「月刊LPガス」連載:2024年6月号~

LPガス事業者の
リクルートを考える

著:タスクフォース21雇用問題分科会

連載第18回採用母集団を広げる鍵は「多様な人材」
高齢人材は体力配慮と経験活用の両立で

広がる高齢者雇用
70歳雇用と多様な選択肢拡大

人手不足が常態化する中、採用母集団を広げる鍵は「多様な人材」の獲得だ。直近の雇用指標でも需給の逼迫感は続いており、有効求人倍率は2025年6月時点で1.22倍。求職より求人が上回る構図は崩れていない。獲得したい「多様な人材」としては、高齢人材・副業人材・外国人材があげられる。

LPガス事業者にとって、高齢人材・副業人材・外国人材の活用は、単なる人手不足対策を超えて、持続的な事業基盤構築の重要な要素ともなるだろう。

そこでまず、高齢者雇用について整理してみる。 2021年施行の改正高年齢者雇用安定法は、70歳までの就業機会の確保を事業主の努力義務とした(厚生労働省)。雇用継続だけでなく、業務委託など多様な選択肢で活躍の場を用意できる点がポイントだ。

少子高齢化が進む中、地域の高齢者は貴重な労働力資源である。実際、シルバー人材センターや自治体の生涯現役促進事業を活用すれば、地元に根ざした経験豊富な人材を確保できる。LPガス事業では、配送補助、検針、顧客訪問同行、安全巡回など、体力負荷を抑えつつ経験を活かせる業務が多い。

新人へのOJTや顧客関係維持など「技能伝承」の役割を担ってもらうことで、単なる人員補充にとどまらない価値を発揮できる。高齢人材の活用は、人手不足解消と企業文化の継承を同時に実現する戦略となる。

労働条件明示と安全重視で
コミュニケーション面も

採用時には安全と健康面への配慮が不可欠だ。重量物運搬や高所作業は原則避け、業務内容を明確化する。勤務時間は短時間や週数日など柔軟に設定し、本人の生活リズムや体力に合わせる。再雇用者にも安全教育や健康診断を定期実施し、無理のない働き方を保障する。

法律・制度面では、定年後再雇用時も労働条件の明示義務があり、労働時間・賃金体系・休暇制度を契約書で明確にする必要がある。労災保険は週所定労働時間が20時間未満でも適用される。雇用保険は65歳以上でも一定条件下で加入可能だ。65歳以降は在職老齢年金制度による支給調整があるため、本人に事前説明を行う。

安全面では、定期健康診断の実施、業務適性の確認を行い、体力や視覚・聴覚の低下を前提に職務設計する。つまずき・転倒防止のための作業環境整備(段差解消、照明改善、滑り止め設置)も重要だ。

労務管理面では、短時間勤務・週数日勤務・時差出勤など、生活リズムに合わせたスケジュール設定を行う。職務内容と成果に応じた給与設計とし、年齢による一律減額は不当差別となる場合がある。成果や貢献度を客観的に評価する基準を設け、納得感を高める。

コミュニケーション面では、長年の知見を活かせる環境を提供し、意見を取り入れる姿勢を示す。デジタル機器操作が必要な業務にはIT研修やマニュアルを用意する。シフトや業務割当で他世代との交流機会を確保し、孤立を防ぐことも重要。

先進企業の制度改革も参考に
長期定着を実現

高齢者雇用の例(厚生労働省「高齢者の活躍に取り組む企業の事例」) では、太陽生命保険が65歳定年制度導入後、希望者は70歳まで継続雇用可能にし、役職定年を廃止、年齢による処遇引き下げを撤廃した。イオンリテールでは定年後に「エルダー社員」という正社員区分を設け、同様の役割・処遇を維持。再雇用者にも管理職登用の道がある。

YKKは定年制を廃止し、成果や役割に基づく評価制度を導入。実力主義を推進し、年齢に関係なく貢献できる体制作りを行っている。ダイキン工業は定年を65歳に延長し、役職定年制と年齢による賃金下げを廃止。高齢者も安定した処遇で活躍できる基盤を整備した。

独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構では、70歳以上の継続雇用、戦力化・人事制度の改善など、多様な取り組み内容で約260社の事例が検索・閲覧可能だ。この中には「希望者全員に継続雇用」「役制度を改めた成果評価型」など、柔軟な制度導入例が多く含まれている。これらの注意点を押さえておくと、労務トラブルや安全事故の防止につながり、長期的な定着率も高まる。

ページの先頭へ戻るボタン