわれが持つ、仕組みとしてのポテンシャルにはどのようなものが挙げられますか。

牧野 お客様の潜在的な期待願望に応える仕組みとしては、たとえば、どの小売事業者でも備えている、24時間緊急対応という発生業務緊急処理能力があります。ガス漏れにすぐ対応できるから、水道の水漏れにも素早く対応できるのではないかというわけです。この能力は、普通のリフォーム業者さんにはない強みですから、差別化できるメリットもあります。
 ほかにも、「LPガス小売事業者が持つ潜在的な能力」とは情報保管能力、期限管理能力、調査能力、それに履歴管理能力、顧客口座などがあります。当社では特に、お客様との細かな接点履歴を生かしつつ相談に乗り、アドバイスさせていただいています。
 このような形でのリフォーム事業は、LPガス小売事業者が持つ潜在的なポテンシャルの展開であり、顧客・地域密着型のビジネス展開ということになります。すると、隣りの都市ガスのお客様もウチのお客様候補になります。今まではボンベの付いているお客様がウチのお客様でしたが、これからはそうした区分けを外し、私たちの持つポテンシャルをフルに活用していくのです。
 こうした取り組みを進めていくと、われわれはこれまでのエネルギー供給会社から、エネルギーを統合した、かつ利便性の高い“総合生活支援サービス”を提供する事業者へとステップアップすることになるかと思います。


 「押し売りはするな。ギラギラ感を出すな」

――そのためには、われわれのお客様対応も、長くお付き合いできるよう磨いていく必要がありますね。

牧野 当社では、お客様から相談を受けたら、その問題解決をお客様とコミュニケーションをとりながら進めていくよう徹底しています。そうしたお客様対応マインドをひと言で言えば、「押し売りはするな。ギラギラ感を出すな」ということになります。
 「何か具合が悪い」と相談したら、物を売りつけられたというようでは、お客様から町医者とは思っていただけないはずです。いっときの売り上げを狙うよりは、お客様の暮らし、住まいの相談窓口として認知してもらい、末永くいろいろとご注文いただいていこう。そうした考え方で臨んでいます。
 言い方を変えれば、マニュアル売りはしない、経年売りはしない、不完全燃焼の脅し売りはしない、ということにもなります。そういう売り方をする業者がいて、お客様は身構えている。だから、お客様への対応マインドを誤らなければ、親身になって相談できる会社として、信頼していただけるようになると思います。


 カナジュウのリフォーム展開から言えること

――そうした取り組みの結果、どのような成果が表れていますか。

牧野 履歴を調べてみたところ、一番金額が大きかったお客様は3,600万円、次のお客さまは2,400万円の売り上げになっています。毎年のように何かご注文をいただい結果、生涯顧客金額、ライフタイムバリューはこうなっているわけです。
 当社では、リフォームOB客向けの販売実績を、エコカナ、ソリューション、住宅環境の3部門に分けて月ごとにチェックしています。エコカナ部門では、エコカナにご来館いただき、一度でも販売実績につながり、なおかつ定期訪問が可能なお客様を載せています。定期訪問は、お客様に承諾をいただいて年3~4回訪問します。ソリューション部門のお客様はアパートのオーナー様で、1度以上当社にリフォームを発注いただいた方々。ここも定期訪問するようにしています。また、住宅環境部門はガス以外の完全なリフォームユーザーです。
 マーケットのポテンシャルを、このようにつかみつつ進めると、たとえば○○件のお客様があると年間○○万円ほどの売り上げが期待できる、それがビジネスラインに乗るかどうかがよく見えてきます。
 私は、こうした実績と予測も踏まえたうえで、リフォーム事業はガス屋がやってみるべきビジネスあると考えているわけです。


