「月刊LPガス」連載:2024年6月号~

LPガス事業者の
リクルートを考える

著:タスクフォース21雇用問題分科会

連載第16回福利厚生重視時代の到来
初任給と制度充実競争

若手層の価値観変化
安定ベネフィット志向が顕著

企業向けに福利厚生サービスを提供するベネフィット・ワン(東京・新宿区)が2025年6月に発表した「勤務先選びに関する実態調査」(期間:5月3日〜7日、20〜60代の正社員1000人対象)によると、若手層(20〜30代)の約6割が「賃上げが難しくても福利厚生の拡充を望む」と回答した。

調査結果では、勤務先選びの重視項目で「福利厚生が充実している」と回答した人は全体で21.3%にのぼり、勤続3年未満の若手ほどその志向は強い。さらに、「企業を選ぶ基準として福利厚生を重視する」と答えた割合は65.9%に達した。

同社では、「変動するボーナスや少額の賃上げよりも、税制面や支出軽減につながる安定的な福利厚生を好む“安定ベネフィット志向”が顕著になっている」と説明。若手の実に3人に1人が、給与よりも制度の安定性を評価しているという。

安定ベネフィットとは、企業が従業員に提供する福利厚生のうち、特に「安定」というキーワードで捉えられる、将来への不安を軽減し、生活の安定を支援するような制度やサービスを指す。具体的には、退職金制度、住宅手当、財形貯蓄制度、社員食堂、各種保険などが挙げられる。

近年の人手不足を背景に、企業にとって福利厚生制度の充実は採用力と定着率アップの重要施策となっている。調査では、福利厚生代行サービス導入企業においても「利用しやすさ」「公平性」「地域格差解消」への要望が高いことが明らかになっている。

大手エネルギー企業の
処遇強化が鮮明に

一方、初任給の動向を見てみると、求人情報ポータルサイト各社の掲載内容によると、2025年4月に入社した大手エネルギー関連企業の新卒初任給は、学部卒で26万〜30万4000円程度、修士了で28万5000〜32万2000円程度と、他業界に比べて高水準となっている。博士課程修了者については、一部企業で月額34万円超を提示している例もある。

これは、資源・インフラ分野における技術者や総合職人材の確保競争が激化するなかで、優秀な人材を早期に囲い込む狙いとみられる。特に理系出身者に対しては、研究開発職や技術系総合職としての配属を前提に、修士・博士レベルでの処遇強化が図られている。

福利厚生についても手厚い傾向があり、多くの企業が独身・家族向け社宅、借り上げ社宅制度、住宅手当を設けている。住宅補助は実質家賃の8〜9割を会社が負担するケースもあり、実質的な可処分所得向上に寄与している。ほかにも、退職金制度、確定拠出年金、財形貯蓄制度、持株会、健康診断・人間ドック費用補助、ベネフィット・ステーションのような外部福利厚生サービスの導入などが見られる。

また、近年では一定期間の総労働時間を定めたうえで従業員が始業・終業時間を自由に決められるフレックス勤務や在宅勤務制度の導入、産前産後・育児・介護休暇の整備も進んでおり、働きやすさを重視する志向に対応する動きが各社で広がっている。

今後の採用戦略は
「制度の魅力」が鍵

こうした傾向から、若手中心の福利厚生重視は、企業にとっての“投資負担”ではなく、むしろ“応募倍率を左右する基準”になりつつあるとみられている。賃上げ競争には限界があり、また初任給のみのアップは全体のバランスを壊す。賃上げが困難ななかでも、企業が福利厚生充実に注力すれば、採用市場での存在感が高まる可能性があるようだ。

また、エネルギー産業の採用戦略については、先端化・再編が進むなかで、処遇や制度の整備はもはや“選ばれる企業”としての前提条件となっているという。今後は給与水準だけでなく、キャリア形成支援やワークライフバランス対応の進度が企業イメージを左右するとの見方を示している。

これらを見ていくと、企業が単純な賃金競争から脱却し、総合的な働く環境の魅力で勝負する時代の到来を示しているともいえる。福利厚生制度の充実は、もはや採用における「差別化要因」ではなく、「必須条件」として位置付けられているのである。

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