連載第3回「寮」復活の兆し。
離職対策効果も
家賃補助への関心も高い
新卒採用を行う上で、最近の学生の企業選択の基準について紹介したが、その内容は「安心して働ける会社」を求め、そして「転勤はしたくない」ということであった。
「安心して働ける会社」としては福利厚生の充実が挙げられるが、就活生の回答(「『福利厚生』と聞いて就職する企業にあったら嬉しいもの・求めるもの」マイナビ大学生活動実態調査)によれば、その内容は特別・リフレッシュ休・介護・看護等の休暇制度、住宅・子ども・食事など各種手当、通勤費や通信費の補助、退職金制度といったもののほか、資格取得の補助など自己啓発支援も重要視している。
このうち住宅手当については、最近の就活生は家賃補助がいくらかという点も重視しているという。「定額なのか、家賃に対する○%なのか」「1人暮らしなら出るが、自宅通勤には出ないのか」など。こうした傾向に対応し、10万円までの家賃の70〜80%まで出す企業もあるようだ。
そして住宅については、最近「寮」についての関心が高まっている。ある会社は都心に快適な独身寮を保有しているが、大学の就職支援の職員から「これは貴社の売りになりますよ」と言われてはじめて、それに気付いたという。最近、ペットフードで有名な企業で、新入社員が大量退職したことがニュースになった。その中では、同社の社員寮が、極めて劣悪であることも報じられ、大きなイメージダウンとなった。ニュースは就活生だけでなく、その親たちも見ているのである。
社員寮については、三菱UFJ信託銀行が今年3月に発表した不動産マーケットリサーチレポートによると、人手不足時代となり寮の需要が増大しているという。
「寮」の新たな需要に注目
企業が整備する独身寮や社宅は、2000 年代以降、景気悪化に伴う法定外福利費の縮小や、資産効率の改善を重視する企業方針への転換などで急速に縮小してきた。ところが近年、物流業界や建設業界など人手不足深刻な業界では、業務経験や居住地を問わず、広く人材を求めるようになり、遠方人材が安心して勤務できる環境整備のため、単身者向けの寮を整備する動きが出ているという。
最近は1990 年代前半に大量に建設された寮の更新タイミングとなっている。この頃はバブル景気の影響もあり、労働市場は空前の売り手市場。企業が人材獲得のためにこぞって寮・社宅を建設した時期でもあった。社員の住居費経験を目的としたファミリー向けの「社宅」は、職場の延長でとかく干渉が多く嫌われたが、若年未婚労働者が増える中で、単身寮はプライバシーが尊重されたものであれば需要に「復活の兆し」があるという。
さらに、比較的離職率の高い若年労働者の早期離職防止の観点からも、社員間のコミュニケーションの活発化が期待できる寮への関心が高まっている。単純に住まいを提供するだけでなく、対話や学びの機会を住空間に併せて創出し、長期的な観点でエンゲージメント向上をもたらしうる施策として寮を位置付けている。企業が提供するシェアハウスのような場である。
もちろん、寮建設はその後の維持管理も含め莫大な費用がかかる。しかし、異業種大手企業が寮を武器に人材獲得を進めてきたら、対抗上、社宅借上げや住宅手当等での魅力づくりは必須となってくるだろう。
参考・出所/マイナビ 2025年卒大学生就職意識調査 ほか