 独自展開の「エコカナ」が目指しているリフォーム戦略
ガス屋こそ最もお客様側に立った商売ができる

――貴社ではこれまで、都市ガスショップ、オール電化館、そして現在の「エコカナ」と、ショップを展開されてきていますね。

牧野 2005年に東京ガスのサービスショップを開設し、2009年に閉店、次いで同年にオール電化館を開設し2011年に閉店しました。閉店した理由は相性や先方事情によりますが、こうした中でそれぞれのビジネスモデルのノウハウを学びました。
 どちらにも共通しているのは、ライバルの商品は扱えないこと。東京ガスのサービスショップは電気製品を置けないし、オール電化館はガスコンロを置けません。
 それらに対しわれわれは、ガス、電気の両方を品揃えして、それぞれの長所と欠点をできるだけ公平・中立な立場で紹介し、お客様に選んでいただける。それが最もお客様の側に立った商売ではないのかなと思います。そういう思いから、2011年9月に開設し、独自ブランドを展開しているのが「エコカナ」です。


 “提案客”に絞り込みエコカナならではの付加価値追求

牧野 われわれの狙いは、電気・ガスの調理器具を入り口商材にして、広く住まいの相談窓口となり、リフォームへの事業を展開することです。注目していただきたいのは、ここでのターゲットは、もっぱらカナジュウのガスユーザー以外であること。エコカナを中心に半径4kmの円を描き、その中にある主に都市ガスのお客様をターゲットにしています。
 ホームページではこのため、設備概要などとともに、ショールームのスタッフも紹介するなどしてPRしています。また、リフォームポータルサイト「ホームプロ」から毎年度のように“顧客満足度優良会社”として受賞していることや、ジェルコのデザインコンテストで全国優秀賞を受けた(2015年度)ことも、さりげなく紹介しています。
 今年9月で終わった第52期は、メールでの問い合わせが87件、電話での問い合わせが213件、ホームページを見て直接来館いただいたお客様が386件、合計で686件ありました。うち、成約は131件。商売として成立できるメドが立ってきています。
 私は、当社にとってホームセンターはライバルではないし、ライバルにしてはいけないと考えています。われわれが目指しているのは、日々蓄積しているお客様履歴も活用しつつ、お客様の相談に親身になって乗り、付加価値提案をしていくこと。価格客は追いかけず、のちのちいろんなことがアドバイスできる提案客に絞り込む戦略をとっているわけです。


 今がなぜリフォーム事業開始の好機なのか
料金透明化をサービスの見える化へと高めよう

――貴今、改めてなぜリフォーム事業をアピールされるのですか。

牧野 われわれは今、LPガス料金を透明化するよう求められていますが、せっかく透明化するのなら、それにとどまっていてはもったいない、サービス全体の透明化をしたらどうか。資源エネルギー庁「液化石油ガス流通ワーキンググループ」で座長を務めた橘川武郎先生がわれわれに言われている透明化とは、私にはこうした“見える化”の勧めであるように思えます。
 具体的に言うと、たとえば「ウチはこんなサービスができますよ」とお客様に宣言する。“そんなサービスができるのだったら、おたくに頼んでみよう”と思っていただけるよう、この際しっかり自己PRしたらどうか。私にはこうアドバイスを受けているよう に思えるのです。
 橘川先生は「家に上がれるというコアコンピタンス」にも言及されています。これを具体化すると、定期点検でせっかく家に上がれるのだから、動線の範囲内で気が付いたことをリフォームの話題にしたらどうかということ。たとえば、「ちょっと台所の床がベコベコしていますね」と問いかける。それが、家に上がれるコアコンピタンスをビジネスにつなげることであると思います。
 私は、料金透明化への取り組みを一歩進めて、こうした関係づくりのチャンスにしていくべきだと考えています。


 まずガス顧客で成功事例をつくってスモールスタートを

――リフォーム事業を始めるときの留意点をお聞かせください。

牧野 われわれには、TVCMを使って展開するような空中戦は、資金的に無理です。だから「ONE To ONEマーケティング」を目指すべきです。そのためには、顧客情報が大事です。町医者を目指すということですから、カルテがないと医者とは言えません。特に、接点履歴です。訪問履歴、販売履歴、修理履歴などになりますが、できるだけ記録に残すことが大事です。
 そしてここも大切なのですが、立ち上げるとき、まずはLPガスのお客様の中から、住まいの相談窓口としての成功モデルをつくる。お客様とガスでつながっているわれわれにはつくりやすい成功モデルなので、 “スモールスタート”するわけです。
 次のステップは、LPガスでつながっていないお客様にもトライアルして、ここでも成功事例をつくること。たとえば、「隣りの○○さんは住まいのことでもいろいろご相談をいただいているのですよ」と紹介し、お隣りにも行くのです。このように、地域密着で“横展開”をしていきましょう。
 リフォームをリピート受注するには、お客様がリフォーム結果に大満足しないとつながっていきません。私どもはそのためにも、施工業者さんのマナー研修を年に1回はやっています。
 LPガスのビジネスとリフォームのビジネスとは、親和性が高いと言いますか、相性が非常にいいと感じています。これはリフォーム業界団体の方々からも何回もご指摘いただいています。すでに着手されている方々はさらにがんばっていただき、未着手の方々は私の話も参考にしていただき、取り組んでみたらどうでしょう。エネルギー小売自由化の中で、われわれの存在価値を追求して、ともに新たな成功モデルをつくっていきましょう。

<プロフィール>
牧野修三(まきの・しゅうぞう)氏
(株)カナジュウ・コーポレーションは、(株)鶴岡商会瀬谷営業所として現在地で業務を開始し、1965年瀬谷プロパン(株)、1973年神奈川住商(株)を経て、1990年に現社名となった。2007年以来、「ライフラインコンシェルジュ」を事業理念に掲げ、電気、ガス、インターネットなどのライフラインを基軸に、「お客様の住環境のあらゆる不満や不便を解決し、エコであたたかな笑顔のある生活づくりのパートナー」たる企業づくりにまい進中。
 1977年にオフコンを導入して販売・保安・配送管理の電算処理を開始し、1994年全社LAN、1997年イントラネットを開始、1999年からはクライアントサーバー型基幹システムDyneCS(販売・顧客情報管理システム)を運用。お客様情報の管理・活用に率先して取り組むIT活用企業として業界内外から高い評価を得ている(総務省、経済産業省、専門紙誌)。
 一方、新機軸の構築にも積極的に取り組み、1993年にCITYGASブランドを発足させ、LPガス業界初のホームページを開設。2000年ガス業界初のインターネットショッピング開始、2002年ハイブリッド・カウンタ導入による新料金メニュー発表、2006年ミネラルウォーター(アクアクララ)事業に着手。
 2007年からはリフォーム事業を強化。東京ガスサービスショップ、オール電化館展開を経て、2011年には独自ブランドの「エコカナ」をオープン。2016年の電力小売自由化では、東京電力と電力に関する販売代理契約を締結した。牧野氏は1971年に入社し、1990年に代表取締役社長に就任。タスクフォース21で1997年の創立以来会長を務めるほか、公益社団法人神奈川県LPガス協会で副会長職を歴任中。1947年4月、神奈川県横須賀市生まれ、70歳。


<株式会社カナジュウ・コーポレーション 会社概要>
◇社名:株式会社カナジュウ・コーポレーション
◇代表者:代表取締役社長 牧野 修三
◇本社:神奈川県横浜市瀬谷区橋戸1 丁目22 番地の12
◇創業:1963(昭和38)年1月
◇設立:1965(昭和40)年12 月
◇資本金:8,000 万円
◇社員数:55 名
◇事業内容:プロパンガス事業、ガス機器・電化機器販売事業・オール電化事業、リフォーム事業、アクアクララ販売事業、インターネットショッピング事業、賃貸物件オーナーサポート事業
◇ 関連会社: シティ・ガス株式会社(プロパンガスの仕入れ並びに卸、プロパンガスの検針業務代行、建築物の清掃及び建築物の各種設備機器の点検・保守・管理、コンピューターによる市場調査、財務管理の受託計算業務など)。シティネット株式会社(インターネットを利用した商品の販売及びサービスの提供、ウェブサイトの企画・制作・運営サポート及びコンサルティング業務)




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